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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

リアクション

 薄闇の中、夜の闇をひきつれるように、一体のイコンが舞い降りる。
 これだけのイコンが集まるとわかっている場に、たった一人で乗り込む、その剛胆さと自信こそが、カミロたる証拠ともいえた。
 一旦はイコンを降りていた生徒たちも、それぞれ機体に乗り込み、迎撃態勢を整える。
「やーっぱり、こうなるか」
 スレヴィがそう口にする。
「黒い影……」
 ヘルは、あれはこのことだったのかと、クリストファーのほうを見やった。
『慌てないでください。薔薇学の生徒全員で貴方達を守って見せます』
 侘助が、ざわめく来賓席へとそう声をかける。その上で、一般観客席を警護する生徒たちへは、彼らの避難を指示した。万が一のことがあってはならないからだ。
「黒い、イコン……?」
 ヤシュブが、不安げに呟く。その身体を温めようとするかのように、あいじゃわが柔らかな身体をすり寄せた。
 ディヤーブはまだ負傷により、起き上がることはできない。代理として、黒崎と藍澤がその指揮を譲り受けた。
「まだ動いてはならぬよ。イコン戦闘は、なるべく避けるように」
 藍澤はそう告げる。
 まだ一般人の待避は完了していない。……その上、カミロとの戦闘は、なるべくなら避けたい。シパーヒーが脆弱であると思われるわけには、いかないのだ。
「パニックからの暴動に注意。落ち着かせるんだ」

 シュヴァルツ・フリーゲは、競技台へと降り立った。その周囲を、イコンが取り囲む。しかし、カミロは気にした風もなく、ただ、まっすぐにウゲンと……そして、ジェイダスを見つめていた。
「戦いぶりは、見せてもらった。なかなか、楽しませてもらったよ」
「入学願書でも出しにきたのかな?」
 ルドルフが、あえてそう揶揄する。
「いや。ほんの、確認だ」
 シュヴァルツ・フリーゲのメインカメラが、ぐるりと居並ぶイコンを映す。
「シパーヒー……か」
「気が済んだなら、立ち去ってくれ。……無闇な争いは、したくない」
 リア・レオニスが、そう呼びかけた。……微かに震えそうになる指を、押さえつけて。
「さて、どうするかな」
 カミロが低く応える。闇の中、緊張が走る。
 けれども。
「カミロ」
 そう、彼に声をかけたのは、ジェイダスだった。
「ジェイダス……!?」
 ラドゥが驚きの声をあげる。ジェイダスは一人、競技場へと降りてきていたのだ。
 白銀 昶(しろがね・あきら)師王 アスカ(しおう・あすか)が、ジェイダスの後方で警戒を続けている。アスカは特に離れないと主張したのだが、ジェイダスによって退けられたのだ。
「お兄様!」
 モニタに映し出された映像に、咄嗟にヤシュブは飛び出して行こうとするが、それをエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)が押しとどめた。あまりにも、危険すぎる。
 ジェイダスはカミロを見上げ、口を開いた。
「久しいな。……おまえの探していたものは、見つかったのか?」
「…………」
 カミロは答えない。だが、ジェイダスはいつもと変わらぬ笑みを浮かべ、彼を見つめていた。大きさにすれば、とんでもない差だ。それだというのに、ジェイダスの前で、むしろカミロの乗るイコンは萎縮しているかのようにすら見えた。
「そちらは、どうなんだ」
「順調だ。……おまえと違ってな」
 ジェイダスが、そう嘲る。
「――ッ!」
 挑発のままに、カミロはイコンの右手を、ジェイダスへと振り下ろそうとする。
「お兄様――ッ!!」
 ヤシュブが悲鳴をあげ、ラドゥとアスカが、ジェイダスへと駆け寄る。
 そして、カミロの手は、複数のシパーヒーががっちりと受け止めていた。砂塵が舞い散り、装甲にヒビが入る。それでも、彼らの行動に迷いはなかった。
 ジェイダス自身は、微動だにしていない。……生徒たちが必ずカミロを止めると、微塵の疑いもなく、彼は信じていたのだ。
「……彼らが、私の宝だ。美しいだろう」
 両手を広げ、ジェイダスは誇らしげにそう告げた。
「ジェイダス、貴様という奴は、どうしてこう……っ!」
 ラドゥは目に涙を浮かべて憤慨しているが、言うだけ無駄というのも事実だ。
「……そうか」
 シュヴァルツ・フリーゲが、後方へと退いた。
 もし、もしも、あのとき薔薇の学舎に留まっていれば。カミロの両手もまた、彼を護る手の一つであったのだろうか。
 そんな考えが一瞬カミロの脳裏を掠め、しかしすぐに、うち捨てられる。仮定の話など、なんの意味ももたないことだ。
「シパーヒーとやらを、見物しに来ただけだ。今日のところは……失礼する」
 カミロはそう言うと、一気に空へと舞いあがる。闇夜へと、黒い機体がとけ込み、その行方はすぐに見えなくなってしまった。
「やれやれ……」
 来賓席の人々が、各々ほっとして、息をつく。そのなかで。
「まだまだ、若いね」
 ウゲンがぼそりと呟き、くすくすと笑っていた。その言葉は、霧神の耳にのみ、残った。