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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第1章 ほろびの森【1】



 遠く塔が見える。
 白黒写真を思わせる灰色の空を背景に、おおきな黒いシルエットが悠然と立っている。
 一見するとそれは朽ち果てた巨木のようにも見えた。左右比対称のいびつな影は時々紅い光を明滅させた。
 塔の足下には黒い森が広がっている。森は古来より奈落人の勢力圏に挟まれ、幾度ととなく戦場となった曰く付きの場所だった。得体の知れない樹々の奥を探検してみれば、打ち捨てられた都市の面影に出会うことができるだろう。
 血なまぐさい歴史から、いつしかここは『ほろびの森』と呼ばれるようになった。
 そんな不気味の森の隙間を、ナラカエクスプレスがガタンゴトンと走っている。
『次はほろびの森、ほろびの森でございます。戦闘に出かけられる方は、お忘れ物のないようお気をつけ下さい』
 車掌兼ガイドを務める【トリニティ・ディーバ】の抑揚のないアナウンスが流れる。
 生徒達は慌ただしく出撃の準備に取りかかり始めた。
「おにぎりですよー。おにぎりー、戦争に行く前におにぎりを食べていくといいのですよーっ」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)はおにぎりがぎっしり詰まったカートを引いて喧噪の中を回っていた。
 なにやらお母さん的ウザさのある発言が繰り返されているがあまり気にしてはいけない。
「ナラカには太陽の光が届かないですよね〜、つまりは日の光が浴びられないという事ですー。日光を浴びれないとビタミンD不足が深刻ですし、足りない分は食べて補わないといけないのは常識ですよねっ」
 若干のウザさをまきちらし、ひなはトリニティを見つけた。
「トリニティさんもどうぞ」
 そう言って、おにぎりを手渡す。
「ビタミンDは鮭や卵黄に多く含まれるらしいので、此処は鮭マヨの出番です〜」
「……ありがとうございます。おにぎりさまには前にもおにぎりを頂きましたね」
「お、おにぎりって名前じゃないですっ」
 複雑な表情を浮かべながらカートをガラガラ、お腹をすかせた人を求め、おにぎりさまは別の車両に消えていった。
 いずれまた会う日が来るだろう、おにぎりさま。
「……緊張感に欠けるわね」
 作戦の指揮を執る御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は駅周辺図を見ながらポツリともらす。
 その前に、怪しげな空気を纏った弥涼 総司(いすず・そうじ)が現れた。
「神の力とやらが無くなってお困りのようですな、美しいお嬢さん」
「誰よ?」
「何者? まぁ私のことは暗黒卿でもドスケベイダーでも好きに呼んで下さって結構ですよ」
 正直、そんな名前で呼ばれたがる人は問答無用で通報すべきだが、ナラカに警察はいないので話を続けた。
「このテニスボーイのようにさわやかな風貌からはわからないと思うが、実はこう見えて私はルミーナの中身が男だという現状に憂う者のひとりなのです。あれでは、のぞっ……いや、世のルミーナファンも悲しむというもの。まぁ中にはそういったのが好きという変態もいるだろうが……、ああ言っておきますけど、私はそう言う変態ではないので」
 そう言う変態ではないが、また別のタイプの変態であることは明らかだった。
「で、何の話? 用件は手短かに言ってほしいわね」
「失礼。貴女の神の力とルミーナ奪還に力を貸そうと思いましてね」
「タダで、と言うわけじゃないんでしょう?」
「ええ。報酬はルミーナさんにガルーダコルセットを着用するように命令して頂ければOKですよ……」
「…………」
「メイン衣装がコルセット姿になれば良し、ククク……ならなくても命令に戸惑うルミーナを見るのもまた一興」
 ほら、やっぱり別の変態だった。
 そして、環菜が完全に無視して地図とのにらめっこに戻ったのは言わなくてもわかるよね。
 そんなことにすら気にも留めず、今度はトリニティに絡み……失礼、話しかけた。
「ところでひとつ確認しておきたいんだが……、あのカーリーとかいう金髪縦ロールの奈落人は女なのか?」
「どういうことでしょう?」
「ええい、皆まで言わせるな! オカマ野郎ってオチはカンベン願いたいってことだ!」
「はぁなるほど。彼女は間違いなく女性です。数千年ともにいた私が保証いたします」
ならば、良し!
 意気揚々とブラックコートを翻し、暗黒卿はどこかへ消えていった。
「御神楽さまのお知り合いには変った方がいらっしゃるのですね」
「知り合いじゃないし。それを言うなら、あなたの周りにもオカしな連中がいるみたいだけど?」
「なんの話でしょう?」
「死人の谷を出る時に、こっちじゃなく、菩提樹行きの列車に楽しそうに駆け込んでく連中を見たわよ」
「……なるほど。察しました」
 なにかとあの辺を開発することに情熱を燃やす人々がいたことを、トリニティは思い出した。
「お、おのれぇ!」
「ん?」
 ウザイほどの正義漢、ウザジャスティス青葉 旭(あおば・あきら)はわなわなと震えていた。
「今回も新商品開発などと言うわけの分からない行為におよぶ者がいたら、列車の前に並べて弾避けにしてやろうと思ったのに……! あろうことかオレの目の届かないところで好き勝手する気とは……、絶対に許せんっ!」
「それもどうかと思うけど……」
「ぬぬぬ、この怒りをどうしたら!」
「どうもしなくていいわ。ほら、前の車両でルカルカが情報交換してるらしいから、そこに行けば?」
「情報交換?」
「初ナラカの人のために、対策用データを公開してるそうよ。前回の冒険の時に録画した映像で作った『そうだ、ナラカに行こう』って言う、自費プレスの観光DVDだとか……、まぁ、詳しいことは見れば分かるでしょ」
「真面目でいい集いだ、是非参加しよう!」