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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
薄闇の温泉合宿(最終回/全3回) 薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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「分が悪そうですが、交渉が決裂した際にはどうするつもりですか?」
 会議室に向かいながら、ハンスがそっと梅琳に問いかけた。
「道中、強引にでも……奪い返すことになるわね。裁判という名目で、ユリアナを奪うことが東シャンバラ――エリュシオンの目的なのでしょうから、やむをえないわ」
「ですが、ヴァイシャリー移送まで待つと、その前にレストと契約させられる可能性もあるのではないでしょうか?」
「彼が契約を望んでいればね。ユリアナの方は望んでいそうだけれど……」
 ならば、交渉が決裂したその場で動くべきかもしれないと、ハンスは思うが。
 この東シャンバラ政府主催の合宿所で戦闘になった際には、人数の少ないこちらが確実に不利であることや、東シャンバラの契約者と戦闘になるようなことは避けたいという梅琳達の思いから、皆ここで強引な手段に出ることに関しては消極的であった。
「条件次第でユリアナは自ら東側に身をゆだねる可能性もあるだろう」
 クレアも小声で梅琳に語っていく。
「こちらの上層部は『彼女が戦力になる』という判断だが、ここでいう『戦力』とはつまり、魔道書の力も含めてのことだろう。ユリアナを連れ帰ることが私達の任務だが、それには魔道書も含まれていると考えるべきだ。彼女をこちらにきちんと引き込めるのであれば……」
 もう一冊の魔道書も与え、その力を解放することで龍騎士を撃退しろと、命じることも出来るかもしれない。
 それには、ユリアナに『西に協力する心積もり』と『魔道書が人々に害を与えることのないよう制御する責任』が求められることになるが。
「しかし、今の状態では難しそうだな……」
「そうね。あなたの言葉は幾分効果があったと思うのだけれど」
 クレアと梅琳は、契約者達に守られながら前を歩いているユリアナに、厳しい目を向けていた。
「こちらを持っていて下さい」
 大岡 永谷(おおおか・とと)が梅琳に近づいて、禁猟区のお守りを差し出した。
「ありがとう。よろしくね」
 梅琳は厳しい顔つきながらも、僅かに微笑みを見せた。
「任せてください。俺が軍服を着て、警備についていることが抑止力となるだろう」
 永谷は強く頷いて、彼女達と別れて、定位置――会議室の入り口付近に立つ。
 今のところ、会議室に入ったメンバーは、東西のロイヤルガードのメンバーと、その友人達だけだった。
 一応、知り合いではない者には、学生証などの、身分を証明するものを見せてもらい、必要に応じてボディチェックも行ってから、会場に通していく。
「怪しい人は今のところ近づいてこないよ。龍騎士団員達はかなり不機嫌そうだけれど、武装解除には応じてくれたしね」
 光学迷彩で姿を見えにくくして巡回している熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が永谷にそう報告をする。
 龍騎士団のメンバーも、武装を解いて、東シャンバラのロイヤルガードに導かれて会議室へと向かっていく。
 会議に出席するのは、レストと護衛についている従龍騎士2人のみだ。
「会議が終わったら、フルコースお願いね。美味しい食事を美味しく食べるためにも、頑張るよ」
「ああ、約束だ。ゆっくり上手いものを食おうな」
「お〜」
 小さく返事をして、奢ってもらうにふさわしい仕事をやりたいものだと思いながら、福は巡回に戻るのだった。

「俺はキミのことを誤解していました。すみません」
 合宿所のドアを開けて、ユリアナを通しながら樹月 刀真(きづき・とうま)はユリアナに謝罪をした。
 刀真は、得ていた情報から、ユリアナのことを魔道書をパートナーに持つ、非常に強力な魔道書使いだと、思っていた。
 そのため、盗賊団に紛れ込み、自分の居場所を晒しながら、目的の魔道書を確保できないユリアナに、何か裏があるのではないかと疑問を抱いていた。
 しかし、アジト探索の際に、パートナー達とユリアナの会話を聞いて、自分が勘違いをしていたことに気づいたのだった。
 今まで、彼女は孤独を抱えていただろう。
 樹月刀真は孤独たる者を放っておかない。
 今まで独り頑張ってきたユリアナの希望を叶える為に、全力を尽くすつもりだった。
「西に帰りたいのなら、あらゆる手段を講じるつもりです」
 ユリアナは刀真の言葉に目を伏せて少し考えた後。
「お願い、します」
 そう、小さな声で言った。
 
(武器は置いてきたし、ボディチェックも受けた。……よし、大丈夫そうだ)
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、少し早めに会議室に入って、全体を見渡しやすい隅の方に着席していた。
(合宿と違って、やっぱり両陣ともに、ピリピリしてきたなぁ……そういえば、ロイヤルガードって政府からの仕事を請けるんだっけか?)
 首をかしげながら、訪れるロイヤルガード達を観察していく。
(しかしこの空気。やっぱり本人の意思を無視して話し合いをする形になるんだろうな)
 こういう場で、介入したり発言する権限が自分にはないと恭司は考えており、それを残念に思っていた。
 ロイヤルガードに志願だけしてみようかと思うが、今は、こういう時に介入することが出来る位置にいたい、地位に着くことでより誰かを多く助けることが出来るからといった、地位が欲しいという希望だけであり、志願をするに至るだけの姿勢や提案はまだなかった。
 この会議には、どちらかの陣営が無茶なことをするかもしれないので、その際に止められる位置にいるために、参加している。
 傍聴者であり、隠れ警備要員だ。
 ゼスタとファビオがヴェントを連れて現れ、一番隅の席に腰掛ける。
 契約者達が次々に部屋に集まっていき、最後に龍騎士団員が入室し、席についた。
 茶色の表紙の魔道書は、呼雪の手によりテーブルの中央に置かれた。
 恭司は座り直すと、注意して見守っていく。
「会議の司会進行を務めさせていただきます」
 司会を買って出たのは、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)だった。
 感情的になる可能性も考え、ユリアナには別室で待機をしていてもらいたかったのだが、多くの契約者がユリアナと同席して会議への出席を望んでいたため、彼女の保護は皆に任せることにし、会議を始めることにした。
「まずは、皆さんの意見、主張を言って頂きたいと思います」
 メティスがそう言った直後に、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が手を上げる。
「朝倉さん、どうぞ」
 言葉を受けて、千歳は六法全書片手に立ち上がる。
「東シャンバラ領内で起きた犯罪は東シャンバラで司法審査に服すべきだ。ユリアナは賊と行動を共にし犯罪に加担した。これは、普通に仲間として仕事をしていたという賊の証言からも明らかだ」
 凛とした声で、千歳は語っていく。
「コントラクターが強盗など……その能力を考えれば、由々しき事態ですし、重く処断されるべきだと思いますわ。力ある者はその力に責任を持ってもらわないと社会秩序を保てません」
 パートナーのイルマ・レスト(いるま・れすと)は座ったまま、そう発言をした。
「ここで賊はヴァイシャリーで裁き、ユリアナだけ特別扱いは筋が通らない」
 イルマが言い放った。
「待ってください」
 刀真が手を上げて割り込む。
「どうぞ」
 メティスは刀真の発言を許可した。
「ユリアナは蒼空学園の大学部へ特待生として招かれた蒼空学園の学生です。彼女は御神楽環菜より密命を受けていました」
「その噂も耳にしてはいるが、まさか賊に加担して法を犯す許可は出さないだろう」
 ユリアナの眉がぴくりと揺れるが、彼女は口を開かない。
「それに、私は数日前までは蒼学生で、御神楽前校長のことは知っているが、指示を出しているなら資料が残っているはずだ。自分が死ぬことを見越したように手配していたほどの人だ。資料が見つかれば決定的な証拠となるのに、どうして探してくれと頼まない?」
 千歳は厳しい目を、ユリアナに向ける。
 ユリアナは千歳を見ようとはしない。
「探されては都合が悪い、からではないのか。……地球人やコントラクターだったらシャンバラで何をしても許されるなどと思われてしまっては、地球とシャンバラの友好など夢のまた夢。困難な状況であるからこそ、地球人とパラミタ人双方の信頼が必要だと思う。その為に法は、その所属や種族によって左右されること無く、等しく適用される必要がある」
 千歳は何も言わないユリアナから視線を外し、皆に目を向けた。
「以上、法の照らして厳正な処分を下すことが、社会秩序の維持、またユリアナの更生の為になると信じる」
 厳しい、意見だとは思う。
 ユリアナに恨みがあるわけでもない……。
 だけれど、罪は罪だから。
 帝国や東西の思惑で法が軽んじられることがあってはいけないと思う。判官としても。
 千歳は厳しい表情のまま、糾弾を終えて着席をする。
「しかしそれは」
 刀真が立ち上がり、皆を見回す。
「憶測でしかありません。俺は直接彼女の口から、環菜から指示があったということを聞いています。密命を受けていたと。彼女は、その密命を遂行するための手段を間違えたのではないでしょうか」
 そして、その盗賊団に属して、彼女が罪を犯したのならそれは、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)や蒼空学園の生徒である自分とも関係があると話していく。
「ユリアナを裁くのなら、環菜や環菜の配下にある、俺達も裁かれるべきです。よって、西シャンバラのロイヤルガード総隊長である、金 鋭峰(じん・るいふぉん)による裁きを希望します」
「最初にも言ったが、これは東シャンバラ領内で起きた犯罪だ。金鋭峰の裁きを受けるにしても、東シャンバラの裁きを受けてからが筋だろう」
「そうかしら」
 千歳の発言に、梅琳が反論を始める。
「確かに、賊とユリアナが捕縛された場所は『東シャンバラ地区』だけれど、今は東シャンバラに属しているのはヴァイシャリーとキマクだけ。そして元々このヒラニプラからも近い岬はヴァイシャリー家の領土ではないわ。タシガンやイルミンスールが東シャンバラの政府から離れた以上、東シャンバラの土地に対しての、首都としてのヴァイシャリーの権限はどれだけあるのかしら? 少なくてもヴァイシャリー、キマクを除く私達、シャンバラの建国に力を貸す者達は、エリュシオンの支配を認めはしない」
 そして、梅琳はきっぱりとこう続けた。
「ですから、今現在、この岬の、東シャンバラ政府及びエリュシオン総督府の領有の主張を、私は認めません」