天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

仮初めの日常

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仮初めの日常

リアクション

「お時間いただいてもよろしいでしょうか」
 会場に戻ったラズィーヤは皆と合流する前に、刀真に呼び止められた。
「……構いませんわ」
 真剣な面持ちの彼にそう答えて、彼と彼のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と共に、部屋の隅へと向う。
「離宮問題の解決に関してですが……。十二星華の血を触媒にして、封印術や女王の血を必要とする女王器を使う為の装置や儀式の研究ができませんか? ……蒼空学園と共同で」
 その提案にラズィーヤの眉がぴくりと揺れた。
「別室で話を伺いますわね」
 すぐに微笑みを浮かべると、ラズィーヤは刀真、月夜を連れて別の部屋へと移ったのだった。

 刀真の提案はこうであった。
 十二星華の血はクイーン・ヴァンガードからティセラ達の物を供出。ティセラ達には、射手座のサジタリウス――アレナを救う為と説明すれば可能と思われる。
 イルミンスールが帝国に対しての防衛力としてイナテミスを成立させたように、ヴァイシャリーも防衛力としてアレナを得たい筈、人柱から解放はそれに直結する。そして研究が進めば双方の利益に繋がるはずだ。
 また、ラズィーヤに語りはしなかったが、蒼空学園の校長、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)には、東の首都と共同研究を行う事で繋がりを地球へアピールする事が出来ること。それは下がっている影響力の回復に繋がるだろうこと。
 そしてアレナやラズィーヤ、神楽崎優子に対して借りを作る事ができる。
 その辺りの利点を提示する予定だった。
「激昂のジュリオの封印を解けば、離宮の結界にほころびが出来て、転送術で転送が可能になる?」
 刀真が説明を終えた後、月夜がラズィーヤに問う。
「アレナさんがどのような封印を施したのかは知りませんが、6騎士の封印と同じように離宮のシステムを利用し……ジュリオ・ルリマーレンの封印以外の場所を再封印したのであれば、送ることは可能だと思いますわ。正し、ソフィアさんほどの術者のあてはありませんし、ごく少人数ずつでしょうけれどね」
 術を増幅させる女王器もアレナと一緒に眠りについていると思われるから、それも当てにはできない。
 それでも転送が出来る可能性があるということは、大きな希望だった。
「離宮に残っている兵器の研究施設はそのまま残ってる。ヴァイシャリーの戦力として使うことが出来るのでは?」
「封印を一箇所だけ解いた状態での長居は難しいですわ……地上ではかなりの時間が経過してしまいますもの」
「地下から持ってきた資料を調べておいて、現地での調査は素早く行ったらどう? これらの技術が使われた兵器に襲われた時の対処にも使えるかもしれないし、これも環菜を通して共同研究ができればと思う」
 月夜の言葉にラズィーヤは深く考えた後、2人にこう答えた。
「提案は大変ありがたいものですけれど、蒼空学園に話を持ちかけることはしないで下さいませ。なぜなら、ヴァイシャリーはエリュシオンの監視下にあります。公に共同研究は行えませんし、秘密裏に、しかも戦力増強ともいえる技術研究で繋がっていたと判明した場合、窮地に陥る可能性があります」
 それからラズィーヤは魅惑的な、どこかしら挑戦的な微笑みを浮かべて、刀真を見た。
「十二星華なら、東シャンバラにもおりますわ。こちらだけでもその研究を進めることは可能でしょう。ですが、反発も出かねない研究と思われます。事情を良く知り、発案者である貴方に陰から手伝っていただけますと、嬉しいのですけれど。百合園に転入しません?」
「百合園は女子高ではないかと……」
 刀真の言葉に、ラズィーヤはにっこり微笑んだ。
「女装した男子の入学も歓迎いたしておりますの」
「お断りします」
 刀真は即答した。
 その後、刀真は月夜と顔を合わせて息をつく。蒼空学園には大切な人がいる。離れるつもりはない。
 ラズィーヤは「残念ですわ」とくすくすと笑っていた。

 密談を終えて会場に戻った時には、子供もいることからそろそろお開きにしようという流れになっていた。
「ラズィーヤ嬢、お手紙をお預かりしました」
 オレグがラズィーヤに近づいて、志位 大地(しい・だいち)のパートナーである出雲 阿国(いずもの・おくに)から受け取った手紙をラズィーヤに渡した。
 手紙には不参加の侘びと、百合園に関しての提案が書かれていた。
 ラズィーヤはざっと目を通しただけで、この場では何も言わなかった。
「皆、本当にありがとう。これだけじゃお礼はしたりないけれど、何かの際には僕も協力したいって思っています。これからもどうぞよろしくお願いします」
 静香が締めの挨拶をし、会場からは拍手が沸いて打ち上げはお開きとなった。

 ラズィーヤはオレグに付き添われて、外へと出る。
 校門の前には、迎えの馬車が着ており、使用人達が彼女を待っている。
「空をご覧下さい」
 オレグが手を空へとむける。
 日はとっくに暮れていて、空に星が瞬いている。
 そして……今晩は満月だった。
 柔らかな月明かりが、百合園女学院に降り注いでいた。
「綺麗ですわね。この辺りは学院以外建物もありませんし、星の光が良く見えますわ」
「屋上で花火観賞を行ったようですが、望遠鏡を用意して、星座観賞も楽しめそうですね」
「そうですわね」
 ラズィーヤは微笑みをオレグに向けた。
「オレグさんもお疲れ様でした。用意してくださったお茶とお菓子、とても美味しかったですわ」
「もったいないお言葉です」
 オレグはラズィーヤをエスコートして、馬車へと向い、彼女をヴァイシャリー家の使い達に預ける。
 そして、深く礼をして美しき憧れの人を見送った。

 終了後も、会議室では談笑を続ける者や、片付けを始める者達が残っていた。
「ご馳走さま〜♪ ミルミお腹いっぱいっ」
「待って待って、ミルミちゃんもお片づけ手伝ってー」
 執事と一緒に家に帰ろうとするミルミをアルコリアが引き止める。
「一緒にお片づけしてみない? 部屋が奇麗になるのって、結構やってみたら気持ちいいよー?」
 歩も空いた皿を片付けながら、ミルミに声をかける。
「お片づけかあ……ミルミあんまり得意じゃないよ」
「楽しくお片づけ、お片づけ〜」
 歌うように言いながら、アルコリアは歩と向き合うと手を繋いだ。
「らぶりーぱわーでへんしーん!」
「魔法少女☆あゆむん、只今参上! 心も奇麗にしちゃいます!」
「魔法少女マジカル☆あるにゃん、呼ばれてないのに即、参上!」
 歩、アルコリアが変身!で魔法少女に変身して、ポーズを決める。
 ペットのゆるスターも一緒に可愛らしく鳴き声をあげる。
「うっわー! 可愛い可愛いっ」
 羨ましそうに、ミルミは2人の姿を見る。
「あれ? 歩ねーちゃんとアルコリねーちゃん、何でそんな恰好してるの?」
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)は驚き顔だ。
「また魔法少女ー! や、やめてよー、ボク恥ずかしいんだからー」
「ふふっ、2人とも変身は出来なくても、着替えることはできるよう?」
 アルコリアの言葉に巡は首を左右に振る。
「ぼ、ボクは絶対着替えないからねー!」
「ミルミも変身したい!」
「ミルミねーちゃん興味あるの? で、でも褌とか締めなきゃダメなんだよー?」
 以前、巡はふんどし魔法少女に着替えさせられてしまったことがあるのだ。
「え……!?」
 ミルミが2人のスカートに目を向ける。
「締めてない締めてない」
 歩はくすくす笑っている。
「そ、そっか。えっとそれじゃ片付け始めよう」
 巡はほっとする。
「ミルミちゃん、お手伝いちゃんと出来たら魔法の国に浚……連れてってあげる!」
「ホント〜? じゃ、お手伝い頑張ってみるね」
 ミルミはご機嫌になって、なれない手つきでお皿を片付けていく。
「最初は2枚くらいづつ運ぼうね」
 歩は重ねた皿をミルミに渡す。
 皆でミルミに片付けを教えるように付き添って、一緒に片付けていく。
 褒められることを、自分自身の手で行えば、きっとミルミのことも褒めてくれる人も出てくると思うから。
 そんな人が増えたら、ミルミも色々頑張れるのではないかと思って。
「ミルミも魔法の国で魔法少女になるんだ〜。ポーズ考えないと〜♪」
 少女達は、笑い合いながら楽しく片付けをしていくのだった。