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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

リアクション

 いろんな人が心配していた宇宙服は、ちゃんと積み込まれていた。
 宇宙に飛び出すことを怖がる良雄が何とかロケットに留まろうといろいろ言っていたが、あっさりとウィングに退けられて宇宙服の中に押し込まれている。
 その様子を楽しそうに眺めながら、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)はウキウキと宇宙服を着込んでいた。
 一人ではどうにもできないところは、居残り組に手伝ってもらって。
「いよいよこの宇宙旅行の目玉の人工衛星ですね。首領・鬼鳳帝も粋なことをしてくれます」
 九十九は種モミの塔のことをまだ勘違いしていた。
 今でもあれはバーゲンセールと信じていたし、この宇宙旅行もバーゲンセール参加者への感謝招待旅行だと思っている。
 その証拠に、目立つピンクのモヒカンの人や、他にも見覚えのある顔があるではないか。
「楽しみですね、キングドリル」
 装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)に笑顔を向けた時だ。
 船内に閃光が走った。
「ぎゃー! 攻撃されたー!」
「迎撃システム! 近づきすぎたか!」
 ビリーの叫びと誠一の焦りの声。
 首を傾げる九十九。
「迎撃……? どうして迎撃なんてされるのでしょう?」
 キングドリルを見ても、彼にもわからず答えは返ってこない。
 とたん、九十九の顔がサッと青ざめた。
「あの人工衛星、すでに宇宙人に乗っ取られてるのかもしれません!」
「まさか、いくら何でも……」
「では、どうして観光の目玉がお客である私達を攻撃するんです?」
 キングドリルは言葉に詰まった。
 九十九はますます確信を持って頷く。
「このままではパラミタ……ひいては地球のピンチですっ」
 九十九は、自分の暮らす地を守るという使命感に燃えた。
 彼女の中に印象強く残っていたピンクのモヒカンの人──ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、閃光によりいっとき失った視力が戻るなり、誠一の座る操縦席につめかけて、
「ちょっと借りるぜ」
 と、無理矢理割り込んだ。
「先制攻撃とはやってくれるじゃねぇか! おい、そんなに震えてる良雄を出す必要なんてねぇぞ! 俺様のモヒカンブーメランで終わりにしてやるぜ! ビリー!」
「ブーメランを投げるんだね! うまく狙うんだよー!」
 ゲブーはブーメランを握っているほうの腕を操作するレバーに手を置き、攻撃してきた人工衛星へ向けてそれを投げた。
 ブーメランは人工衛星の一部に当たり、破片を撒き散らし、そしてそのままどこかへ飛んで行き、帰ってこなかった。
「俺様のモヒカンが!」
「ドンマイ!」
 嘆くゲブーを明るく励ますビリー。
「そう悲しむな。いいこともあった」
 人工衛星にハッキングを仕掛けていたガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が、慰めるように言う。
「破損部分の修復にかかったようだ。完全に何もしてこないということはないだろうが、いくらか大人しくなっただろう」
「では、乗り込むなら今ですね」
 力強く進み出てきたレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)の手には、一見何でもない水。
「【私の聖水】です。これを飲めばどんな困難も突破できるでしょう!」
 この戦いのために、彼女は【私の聖水】補給用バックパックを持参していた。
 数々の伝説を生み出したこの聖水は知る人ぞ知る水である。
 ただし、効果には個人差があるのだが、今ここで言う必要はない。
「いただくぜ」
 和希をはじめ、レロシャンの友人や居残り組も、手渡された紙コップの中身を験担ぎのつもりで飲み干していく。
 良雄も飲んだ。
 死にませんように死にませんように、とブツブツ言いながら。
 あまった聖水はそのまま持っていくつもりだ。
 人工衛星到着後もきっと忙しいだろうから、というのがレロシャンの見立てだった。
「そういえば、人工衛星にはどうやって行くんですか? 防衛システムの機能が低下中とはいえ、このロケットで近づけばまた迎撃されそうですよね」
「わたくし、登山用ザイルなら持ってますわ」
 レロシャンの問いに、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が長さ五十メートルあるそれを見せる。
「ボクにも少し積んであるから、それも一緒に使ってねー!」
 ビリーの追加とリリィの用意のよさにより、身ひとつで宇宙空間に放り出されることは免れた。
 リリィはザイルを体に巻きつけて命綱代わりにする。

 ビリーが突入組を人工衛星へ放り、各人はすんなり到着することができた。
 今のところ防衛システムの反応はない。
 最初に着いたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、掴んでいた良雄の手を離すと不敵に笑って言った。
「しっかりついてきてください」
 片手に龍殺しの槍、もう片方の手にラスターエスクードを。
 その時、ロケットに残っているガイウスから防衛システムに気をつけるように、と通信が入った。
「システムが復旧しましたか。それなら、また壊すまで……前組長とやらも」
 ウィングの瞳が危険な色に輝いたかと思うとダッシュローラーで一気に加速し、槍を突出させて手近な外郭に突っ込んだ。
 直後、ウィングに向けてレーザーが放たれる。
 彼女はラスターエスクードで素早くそれらを防ぐと、攻撃がやんだ隙に再び槍を突き刺す。
「ウ、ウィングさん! そんな手当たり次第やって大丈夫なんスか!? ヤバイ箇所とかに当たったら……」
「もしそれで自爆でもしようものなら、どこにあるかわからない脳みそを探す手間が省けますね」
「オレらはどうなるっスか!?」
 悲鳴のような良雄を、ウィングは笑顔でかわした。
「ま、まさか、何も考えてないんスかー!」
 顔を真っ青にした良雄が声のかぎりに叫んだ時、どこからか伸びてきたアームが彼を掴み上げた。
 泣きそうな悲鳴をあげた良雄の手にブライドオブパイクが現れる。
「宇宙の藻屑にはなりたくないっス!」
 スパン、とアームを切った良雄に繋がれているロープを、ウィングが引き寄せた。
「その調子です。さあ、行きますよ」
「人の話を聞くっス……うああああっ」
 良雄はウィングの突進に引きずられた。
 人工衛星に一番の敵とみなされたウィングと良雄が防衛システムの攻撃を一身に受けている様に、和希は若干の焦りを覚える。
 説得する前に壊されてしまうのではないか、と。
「親分の前にあいつらを止めねぇと!」
 足元を強く蹴ってウィング達を追う和希。
 と、その和希を狙って先端が錐のように尖ったアームが複数襲い掛かる。
「伏せろ!」
 響いた声に和希が反射的に身をかがめた直後、頭上を炎をまとった弾丸が掠めていった。
 アームが次々に破壊されていく。
「あたいらが守るから会長は走れ!」
 魔銃カルネイジとカメハメハのハンドキャノンをそれぞれに持った御弾 知恵子(みたま・ちえこ)だった。
「サンキュ!」
 二人が短い会話を交わしているうちに、フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が知恵子の疲れを癒していく。
 ふと、和希は知恵子に聞いた。
「ヤクザのほうはよかったのか?」
 少し前に大和田の指示でヤクザがパラ実生の実家に嫌がらせをしていたことがあった。知恵子の家もその被害にあっていた。大和田を恨んでいてもおかしくない。
 だが、知恵子はニカッと少年のような笑顔で答えた。
「確かに気になるけどさ、宇宙にもっと強くて悪い奴がいるってんなら、燃えないわけにはいかないじゃないさ!」
「わかった。頼りにしてるぜ」
「アームがまた動き出しそうだ、行こう」
 あたりを警戒していたフォルテュナに促され、和希と知恵子はウィングの足跡といってもいい破壊の跡をたどった。
 追いかける間にも復活した迎撃システムによる妨害が続く。
 ふと、振り向いたフォルテュナは、レーザー銃がこちらを向いていることに気づいた。
「させるかっ」
 フォルテュナは反転すると工事用ドリルでレーザー銃に突っ込み、発射される前に粉砕した。
「後から後からキリねぇな。いったいどうなってんだか」
 戻ったフォルテュナにこぼす知恵子。
 と、少し先を行っていたレロシャンが呼ぶ声がした。
 その隣にはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)もいる。
 二人のもとへ和希達が飛んだ時、せり上がった銃器が彼女らを狙った。
「このやろッ」
 ミューレリアが向けた魔砲杖ミルキーウェイの先端から、極太レーザーが放たれ銃器を破壊する。
 一方、別のところから伸びてきた大きな鋏型のアームには、レロシャンがサイコキネシスで鋏の動きを押さえ込み、そこにネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が六連ミサイルを撃ち込んだ。
「和希の進路は、この魔砲少女スペースみゅーみゅーが守る!」
「いいえ。私のオペレーション・ホーリーウォーター・アルティメットが守ります!」
「何だよそのオペレーションは」
「無敵のオペレーションです」
 本当はかっこいい響きだと思って言ってみただけのレロシャンだったが、もしも聞いてきた相手がミューレリアでなかったら、もっと素直な返答になっていただろう。
 レロシャンはミューレリアをじっと見つめて言った。
「私が悪者でいいです。この闘いが終わった後、決着をつけましょう!」
 何を言われているのか、ミューレリアはわからずきょとんとする。
 が、すぐにその意味はわかった。
「助かった。さて、ウィングはどこへ行ったんだ?」
「あちらですよ」
 と、指差すレロシャンの表情を見たときに。
 ──ライバル宣言された。
 このことに気づいた。
 不安になって和希を見れば、彼女はレロシャンの憧れの想いのこもった視線には気づいていない様子。
 だからといって安心できるわけでもなく。
「姫やん!」
 思わず、レロシャンと和希の会話をさえぎるように割り込んでしまった。
「お、おう? どうした」
「私が、姫やんを守るから。親分さんとの話し合いに、邪魔は入れさせねぇから!」
 ミューレリアのすごい気合の入りように和希は気圧されたが、すぐに太陽のような笑顔で頷いた。
「よし、行くぜ! こっちだったな」
 先頭きってレロシャンの指差したほうへ進む和希。
 その後に続くミューレリアとレロシャンは、静かに火花を散らしている。
 さらに後方で警戒を怠らない知恵子とフォルテュナは、三人の様子にボソボソと囁きあっていた。
「三角関係か。会長はミューレリアと恋仲らしいけど……」
「地球に帰ったら愛と嫉妬の昼ドラが始まるのか?」
 とりあえず、第一の目的のためにミューレリアもレロシャンも自分の感情に流されることはないだろう。
 と、不穏な機械音に知恵子がハッとして後ろを振り向く。
 大きさはそれほどでもないが、表面を這うようにいくつもの何かが近づいてきていた。
 フォルテュナ、と名前を呼ぶと心得たように頷きが返ってくる。
 知恵子は和希に言った。
「何か来てるから、こいつら片付けてから追いかけるよ。先に行って話つけててくれ」
「じゃあ俺も。みんなでかかったほうが早いだろ」
 案の定、知恵子を残していくことに反対する和希に、知恵子の口元に苦笑が浮かぶ。ただし、それは嬉しさの混じったものだ。
「早くしないとパラ実にレーザーぶち込まれるだろ」
 そう言うと和希は言葉につまってしまった。
 レロシャンとミューレリアに和希を頼み、知恵子とフォルテュナは謎の機械の接近を阻止するために来た分を少し戻った。

「ぶるぅぁぁぁぁぁ! なんぴとたりとも九十九の邪魔はさせぬ!」
 雄々しく叫んだ装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)が、不気味に這い寄って来る機械の群に六連ミサイルポッドから爆弾を射出する。
 彼が守っている神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)は、メインコンピュータに繋がっているものを探していた。
 それを操り、防衛システムを停止させてしまおうというのだ。
 キングドリルのミサイル攻撃をかいくぐって現れた小型の機械の上部がキラリと光る。
 直後、扇状に幾筋もの極細のレーザーが発射された。
 キングドリルに引っ張られた九十九の指先を掠めるレーザー。
 宇宙服が破れたら、中の九十九はひとたまりもない。
「おのれ、覚悟はできているのであろうな!」
 機械目掛けてミサイルを撃ち込むキングドリル。
「謎の宇宙人……手強いですねっ。──あら?」
 九十九は人工衛星に降り立った自分達にではなく、離れたところで待機しているビリーに向けて物騒な砲身が向けられようとしていることに気がついた。
「ロケットがなくなったら帰りは……。一刻も早く宇宙人を倒さなくては!」
 九十九の意を汲んだキングドリルは、今度はミサイルを足元の装甲に向けた。
 ちょうど一人分くらいの穴があく。
 中を覗いてみれば、何かがありそうな雰囲気だ。
 九十九はビリーに「気をつけてください」とだけ連絡を入れると、穴の中に飛び込んだ。

 その頃ビリー達は。
 九十九の知らせにより気を引き締めて何が来てもいいように待機していた。
 と、人工衛星から伸びた砲身の一瞬の輝きの後、レーザー攻撃の乱れ撃ちが始まった。
 メインパイロットを請負う佐野 誠一(さの・せいいち)がロケットに当たるものだけを見極め、最小限の動きでかわす。
 隣で副パイロットを務めることになったヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は、掠めたレーザーによる、ロケットの破損状況を確認していた。
 が、ビリーは気が気ではなかった。
「ぎゃーっ、また来たー! もうダメっ。怖いよー! ヒーッ!」
 恐慌状態に陥っている。
 そのせいか、しだいに誠一の指示がうまく伝わらなくなってきてしまっていた。
「ビリー、落ち着けって。俺に任せとけば大丈夫だって」
「ひょああああっ、チリッていった! チリッて掠めていったよー!」
 レーザーに蜂の巣にされる幻覚でも見えたのか、いよいよビリーは勝手に動き出そうと身を震わせはじめた。
 もし彼女が恐怖のあまりパラミタに帰る、なんていう行動に出れば、ロープ等で繋がっている突入組は死んでしまう。
「ビリー、よく見ろ。それは後から付けてもらった強化装甲だ。あんたのボディじゃない。こっちのデータにもそう出てる」
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が一か八かの賭けで嘘を言ってなだめようとした。
 落ち着いている時なら自分の体かそうでないかの区別くらいつくだろうけれど、混乱している今ならうっかり騙されてくれるかもと思ったのだ。
 パートナーが突入組として出ているジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も、ビリーに平静を取り戻してもらおうと声をかける。
「ビリーには優秀なパイロットが二人もついている。何を怖がる必要があるというのだ」
 やがて、機体の振動は収まっていった。
「うん……言われてみれば、音がしただけで痛くも何ともない気がしなくもないよ。それに、誠一達のおかげで最短距離で目標につけたし、その後も安定してたもんね」
 何やらまだあやしいが、冷静さは取り戻しつつあるようだ。
 四人は顔を見合わせ、ホッと息をついた。