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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回
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約束と、重ねる努力


 奈落魔道へ行った弁天屋 菊(べんてんや・きく)親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)の帰りをただひたすら待っていたガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は、二人の姿をイリヤ分校で見ることができた時、手紙を落としていた井戸の横から思わず駆け出していた。
 火口敦と董卓について得たことは、敦はザナドゥにいるらしいことと董卓はナラカで魔物と大食い大会をやっていることを知ったくらいで、実際に会うことはできなかったのだが、ガガは菊と卑弥呼が無事に戻ってきたことを心から喜んだ。
 そして、目的の人物に会えなかったことで落ち込んでいるかと心配もしたが、二人は案外元気で次の行動に意欲的だった。
「董卓様が戻ってきた時のために、畑を作物でいっぱいにしないとね!」
 卑弥呼はすっかり荒れてしまった畑へ、配下を連れて行ってしまった。
 菊は菊でバイオエタノール精製設備の修理へいく。修理といっても、もともと作りかけだったのを壊されてしまったので、ほとんど一からやり直しなのだが。
 そんな二人を見送ると、ガガも配下を引き連れて作業場へ向かった。彼女の担当は校舎の建設だ。このために土木建築について勉強してきた。
 特に反対意見もなかったので、ガガは新たに校舎やグラウンドのデザインから始めた。慣れないことだが、これから自分達がここで学んでいくのだと思うとやる気が出てくる。
 授業ができて、運動ができて、畑や牧場があり、寝食を共にする場所がある。
 畑の位置はそのままに、今後広げることも考慮して周辺をあけておいた。それから、同じく牧場予定地。
 校舎は鉄筋コンクリート……は、無理だったので、前の校舎でも利用した日干し煉瓦で造る。
 グラウンドは広くした。
 他、たくさんの生徒を賄えるだけの厨房に食堂、寮棟。
 配下達の意見も取り入れた。
 全てが完成するのはまだまだ先だが、何事も一歩ずつが肝心なのだ。
 まずは、すっかり荒れてデコボコになってしまった土地を平らにするところから始めた。
 現場監督を務めていたガガは、卑弥呼の様子を見に出た。
 そこでも似たような作業が行われていた。
 伸び放題になっていた雑草を抜き、小石を排除する、そして硬くなった土をほぐす。
「最初はパラミタトウモロコシだけどね。いつかは、自給自足できるような畑にしたいな──董卓様のために!」
「芽のうちに食べられないように気をつけないとね」
「それはないでしょ」
 笑う卑弥呼に、ガガもつられて笑った。
 次に向かった菊のところは、何やら重苦しい空気が漂っていた。
 校舎の残骸を日除けにし、設計図と睨みあっている菊。設計図には赤ペンでの書き込みや、その他細かなメモがびっしりと詰まっていた。
 ガガには何が何だかわからないが、菊もそうなのだろうか?
「菊──」
 そっと声をかけた時、菊は頭を抱えて空に向かって吼えた。
 びっくりしたガガの伸ばしかけた手が引っ込んだ。
「ダメだダメだ! ここじゃ直せん! というか、あたしじゃできない!」
 叫んだ後、悔しそうに再度吼える。
「……菊、どうした?」
 今度は呼びかけたガガに、菊は途方に暮れたような目を見せた。
「バイオエタノール精製機、今のあたしの力じゃどうにもできないってことがわかった」
「そうか……。その、それさ、作るのもいいけど買うのはどうなんだ?」
「手っ取り早いけど……」
 菊は盛大にため息をつく。
「いくらかかるんだろうねぇ……」
 前は砕音の伝手で必要な部品も技師もあったが、ここが戦場になった時に技師は逃げ出してしまい、部品もどこかへいってしまった。設計図だけはどうにか見つけたが、菊にわかったのか『部品が足りない、仮にあったとしても組み立てるための技術がない』という現実だった。そして、精製機は大変に高価なのだ。
 落ち込む菊の背をガガが慰めるように撫でた。
「いっぺんにはできないよ。できることから、少しずつだ。ガガは、その図が何を表しているのかわからないけど、菊はわかるようになったじゃん。一生懸命勉強したから。いつか、菊がそれを組み立てられるようになるか、ここの収益金で買えるようになるまで諦めずにがんばろう」
 今のところ、収益金になるのはパラミタトウモロコシだ。
「先は長いなぁ……」
「でも、希望はあるし、実現不可能な夢じゃないだろ」
 その通りだと頷く菊。
 菊は設計図を丸めると、立ち上がって思い切り伸びをした。
「少し、気分転換してくるよ」
 そう言って畑のほうへ歩いていく菊を、ガガは穏やかに見送った。