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嘆きの邂逅(最終回/全6回)

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嘆きの邂逅(最終回/全6回)
嘆きの邂逅(最終回/全6回) 嘆きの邂逅(最終回/全6回)

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〇     〇     〇


「飛行系のキメラは北塔上空に集まっています」
「指揮者がいなくても、全て北塔の方に向っていますね」
 クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は小型飛空艇に2人乗りしながら、キメラの動きを探っていた。
 クリュティはメモリープロジェクターで映像を投影し、自分達の姿を周囲に溶け込ませている。
 あくまで映像でしかないので、完璧に隠れることは出来ない。
 レイナは隠行の術を使っておくが、映像同様、過信はせずに注意を払いながらある程度の距離を置いて、キメラの様子を探っていく。
「指揮者のような人物はいません」
「地上にも見当たりません」
 クリュティとレイナはこまめにパートナーの閃崎 静麻(せんざき・しずま)に連絡を入れる。
 ふと地上に目を向けたクリュティは眉根を寄せた。
「庭に出て、キメラを見上げている人物の姿があります。避難していただいた方がいいのでは」
「攻撃を加えなければ、襲ってくることはないようですが、指揮者が合流した際には襲うよう指示が出る可能性もあります」
 クリュティとレイナはそれぞれ、そう静麻に話すのだった。

「ここは頼んだ。遊撃隊と共に、俺も北に向う」
 離宮の中央の上に当たる運河付近で、ヴァイシャリー軍人と迎撃準備をしていた静麻は、本部やパートナー達からの連絡を受けて、遊撃隊と共に北へ向うことにした。
 キメラを率いていた男――ヒグザはまだここに戻ってはいないが、北にキメラが集まっているということは、そちらにヒグザかソフィアが訪れ離宮へ転送をする可能性が高いだろう。
 ヴァイシャリーを襲うためのキメラなら、そこに集める必要は特にないと思われる。
 機関銃を小型飛空艇に固定し、移動砲台としたものを遊撃隊の軍人に預けてある。
 自分は光条兵器で参戦予定だ。
 離宮が緊迫した状況であることから、東塔の上に配置された軍人の一部は離宮に下りることになると連絡も受けており、念の為中央から東に少し軍人が派遣されることにもなっている。
 その他に、北塔の方にキメラが集まっていることから、北側への50名の移動も静麻が提案し、受け入れられている。
 静麻は繋ぎ役として立ち回り、そのように軍へ意見も述べていた。
 東西南北中央のキメラ動向監視は2〜5名を一組とし、空からキメラが来た場合に他の所から十字砲火で迎撃を行えるような配置をと提案してみるが、一つの案として聞き入れられるものの、軍人達は臨機応変にそれぞれの隊長の指揮の下、動くことになるようだ。
 地球人よりもパラミタ人中心の彼等の方がこういった対処やヴァイシャリー防衛に関する知識はあるのだ。ただ、武具兵器は教導団に劣るし、接近戦で攻められたのなら契約者のような体力がないため、前線は契約者に任せたいところだった。
 無論、静麻はそのつもりで、遠距離用武器での参戦を提案しており、軍側に聞き入れられ、彼等は銃や弓矢を揃えて集中砲火に適した隊列を組んでいる。
「危ないよ! 避難しなきゃダメだよ!」
 静麻の上空を空飛ぶ放棄で飛んでいた閃崎 魅音(せんざき・みおん)が、近くの屋敷の方へと下降していく。
「うちにはシェルターがあるから平気さ。滅多に見られるものじゃないからね。観賞させてもらうよ。ああ、食糧や医薬品の提供などの協力はさせてもらうから、必要なら来るといい」
 庭に出ていた男がそう答える。
 離宮が浮上したら被害を受けると思われる場所だ。
 危機感のなさに静麻は息をついて、本部へと連絡をしておく。
「任せられる分は、そちらで対処頼む」
 それから、静麻は【アルマゲスト】のメンバーにも連絡をいれるのだった。

「そろそろ合流ポイントです」
 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)は迷彩塗装で姿を隠し、時折キメラの集団に攻撃を加えて挑発している。
「よし、浮上予定地の広場だ」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、隠形の術を解いてキメラの前に姿を現し、自分の方へと誘導する。
「こっちよ、こっち!」
 リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)はバーストダッシュで移動してキメラをひきつける。
 誘導しているキメラは全て獣型キメラだ。
 キメラ製造所であるジィグラ研究所が制圧されて随分と経ち、検問にひっかかる船ももうなかった。
 頃合を見て、河原でしとめ切れなかったキメラを、3人は軍人が配備されている西の塔の方へと誘導したのだった。
 広場には、遠距離武器を構える数十名の軍人と待ち伏せしている仲間達の姿がある。
「待たせたな!」
「おう!」
 牙竜の声に答えたのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だ。
「待ち侘びたぜ」
 その側で、橘 恭司(たちばな・きょうじ)がにやりと笑みを浮かべる。
「準備は完了しています」
 軍人や仲間との連絡を担当していたエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)が手を振りながら声を上げる。
「作戦開始の連絡入れるね」
 リリィは広場へ飛びながら、携帯電話で本部にいる武神 雅(たけがみ・みやび)に連絡をする。
 雅はラズィーヤとの面会を求めたのだが、彼女は本部にはおらず、これまで特にラズィーヤとの接触は無かったため直接邸宅を訪問することは出来なかった。
 だが本部を通して、【アルマゲスト】の協力の申し出はラズィーヤの耳に入っているだろう。
『逃さないことだけを考えろ。その周辺にはまだ避難していない輩もいるようだ』
 更に、雅からは直接、牙竜にも精神感応で報告が入る。
 牙竜は「無論、逃がしはしない」と答えて、前方を見据える。
「武力介入を開始する。終わらせるぞ、不死身の田中! ミスター社長! 戦術予報師静麻!」
 正悟が牙竜、恭司。そしてここにはいないが静麻のコードネームを叫ぶ。
「アルマゲストとして、これより武力介入を開始するぞ。覚悟しやがれ!」
 牙竜もまた吼える。
「さて、ショーの幕開けだ!」
 恭司が刀を手に地を蹴る。
 キメラ数十匹が目前に迫っている。
 合図を受けた軍隊が、一斉射撃でキメラに銃弾を浴びせていく。
 射撃後に、恭司が斬り込む。
「久しぶりに暴れられそうだ……楽しませてもら……いや、ヴァイシャリーの為に!」
 高鳴る気持ちに押されながら、恭司は刀をキメラに叩き込み、更に接近し、さざれ石の短刀を刺していく。
「硬い身体だが!」
 普通の生物より耐性があるらしく、簡単には石化に至らないが、何度も刺し続けるうちに、体の一部が石化していき、キメラの動きが鈍っていく。
「今は、守るために戦います!」
 誰一人死なせたくはないという強い意思を持ち、エミリアは恭司に近づく。
 パワーブレスをかけた後、後ろに飛んで仲間達にもかけていく。
「【アルマゲスト】のメンバーが前線で戦います。軍の方々は接近されたら盾で防ぐことを優先してください」
 エミリアは軍隊の側に立つ。広場の周りには貴族の邸宅が建っており、家に残っている者もまだ少なくないという。
「一匹たりとも逃がす訳ねぇだろ」
 広場の外へ走り出そうとするキメラの前に、正悟がバイクで回り込み、バイクから飛び降りると刀をキメラの上から振り下ろす。
 ガキン
 甲羅のような背に攻撃は阻まれる。
 キメラは太い前足で、正悟をなぎ払う。後方に飛ばされながら、正悟は氷術を放ち、直後に地を蹴ってキメラの方へと跳び、爆炎派を放った。
「砕けろ!」
 ヒビの入ったキメラの背に、力任せに刀を叩き込む。
「グギィィィギ」
 キメラの背が割れて、体に刃が食い込む。暴れるキメラに体を打たれながらも離れず、正悟は刀を押す手に力を込め、より深くキメラの体を斬る。
「一刀両断ってわけにはいかないがッ!」
 正悟は刀をキメラの体から抜くと、再び爆炎波をキメラの顔に放ち、暴れるキメラの下方から刀を突き刺して、腹を貫いた。
「く……っ。東側に弾幕を!」
 広場から出そうになるキメラを発見し、牙竜が軍隊へ声を張り上げる。
「西防衛隊撃て!」
 隊長の声が飛び、軍人達が一斉に射撃をして足止めする。
「続けて頼む。合図を出したら止めてくれ!」
 言って、牙竜は軍隊に弾幕を張らせ、敵に接近し合図を出した後、隠形の術でキメラの群れの中に入り込む。
 そしてトラッパーの知識で、しびれ粉を有効的にキメラに振り撒きしびれさせていく。
「お休みの時間だぜ!」
 動きの弱まったキメラに、マシンピストルで至近距離から弾丸を撃ち込んでいく。
「後ろ。でも襲いっ!」
 牙竜の後ろに迫ったキメラに、リリィが浮かびながらライトニングウェポンをかけた諸葛弩で矢を放つ。矢はキメラの背に直撃した。
「サンキュー。痛みを消してやるぜ」
 奇声を上げて暴れるキメラの頭に向けて、牙竜は銃を撃った。
「キメラ後方を狙います。爆風に注意して下さい」
 注意を促した後、リュウライザーが六連ミサイルポッドを立て続けに放つ。
 雨のようにミサイルが降り注ぎ、爆発が起こり、後方のキメラに深いダメージを与える。
「右前方撃て!」
 隊長が声をあげ、離脱したキメラに軍人達が一斉に銃と矢を放った。
「任せろ!」
 弾丸と矢を何本も受けて倒れたキメラに、恭司が駆け込んで刀で全ての頭を切り落とし、胸に突き立てて確実に止めを刺す。
 一旦下がった牙竜、傷ついた仲間達にエミリアが近づく。
「皆さん、しっかり!」
 そしてリカバリで癒す。
「……!」
 そのエミリアに、ヒョウのような姿のキメラが上空から飛びついてくる。
「下がれ!」
 正悟がラスターエスクードを持ち、キメラを弾き飛ばす。
 口を開き、鋭い牙を光らせながらキメラは正悟に飛びかかる。
「くっ……ケリをつけるぞ!」
 エミリアを背に、正悟はキメラを盾で防ぎながら、爆炎波を放つ。
「ああ、そろそろ終わりにしよう。終演の時間だ」
 恭司がキメラの顔にさざれ石の短刀を何度も突き刺し、石化させた後離れる。
 軍人の一斉射撃が行われ、更にリュウライザーが機晶姫用レールガンを放つ。
「悪いが容赦は出来ない」
「ここが墓場だ」
 弱ったキメラに、正悟、牙竜が止めを刺していく。
 誘導時に逃がしたキメラは皆無ではないが、2隻目以降の船で運ばれたキメラはアルマゲストの奮闘により、ほぼここで終焉を迎えた。