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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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「ドジソン、外の人手が足りない。ここは任せて外に出ようぞ!」
 グレゴリアは、ドジソン・キャロルと名乗っているルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)に携帯電話で連絡を入れると先に外に飛び出した。
「こっちは大丈夫よ、行って」
 ルイスに警備を依頼した亜璃珠の言葉を受けて、ルイスも外へと飛び出す。途端、再び携帯電話がなる。
 この辺りには電波塔はない。つまり、パートナーの誰かからの電話だ。
『ホールから喫茶店に向っていた女の子が何者かに攫われたようだ。お前はそっちに行ってくれ』
 通話口から聞こえたのはロボの声だった。
「了解」
 短く答えて電話を切り、ルイスは喫茶店の方へ走る。

「あっちに逃げたよー!」
 小型飛空艇に乗って、警備をしていたテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が川の方を指した。
 入場を断られたパラ実生が付近にたむろしており、目が離せない状態であるためテレサ自身はその場から動かず、ルイスに任せることにした。
 ルイスはパートナーのサクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)と合流をすると、喫茶店の脇を抜けて川の方へ走る。
「……放して……っ」
「大人しくしていろ! 楽しい場所に連れていってやるぜ!」
 抵抗する小さな少女を抱き上げて走る者の姿が目に映る。
 声と体格から、男性と思われる。
 顔は覆面で覆われており分からない。
 格好はパラ実生が好むツナギ姿であった。
「兄さん……」
 捕らえられて悲しそうな声を上げているのは、ショコラッテだ。パートナーの達に頼まれて、チョコレートを渡しに行った帰りに、男に捕まってしまったらしい。
「船で逃げられたら厄介です。その前に捕らえますよ!」
「了解しました」
 ルイスとサクラは2方向に分かれ、男を横から挟み込むように迫っていく。
「くそっ、見つかったか!」
「ショコラちゃん!」
「ショコラッテなのか!?」
 騒ぎに気付き、樹とフォルクスが喫茶店から飛び出してくる。
「ぞろぞろ出てきやがってー!」
 男は抱えていたショコラッテをバーストダッシュで迫るサクラの方へ思い切り投げる。
 ヴァルキリーのサクラは慌てて腕を広げて、ショコラッテを受け止めた。
 途端、男はバーストダッシュを使って川の方へと走る。ルイスはナラカの蜘蛛糸を放ったが、男に届きはしなかった。
「何があったんですか!?」
「大丈夫ですか」
 料理を担当していた百合園生や、協力者達が次々に喫茶店から飛び出してくる。
「ショコラちゃん、大丈夫!?」
「兄さん……」
 駆けつけた樹に、ショコラッテがしがみ付く。
「中に戻ってください!」
 男を途中まで追いかけたルイスだったが、追うよりも護衛を優先すべきと考え喫茶店の方へ戻り、百合園生達に呼びかける。

 男――久多 隆光(くた・たかみつ)はバーストダッシュを連発して走り、分校から随分と離れた河原においてあったバイクを道に引き上げる。
「上手くやってくれよ、悠司」
 エンジンをかけると、アクセルを全開にして走り去る。

 ……レティシアと共に、神楽崎分校側までやってきた悠司だが、ハーフフェアリーを捕らえる方法については、これといって考えてはいなかった。
 だが、分校付近で探っていた獣人のイル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)が、子供を1人連れて悠司と合流を果たしたのだった。
「……警戒が強く、敷地内には入れなかったんだが、この子は何故か外に1人でいた」
「伝言を頼まれてたんだよぉ。あと、罠に誰かかかってないか時々見て回ってたんだよぉ」
 イルから貰った大きなキャンディを舐めながら、その子――ハーフフェアリーのイリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)は怖がりもせずに眠そうな顔でそう言った。
 隆光が騒ぎを起こし警備が手薄になっている隙に、イルが声をかけて手招きしキャンディを見せたら、イリィは嬉しそうに寄って来たのだ。
 その後、巡回する分校生達をやり過ごし、「もっとお菓子をあげる」と言って手を引きここまで連れてきたのだった。
 数十分。警戒しながらその場で待ってみるが、目的の人物――マリルが一人で出てくることはなかった。

○    ○    ○    ○


 キュアポイゾンを使える者も沢山おり、ホール内の混乱は短時間で治まった。
「皆、ありがと、ひくっ……ユズー……」
「ここにいます」
 涙は止まったものの、まだ時折しゃくりをあげながら真希はテーブルにつっぷしていた。
「ごめんなさいね」
 分校長の亜璃珠は、被害に遭った百合園生に声をかけながらホールの中を見回っていく。
 あらかじめ報告は受けていた。これは予測できたことだ。
 それでも、パーティは行うべきだと、今後もこういった交流は続けるべきだと思っているけれど……。これが、致死量の毒物だったら。取り返しのつかないことになっていたことも事実だ。
「誰だァ。変な薬入れやがったのは。ああゆーのは、俺等だけのパーティで楽しむモンだろ!」
 分校の番長、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、怒鳴り声を上げる。
「ロシアンルーレットとかでな縲怐I」
「罰ゲームで飲ませたりする薬だよな」
 パラ実生達は、百合園生達を案じながらそんな会話をしている。
 麻薬や、殴り合いよりも、パラ実生としては軽いお遊び系の薬のようだ。
「あいつ等は百合園生が作ったものばかり食べていた。そして、百合園生達はあいつらが用意した料理も食べている。薬を混入させた犯人はパラ実生側にいるってことがわかるわね」
 亜璃珠は深くため息をついた。普通に分校に通っている人物の中に、複数犯人はいるようだ。
 今回は警備や規制を厳しくしたことで、軟派ではないパラ実生の多くから反発も出ている。特に女生徒に関しての配慮がなかったため、面白くないと感じた女生徒もいたと思われる。
「色々な立場の、様々な考えを持つ人々を受け入れるのって、本当に難しいことよね……」
 呟きながら、亜璃珠は皆の様子を見て回るのだった。
「ぐぅう……」
 竜司もまた、普段なら気にする必要もないほどの事なのだが――百合園生達が被害に遭えば、もらえるチョコレートの数が減るだけではなく、自分の女と思い込んでいる神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に迷惑がかかる。
 この程度のお遊びならまだしも……。
「悪意や殺意は感じられませんな。ちょっとしたお遊びのつもりでしょう。……しかし、この事件。ここを離れる理由になるかもしれませんな」
 アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)が竜司に近づいて、光学迷彩を使って行っていた観察の結果を報告する。
 実は竜司には迷いがあった。
 竜司はパラ実生ではあるが、パラ実の生徒会に目をつけられている。
 その自分がここで番長を務めていたら……いずれこの分校に迷惑をかけてしまうだろう、と。
 ただ、細かいことは気にしない多くのパラ実生は理解していないことだが、この神楽崎分校は現在キマクに存在する百合園の在外公館のような場所になっている。
 パラ実生徒会としては、百合園に分校という名の橋頭堡を築いている事実が重要であり、この分校でどのようなことが行われていようとも、百合園の重役である神楽崎優子が治めている限り、口も手も出してくることはないのだが……。

「中も外も落ち着いたみたいね」
 テレサが、あぜ道を巡回しているロザリンドの元に下りてくる。
「殺気を感じることもありませんでしたし……多少の悪戯行為があっただけ、でしょうか?」
「攫われそうになった子もいたけど、計画的ってわけじゃなさそうだったしね。眠らせたりもしない、口も塞がない、挙句、解放して逃げたみたいだし。で、これどうする? 警備に回っている人とか、入れずに帰っていったパラ実生なんかも映ってると思うよ」
 テレサが飛空艇に括り付けておいた、ビデオカメラを外す。特に怪しい人物は光術で照らして撮影してある。
「私から団長に届けます。鮮明には映っていないと思いますけれど、何か不審なものも映っているかもしれませんしね。ありがとう、テレサ」
 ロザリンドはテレサからビデオカメラを受け取った。
 軽く触れた二人の指先は、互いにとても冷たかった。

 騒ぎが治まった直後に、封印解除を終えた一行は分校の喫茶店に帰還した。
 マリルは完全に意識は失っておらず、芳樹に支えられて戻り、喫茶店の休憩室に運び込まれた。
「子供達は……無事ですか……?」
「皆無事だよ、大丈夫」
 マリルの言葉に、まだ確認は取れていなかったが、静香がそう答えた。
「少し眠ってください」
 有栖がマリルにヒールをかけた後、上着を脱いで彼女にかけてあげた。
 マリルはかすかに微笑んでそのまま深い眠りに落ちていく。
「……ライナから連絡がありました。別荘から一緒に来た子供達は全員無事だそうです。少し騒ぎはあったようですが、悪戯程度であり、事なきを得たそうです」
 鈴子が携帯電話を手にそう報告をする。
「そっかよかった」
 静香、そして共に封印解除に向った者達は、ほっと胸を撫で下ろした。

 ただ、それが単純な悪戯だけではないと、ここに集まっている者は皆わかってはいた。
 今後は、この程度では済まされないと。