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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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 セオボルトに助けられたミューレリアとバニラは、演習場にあるヒポグリフ用厩舎に降下した。そこには、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)、そしてロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)のパートナーの剣の花嫁アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)がいた。
 「どうした、負傷か!?」
 ぐったりしたミューレリアとバニラを見て、イレブンが駆け寄る。
 「いや……ちょっと休ませてくれ……」
 命綱を外してやると、ミューレリアはなかば転げ落ちるように鞍から降りた。カッティは、バニラに手を貸して降ろしてやりながら、ヒポグリフが怪我をしていないかチェックする。
 「怪我は特にないんだね。でも随分疲れてるみたい。お水を飲ませて、餌をあげて、少し休ませよう」
 人間同様、ヒポグリフも、慣れないことをさせられて疲れてしまったようだ。カッティが水の入った桶を前に置くと、さっそくくちばしを突っ込んで飲み始める。幸い、アデライードが戦闘が始まる前から水の確保をしていたこともあって、ここには水は豊富にある。
 「幾らマニュアルを作っても、知識だけではどうしようもないこともあるってことかぁ……」
 地面に座り込んで、ミューレリアはがっくりと肩を落とした。
 「特にこういうことは、乗騎も乗り手も訓練が必要だし、信頼関係も築かなきゃいけないし、実際にヒポグリフと触れ合ったり、訓練した時間が必要だよな」
 落胆した様子のミューレリアにウーロン茶の入ったカップを差し出しながら、イレブンは苦笑する。そこへ、ヴォルフガング・シュミットとエルダの乗ったヒポグリフが降りてきた。
 「すまない、こちらにも水と餌を」
 「今準備いたしますわ」
 アデライードが、貯水タンクから桶に水を移し、ヴォルフガングたちの所へ運んで来る。
 「ありがとう」
 自分もイレブンから貰った烏龍茶を飲みながら、ヴォルフガングが短く礼を言う。その表情がどこか苛立たしげなのを見て、アデライードは首を傾げた。
 「どうかなさいましたか? 体調が悪いのでしたら、救急キットを用意してありますが……」
 「いや、別に怪我をしたわけではないんだが。実は……」
 ヴォルフガングはむっつりとした表情でアデライードに話を始めた。

 「これは、予想外だわ……」
 防壁の上の監視所から戦闘の様子を見上げて、香取 翔子(かとり・しょうこ)は呟いた。
 確かに、ヒポグリフ隊には欠点がある。防具をつけているとは言え、飛行機と違って乗り手が生身むき出しで乗らなくてはいけないため常に転落や負傷の危険に晒されていること、飛竜に比べて戦闘能力や速度が低いこと(ただし、遅い分ヒポグリフの方が小回りはきく)、飛行機と違って大型の機関銃など重たいものを積めないこと、などだ。
 しかし、ヒポグリフ隊の生徒同士、そして地上の生徒たちとの連携は、それを補って余りあった。セスナやオートジャイロなどを少数投入するより、よほど役に立っている。乗りこなすのが難しいのではないかとか、部隊としてまとまった行動が取れないのではないかという翔子の懸念は、ほとんどが杞憂に終わった。
 (ヒポグリフ隊など戦力にならないと主張して、『白騎士』が伸張するのを妨害したいと思っていたけど、これだけ戦力になるところを皆に見せられてしまうと、そんなことは出来ないわね……)
 これでは、欠点をあげつらっても、あらさがしをしているようにしか見えないだろう、と翔子は唇を噛む。その目の前を、ヒポグリフに乗ったヴォルフガング・シュミットとエルダが飛び過ぎた。まるで、お前はそこで何をしているのだ、そんなことをしている場合かと言いたげに。