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なし

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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・束の間の休息


 東地区と南地区の境界付近。
 とある建物のテラスで、月舘 冴璃(つきだて・さえり)は学院近くの空を眺めていた。
(ここで待っててと言っておきながら……遅いですね)
 待ち合わせをしている東森 颯希(ひがしもり・さつき)がなかなか来ない。
「待たせてごめん! ちょっとそこで観光客にナンパされてさ。断るのに時間かかったんだよ」
 わずかに息を切らしながら、颯希が駆けてきた。
「ナンパ? 顔は良いものの……高身長で絶壁胸の人に声をかけるなんて変わってますね、その人」
「十人十色って言葉があるじゃん。その通り、好みも人それぞれだよ」
 世の中色んな人がいるんだな、などと感心する。
「ところでさ。さっきからなんで空見てるの?」
「……この前の襲撃の件、忘れましたか?」
 空を見続けたまま答える。
「そのことか……忘れてないよ」
 気を引き締めた態度になる颯希。
「あのとき、イコンが覚醒して私達は強くなった……けどその私達をもあの銀色のイコンとそのパイロットは超えていた。それ以降、こう思うんです。天御柱……いえ、人類はあのイコンとそのパイロットの手の上で踊らされているだけなんじゃないかと……」
 この展開さえも、全て敵の予想の範囲内ではないのだろうか。
「踊らされてるねぇ……面白いじゃないの」
 冴璃の隣で同じ空を見つめ、颯希がにやりと笑った。
「そういう『越えられない壁』があるみたいなこと言われると、尚更越えたくなるよ」
 楽しそうな物言いだ。
「あ〜、そう考えるとまた会えないか楽しみになってきたよ!
 そうだ。ここじゃ寒いし、この前オープンしたっていう喫茶店行こうよ!」
「え? ……あぁ、そうですね。行きましょうか」
「楽しみだな〜。そこ、シャルロートカっていうのが美味しいんだって!」
 颯希が先を歩き、それに冴璃が続く。
 彼女の背を見つめ、ふと思う。
(姉さんはなんでいつも明るくいられる……? 私が本来受け取るはずの愛情をも受け取っていたほどの才女だから? それともどんなに苦しくてもそれを見せていないだけ?)
 考えても、答えは出て来ない。
(分からない……けど、一つだけ言えることは……この人は私の中で一番の『越えられない壁』)
 敵わないな、と内心に秘めつつ、歩いていった。

* * *


「さ、上がって」
 穂波 妙子(ほなみ・たえこ)霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)の部屋に招かれた。
「それじゃ、まずはベトナム偵察任務からだね」
 ベトナムでの出来事は、関係した者達以外にはほとんど知れ渡っていない。
「運良くその任務に抜擢されたわけだけど、ベトナムで体験したのは『戦慄』だった。敵の基地を発見して、その中で開発されている巨大イコン――多分この前の戦いにいたあの機体を確認した。そのデータを持ち帰ろうとしたとき、謎の青いイコンが現れたんだ」
 聞いたことはある。
 偵察部隊を壊滅させたという、その機体を。
「ボク達の小隊は何とか帰還出来たけど、ハーディン教官がボク達を逃がすために、あの場に残った。他に、万一に備えて味方が呼んでいた救援部隊もいたけど、一瞬で消されたよ」
 それがきっかけで、イコンの真の力について興味を抱くようになったという。
「その機体、気になるわぁ……」
 海京決戦に現れた銀色のイコンとも違う、青いイコン。その正体は、はっきりとは分かっていない。
「それと、なんとかベトナムから持ち帰ったデータからだけど、以前にも『覚醒』に近い力を引き出す技術が有ったということが分かったんだよ。だけど、学院で同様のシステムを使っても、効果は得られなかった。さらに、非人道的だったとも言われていている」
 そういえば、今日試運転を行っていたイコンは「いわくつき」の機体であるという噂が流れていたが、関係あるのだろうか。試運転は成功だったらしいが。
「最後に、この前のイコン覚醒についてだね。あの戦いのとき、ボクは天沼矛の光の中に人形の姿を見た。その人形の少女の歌をイコンが聞いたことで、真の力が解放されたんだと思う」
 ナギサはまだ博士やその人形少女からそのことを確認したわけではないらしい。ただ、学院を流れる噂も合わせて考えると、どうもそのようだ。
「次は私やな」
 妙子の方から渡せる情報といえば、コームラントの実戦データだ。
「口頭で伝えるよりも、見てもらった方がええかな。こいつや」
 覚醒のとき、どれほど性能が向上したのかもちゃんとデータ化されている。パソコンを借り、そこに表示した。
「ただ、やっぱり覚醒時は消費が激しいから、そこは気いつけなあかん」
 たしかに覚醒は強力だ。
 だが、その分戦闘稼動時間が短くなるのはネックである。もっとも、ただでさえスペックの高いイーグリットやコームラントなのだから、覚醒状態となれば「性能上は」ほぼ無敵である。
 話がひと段落すると、ナギサが妙子に近寄ってきた。
「…………っ!」
 話し終えて疲れたのか、彼女の大きな胸の谷間に顔を埋める。
「穂波さんの胸に居ると、安心するよ……」
 すっかり安らかな顔つきになっている。
(なんやかんやいって、まだまだ子供やなー)
 もう少しナギサが大きければ、多くの青少年には容易に想像がつく展開になっていただろうことは言うまでもない。
(まあ、たまにはこういうのも悪くはないもんやな。ちょっとここからからかってあげるのもおもしろそうやけどな)
 このまま胸で顔を挟んでみるとか。
 実にけしからんことだが、今の彼は何処にでもいる十一歳の子供であり、マセたエロガキというわけでもない。
 せめて思春期に入るまでは待ってやらなくては。