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ホワイトバレンタイン

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女の子たちのバレンタイン

「……あー腹減った……」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)の言葉にミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は目を丸くした。
「なんだ、姫やん。昼飯食べてないのか?」
「食べたぜ。とうもろこしのお粥」
「あのほとんど水だけのか……孤児院に行って一緒に食べてきたんだろ」
「ああ、孤児院のみんなにも、もっとうまいものを食べさせてあげたいんだが、イリヤ分校のこともあるし、金が……」
 和希はパラ実イリヤ分校生徒会会長でもあるのだ。
 一生懸命いろんなことに頑張っている和希を心配し、ミューレリアはその肩をポンと叩いた。
「姫やん。頑張りすぎて、姫やんが倒れちゃったら、元も子もないだろ? ちゃんと食べようよ」
「でもなあ……」
「そうだ。私が良く行くレストランがあるんだよ。良かったら夕飯を食べに行かないか? おごるぜ」
「お、サンキュ、ミュウ。喜んで行かせてもらうぜ」
 和希は気軽に付いて行ったが、行った先はヴァイシャリーの高級レストランだった。
「いらっしゃいませ、ラングウェイ様」
 挨拶を受け、会釈を返して普通に入っていくミューレリアを見て、和希はミュウはやっぱりお嬢様なんだなあと思いながら付いていった。

「おお、うまそうだな! しかも、すっげー綺麗」
 出てきた料理を見て、和希は目を輝かせた。
 目にも楽しいその一皿を、和希が美味しそうに食べるのを見て、ミューレリアは笑顔を見せた。
「いっぱい食べてくれよ。味もかなりいいと思うぜ」
「おう!」
 和希は前菜に手をつけ、サラダをパクパクと食べた。
 ミューレリアはナイフで綺麗にたたみながら、レタスなどを食べている。
「何で畳むんだ」
「一口にするって教えられたからなあ」
 特に意識してやっていたわけではないらしく、ミューレリアは質問されて逆に不思議そうに答える。
 スープが出てくると、和希はずずずっとそれを飲み、近くの人がちょっとこちらを見たりしたが、ミューレリアは気にせずに飲んでいた。
 しかし、エビ料理が出てきて、和希はいつもどおりの行動をしてしまった。
「お、エビうまそうだな。いっただっきまーす!」
 手で掴み、バリバリッと殻を外して、食べ始める。
「…………」
「ん?」
 隣の席の人が自分を見ているのに気づき、同時にミューレリアがナイフとフォークで食べているのに気づいて、和希は慌てた。
「え、ええと……」
「どうぞ、お客様」
 気を利かせたウエイターがフィンガーボールを持ってきてくれた。
「あ、さ、サンキュ」
 和希はそれを受け取ると、中の水をがっと飲んでしまった。
「あ……」
 止め損ねたと言う顔をしたミューレリアと、なんとも言えない顔になったウエイターに、和希はさらに何が起きたのかと困った顔をする。
「えーと……俺、何かしたか?」
「その、姫やん。エビってこうやって食べるんだ」
 ミューレリアがフォークでえびの頭の方を抑えて、ナイフを身と殻の間に入れて身を外す。
「さっきの水は……?」
「姫やんが手でやっちゃったのを見て、ウエイターさんが気を利かせて、指を洗う水を持ってきてくれたんだよ」
「あれって洗うものだったのか」
 その後、和希はミューレリアに倣い、エビをナイフとフォークで食べようとしたが、隣のテーブルにエビを飛ばしてしまったり。
 デザートではミルフィーユをバラバラにしてしまったり。
 お皿の上の芸術といわれるフレンチを、見事にぶっ壊して、和希とミューレリアはレストランを出たのだった。

「ごめんなぁ……ミュウ」
 レストランを出た和希は、しょぼんとしてミューレリアに謝った。
「いや、私の方こそごめんな。支配人も私の友達だから百合の子だと思ったらしくて……今度来るときはハンバーグとか食べやすいもの出してくれるって言ってたからさ。また行こうぜ」
「あ、ああ……」
 味はすごく美味しかったけれど、親友であるミューレリアに恥をかかせてしまったことを、和希は気にしているらしい。
「……ちょっと待ってな、姫やん」
 ミューレリアはそう断ると、和希のそばを離れて歩いていった。
「…………」
 (ミュウにあきれられちゃったかな……)
 そう落ち込みかけた和希の目の前に、パッと可愛い包みが差し出された。
「はい、姫やん!」
「え……」
「チョコ! 今日バレンタインだろ。漢を目指す姫やんにプレゼントだぜ」
「おお、ありがとうっ」
 和希は喜んで包みをバリバリッと開け、中のチョコを摘んで食べた。
「うわーー、うっめーー」
 あまりのおいしさに、和希はチョコを全部平らげてしまった。
「ふう、満足満足……あっ」
 空っぽになったチョコの箱とびりびりに破れた包み紙を見て、和希は反省した。
「わ、悪い。うまくって、つい……」
「いやいや、姫やんが喜んでくれたならうれしいぜ」
 恐縮する和希に、ミューレリアはニコッと笑顔を見せた。
「いつも姫やんは私の知らないパラ実風の遊びや考え方を教えてくれるし、何かお礼がしたかったからな」
「ミュウ……」
 ミューレリアの笑顔を見て、和希は何かを決意し、ミューレリアに言った。
「ちょっと待ってくれな、ミュウ。すぐに戻るから!」
 今度は和希の方がミューレリアのそばを離れ、しばらくして何かを手に持ってきた。
「ミュウ、これ……」
「え?」
 和希が差し出したのは、動物の角と革紐で作ったチョーカーだった。
「手作りで悪い。俺がシャンバラ大荒野で狩ったやつの角なんだけど……」
「ううん、手作りの方がうれしいぜ」
 本当にうれしそうに笑顔を見せるミューレリアの首に、和希は自分の手でそのチョーカーをかけてあげた。
「武骨で百合園のお嬢様には似合わないかもしれないけれど……」
「あはは、私はお嬢様って柄じゃないし。それに姫やんが作ってくれたものだもの、うれしいよ」
「うん、お守り代わりにくらいなるといいなって」
 和希はミューレリアの首にかけてあげたチョーカーに祈った。
「いつも傍にいてやることはできないから、無茶の多いミュウを俺の代わりに守ってくれ」
 可愛いミューレリアを守ってくれるように、と和希が祈る。
 すると、チョーカーに触れた和希の手に自分の手を重ね、ミューレリアも祈った。
「姫やんこそ、たくさん無理をするから……。気をつけてな。何かあっても助けに行くけど、でも、どうか自分を大事にしてくれ」
「ミュウ……」
 見上げたミューレリアに見つめられ、和希はちょっと照れた。
(な、なんだか変な気分だな……)
 そう思いながら、和希は今までより一段とミューレリアが可愛いなと思うのだった。