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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【?5―1・困難】

「すみません、体調が悪いのでここで休んでいていいですか?」
 保健室でアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は、保険医の先生と話していた。
「いいですけれど。わたくしこの後、外での仕事がございますの。看病はできませんが、よろしいかしら?」
「はい、ワタシは少し横になっていれば治ると思いますから」
 お大事にねと言ってくれた保険医先生に、わずかに罪悪感をおぼえながらベッドで寝たフリをするアルメリア。
(さてと。あとは静香ちゃんを待つだけね)
 アルメリアは、これまでのループによって静香の行動パターンをきちんと覚えており。それを元に話をする場を得るためこうして張っているのだった。
 さらに変装で百合園の制服を着て、メガネをかけて髪型をツインテールにしているという念の入れようで。少なからずこのループ現象を心配しているらしかった。
 やがて静香が気だるげにやってくる。微妙に時間にズレがあるなとアルメリアは思ったが、多少の誤差は予想の範囲内だとして、まだ動かずに待ち続ける。
 数分ほど経過したころに、亜美が昼食を手に現れる。
(亜美ちゃん、この子は何か知っていそうだけれど、今は静香ちゃんの方が気になるわね、なんだか元気がなさそうだし)
 そう思いながら狸寝入りを続けるアルメリア。
  今度はなにがあったの……
   か弱い女の子っていいと思わない……?
    放課後のことはぜんぶワタシに任せて……。
 亜美は特に変化の無い一連の流れを言い終え、去っていった。
(よし、今だわ!)
 ループに気付いた誰かが乱入してくる前にとばかりに、アルメリアは毛布を跳ね飛ばしながらベッドを飛び出した。
「静香ちゃん!」
「わあ! び、びっくりしたぁ!」
「あ、驚かせてごめんなさい。怪しいものじゃないの。ループについて調べてるだけなの」
 それを聞いてほんのわずかだが緊張を解かせる静香。
「ワタシは、アルメリア・アーミテージ。蒼空学園の生徒なの。実は前回の……あ、昨日のね。ループも体験しているの」
「え? そ、そうなの?」
「それで、まだ事件が終わってないんじゃないかって気になって、こうしてまた学院に来てみたのよ」
「そうだったんだ。わざわざごめんね、毎日毎日こんなことになって……」
 かくりと頭を下げる静香。自分に責任の一端があるゆえ、とりあえず謝罪したのだが。
 その拍子にたゆゆんと揺れた大きめの胸が、逆にアルメリアを嫉妬させたりしていた。
「……なんで男の娘なのにワタシより胸があるのかしら」
「え?」
「んん、ごほん。なんでもないわよ。それよりさっき……亜美ちゃんとの話を聞いてたんだけど」
 咳払いして、わずかに目に真剣味を持たせる。
「本当に守られているだけでいいの? 静香ちゃんを守るために誰かが傷つくかもしれないのよ、もしかすると前のラズィーヤさんみたいに死んじゃう人も出て来るかもしれない、そんな時にただ守られていたことを後悔しないでいられるかしら?」
「それはまあ。ラズィーヤのことを言われると、ちょっと困るけど」
「まだあまりお話はしていないけれど、アナタはそんなに弱い人じゃないと思ってるわ」
 それについては、自分で肯定も否定もできなかった。
「何かあった時はワタシも力になるわ、ただし、守るんじゃなくて手伝うだけよ」
 精神的な成長を願うアルメリアはにこりと笑って、そのままベッドには戻らず保健室を出ていってしまった。
 どうやら自分のためにここにいただけなんだな、と静香も理解して。相変わらず心配され通しの自分が情けなくなった。
 だが落ち込んでる暇もなく、すぐに次の来客がドアを開いた。

 蒼空学園生の久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、百合園の制服を着て校内を散策していた。
 前回ループで凄惨なことになっていた校長室も一度覗いてみたが、そこではラズィーヤが元気な姿で書類に目を通していた。
(やっぱりまだループしてるんだよね。昨日と状況は異なってるみたいだけど。今回は、抜け出すにはどうすればいいのかな)
 なんとかループの原因を究明しないと、購買で制服まで購入してナンチャって百合園生を演じている意味がないとばかりに、あちこちに注意を配ってはみているのだが。あまり成果はないようだった。
「よし。ここは一度、静香校長に会って話を聞いたほうがてっとりばやいかな」
 やがてそう思い、保健室へと足を運んできたのだった。
「静香校長は、ループに気付いているんですか?」
 挨拶もそこそこに本題を質問してきた沙幸に、
「うん。ちゃんとわかってるよ。どうしてこんなことが起きてるかは、まだ謎だけど」
「ループしている中で何か変わったことがなかったですか? たとえば何かを貰ったとか、誰かに会ったとか、何かのおまじないをしたとか、何かを強く願ったとか……」
「昨日起きたループでは、僕がラズィーヤのことを大切に思うことで解消されたみたいだけど。今回はどうすればいいのかまだわからなくて」
「んー、じゃあループ前後はどのようなことをしていたか覚えていますか? 思い出すのは辛いことなのかもしれないけど、少しでもいいからループから抜け出す手がかりが欲しいんです」
 言われて、さすがにすこし表情を曇らせつつも話していく。
「記憶が曖昧な部分もあるけど……大したことはあまり起きてなかったよ。ループ後はいつもベッドの上だし。ループ前は、保健室の布団の中にいたり、誰かと話してたり、まちまちで。一回誰かに殺されかけたこともあったけど、あれが直接の原因かどうかはわからないし」
 要するにループの鍵になりそうなことには、心当たりがないということかと沙幸はわずかに落胆し。そこでふと気がついた。
(……あれ? 静香校長の性別って女の子だったっけ? なんだか胸が膨らんでいるような?)
 まじまじと見ていると無性に気になり始め。
(よし……触って確かめちゃおうっと。こ、これはループの原因を探すためなんだもん。女の子から触る分には何の問題もないよね?)
 心の中で言い訳しながら、静香がぼうっとしてる隙をついて、手を伸ばしてみた。
 手が確かに柔らかなものに触れた。その感触は間違いなく女の子の胸のようで。予想していたとはいえびっくりして恥ずかしくなった。
「わああああ! な、なんなのイキナリ!?」
「あ、ご、ごめんなさい。で、でもどうしたのそれ」
 静香は胸元を隠しつつ、女性化したことも説明していった。
 沙幸はもしかしたらそれが何かの鍵になるかもとして。もう少し調べてみたいと口にした。それは正直ほんとうに他意のない発言だったのだが、猛烈に恥ずかしがった静香から追い出される結果になった。
(でも……ほんとに大きかったよね。もうちょっと触ってみたかったかも)
 後で、そんな風に思ったのは秘密だけれど。