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ホワイトバレンタイン

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御人良雄はじめてのバレンタインデート

「感激ですっ、まさか、まさかオレにバレンタインデートのご指名が来るなんて!!」
 御人良雄は感激のあまり涙を流した。
 生まれてきて16年。この16年間、一度もデートなんてしたことなかったのに……!
「あ、あのね。全然、何もデートとかじゃないんだけど……」
 立川るる(たちかわ・るる)が説明しようとするが、良雄の耳にはまったく入ってない。
「ああ、デート……デート……。これでクリスマスとかにサンタさんに向かって『カップルすべてが滅びますように』とか祈らないんでいいんすね!」
「良雄くんそんなこと祈ってたんだ……」
 るるは良雄の肩をポンポンと叩き、彼を宥めた。
「ダメだよぉ、せっかく四天王になったんでしょー? 四天王って、よくわかんないけどすごいんでしょ?」
 その言葉に良雄を取り巻いていたモヒカンたちが色めき立つ。
「よくわかんないけどスゴイだあ!?」
「テメェ、A級四天王の良雄様を捕まえて、その言い草はなんだ!」
「このお方はなぁ、ドージェ様をひざまずかせた唯一のパラ実生なんだよ!」
「ご、ごめん……」
 るるはイルミンスールの生徒なので、それほど四天王の価値が分からないと言うだけだったのだが、彼女の言葉はモヒカンたちの逆鱗に触れたらしい。
 ただの四天王でなく、A級。
 A級はS級とほぼ変わらない格があり、S級かA級かは生徒会の役員か否かくらいしか変わらないと言われているほどだ。
 しかも、良雄はドージェをひざまずかせたとして、もやはパラ実では伝説の人物なのだ。
「や、やめてくださいよ、るるさんが怖がって帰っちゃったらどうするんですか。それに、オレがA級になったの知ってるってことは、それだけカップル狩りに付き合ってくれたって事なんですから……」
 モヒカンが詰め寄るのを見て、良雄が慌てて、そこに割って入った。
 良雄の言葉通り、良雄がA級四天王になったと知ってると言うことは、それだけるるが良雄に付き合ってくれたと言うことなのだ。
 多くの人は1度や2度、良雄に付き合っただけなので、良雄がA級だということを知らない。
 だから、それを知っていて覚えていてくれたことも、良雄は感激なのだ。
 良雄に止められ、モヒカンたちは平伏した。
「すみません、良雄様!」
「今すぐ、るる様にお椅子を!」
「あ、い、いえ、お構いなく……」
 るるはモヒカンたちにそう声をかけ、ちょっと悩んだ。
「良雄くんのことがどうしても気になって、本命のリンネちゃんをあきらめて来たんだけど……これで良かったのかな」
「どうしても気になって?」
「うん、カップル狩りを割と付き合ってあげたけど、連絡先とか知らないから。キマクに来れば会えるかなとか思って」
「ますます感激ですっ! オレのことがどうしても気になって! 本命を振り切って! 会えるかも分からないと思いながら、オレを探しに来てくれたなんて!」
 良雄はじっとるるを見つめ、彼女の持つバッグに注目した。
「もしや、チョコなどと言うものが……」
「あ、う、ううん。これはエコバッグ。良雄くん、四天王になったから、MMK(モテてモテて困っちゃう)になってるかなーと思って」
 るるは持ってきたエコバッグを良雄に渡した。
 ちなみにるるはお菓子を作っても「あれぇー? レシピ通りなのに……」ということが起こるタイプらしい。
「はい、るるからのプレゼント。チョコをたくさんもらって大変だろうから、チョコを入れるのに使ってね」
 良雄が受け取ると、るるはうんうんと頷いて良雄に説いた。
「恋人ができないのをパートナーのオーマさんのせいにするの、よくないよ。きょうびゴブリンだってチョコがけゆるスターを贈ったりしてるのに。だから、良雄くんも今日を機会に心を入れ替えて……」
「…………」
「良雄くん?」
「初めて女の子からプレゼントをもらいました!!」
「え……?」
「うれっしいです! 感動です! あ、でも、せっかくるるさんからプレゼントをもらったのに、お返しするものが……」
 お返しがないことに、良雄が悩みだし、頭を抱える。
「え、いいよ、そんなの。お返しが欲しいなんて思ってないし。それより、これからはカップル狩りなんてしないで、せめて、カップル狩り狩りとか、日本文化禁止委員会狩りとかにしてくれれば……」
「そうだ!」
 パッと明るい笑顔で良雄は手を打った。
「るるさんにD級四天王をプレゼントです!」
「はっ……?」
「オレ、何もお返しできるものがないので。どうぞもらってください!」
「え、ええっっ!」
「るるさんにもしものことがあったら、モヒカンが駆けつけますから! だから、安心してくださいです!」
「る、るる、まったくそんなつもりじゃ。そ、そうじゃなくて、良雄くんにエコバッグいっぱいのチョコがもらえるように、がんばってもらおうと思ってただけで」
「エコバッグいっぱいにチョコをもらえばいいんすね。じゃあ行きましょう!」
 良雄がるるの手を引いて、キマクに繰り出した。
 るるから初めてのプレゼント(エコバッグだけど)をもらい、バレンタインデート(るるは1つたりともデートと思ってなんていないけれど)に誘ってもらった良雄は自信を付けて、今まで声をかけられなかったパラ実の女の子たちの声をかけ始めた。
 声をかけられて、女の子たちは騒ぎ出した。
「良雄様が声をかけてくれたわー!」
「もしかして、これってA級四天王のオンナになる機会!?」
 そんな噂はあっという間に広まり、我も我もとチョコを獲りに行って、それを良雄に贈った。
「るるさん、いっぱいになったっすよ!」
 良雄はエコバッグどころか積むほどの量になったチョコを誇らしげにるるに見せたのだった。
 るるは「おー」と拍手したが、このことがきっかけで、良雄が大きく変わっていくことを……るるはまだ知らない。