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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第5章 装甲列車はしる【5】



 装甲列車は速度を増す。
 直上を北郷 鬱姫(きたごう・うつき)パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)が空飛ぶ箒で飛行する。
「早く止めないと大変なことになってしまいます……」
「そうは言っても、お願いして止まってくれる空気じゃないわよね」
「何か方法が……」
 鬱姫は下を流れる線路に目を向けた。
「そうだ。装甲列車に対してどうこうする以外にも方法があるかも……」
「へぇ、どんな?」
「列車である以上線路の上を走らないといけません。ならその線路をどうにかしてしまえば……」
「ふむふむ……? え、どういうこと?」
 深く考えない性格のパルフェリアは作戦をうまく飲み込めなかった。
 飲み込めなかったが、飲み込めるまで待つ余裕はない。
「ええと、とりあえず私と同じように……」
 そう言うと降下して、アシッドミストを放った。列車と線路、同時に浴びせる。
「えっと……よくわかんないけどアシッドミストで攻撃すればいいのね。任せて」
 そして、二人掛かりで酸の霧を浴びせる。
 装甲表面はしゅうしゅうと泡立っているが、腐食速度は思いのほか遅い
 装甲列車なだけあって、耐性の強い素材が使われているのだろう。
「時間かかりそう」
「せ、線路のほうはどうですか……?」
「うーん、こっちは溶けてるけど、列車の移動速度のが早いみたい。先回りしないとだけど……」
 箒の速度では列車を追い抜くのは難しい。加速を始めた列車に付いていくだけでも精一杯なのだ。
「ここは私たちが引き受けるわ」
 小型飛空艇アルバトロスが、二人の横をとおりに抜けて、列車の正面に躍り出た。
 声をかけた水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)はテクノコンピューターと銃型HCを操り情報を整理する。
「この速度だと、あと十分もしないうちに激突する。そして、どうも先頭が機関車、となればわかるわね?」
「破壊、単純で良い答えじゃ」
 飛空艇の操縦を行う天津 麻羅(あまつ・まら)は言った。
 後部座席に乗るルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)に声をかける。
「そろそろ攻撃開始よ、クド」
 するとどこか遠い目をして彼は言った。
「なあルルや。もしお兄さんが生きて帰れなかったら、ウチで待たせてるかみさんに伝えてほしいことが……」
「はぁ……? かみさんどころか、彼女だっていないじゃないですか?」
「へ? お兄さんには、かみさんどころか恋人すらいない、ですって……?」
「あたりまえです。そんなものいませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから」
「そ、そんな馬鹿な! お兄さんには嫁さんどころか愛人だって沢山いるんだ! ホントなんですよルル!」
「それはパソコンに保存されている二次元の女の子の画像やゲームの中のキャラクターのことでしょう?」
「それがなんだって言うんです?」
「二次元を嫁だ愛人だ恋人などとのたまうのはやめて下さい。絵じゃないですか、あれ」
「あ、あれ!?」
 その表情がみるみる曇っていく。
「あれだなんて……、愛しき乙女たちに……、嫁に、恋人に、愛人に、よくもそんなヒドイことが言えますね」
「仮に二次元に人格を認めるにしても、絶対彼女達はあなたを選びません
「……う、う、うわああああああ!!!」
 世界でもっとも多く人を傷つけたのは銃ではなく、真実である。
「この脳内に確かにあった筈の楽園が! 今! どんがらがっしゃーんと盛大な音と共に崩れ落ちました!」
「はあ」
「消失しました! ルルの心ない一言で! まさにパラダイスロスト!」
「そりゃお役に立ててなによりです」
 心の底からルルはそう思った。
「畜生……! いいさいいさ……! 八つ当たりしてやりますもんね……!」
 涙目のクドは振り返り、装甲列車に魔道銃を向ける。
「バストサイズ安眠術開祖! クド・ストレイフのこの絶望、受け取って下さい装甲列車さん!」
 彼の悲しみが、絶望が、失われた蜜月の日々が、おどろおどろしい魔力を形成し、銃口から解き放たれる。
「パラダイスロストーッ!!」
 悲しみブルーの閃光が装甲列車を直撃する。
 その威力たるや凄まじく装甲を融解させ、エンジンから火を吹かせ、さらには衝撃で列車を減速させた。
 けれども、その代償は大きい。パラダイスロストの反動によりクドは臨死状態に陥った。
 うなだれたまま真っ白に燃え尽きた。
 しかし、大人しく休ませるほどこの飛空艇に乗る人々は人間が出来ていなかった。
「今の使えるな……。緋雨、しばらく運転代わってくれ」
「了解」
 それから麻羅はクドの胸に手を当て、命の伊吹で蘇生させる。
「う、ううん……。さあ、急いでこれを食べてください」
 ルルーゼは押し込むように本命チョコを食べさせる。
「言っておきますけど、本命じゃないですからね。そう言うアイテムですからね」
「よし、それぐらいでいいじゃろう」
 麻羅はべしべしと頭を叩いて、意識を呼び戻す。
 すると、クドはクワワッと目を開いた。さっきとそのまま同じ精神状態で。
「ぜ、絶望したああああ!!」
 目覚めのパラダイスロストが再び装甲列車を捕らえた……かに思えた。
 繰り出された閃光は直撃を目前にして、列車側から放たれた黒い衝撃波によって相殺されてしまったのだ。
「わたくしの列車の前でちょこまか小賢しい真似はやめてくださらない?」
 気が付けば、先頭車両にカーリーの姿があった。
 すぐさま槍を返し、突きを繰り出すと轟音とともに衝撃波が打ち出された。
「えええええ! ちょ、ちょっと!」
 緋雨は操縦桿を慌てて切り、間一髪のところで衝撃波の直撃を避けた。
 ところが、その衝撃波は彼女達の前方を飛んでいた鬱姫とパルフェリアに襲いかかったのだ。
 通常の衝撃波とは違い、黒い気がまとわりついているため肉眼でも見ることが出来たが、如何せんその範囲が広い。
「鬱姫! 後ろからなんか来るよ!」
「も、もう少し……もう少しでポイントに……!」
 ポイントさえ切り替えてしまえばなんとかなる……だが、一歩届かなかった。
「きゃあああああ!!」
 衝撃にあおられ、二人は森の中に突っ込んだ。
 そして無情にも列車はポイントを通過し、ローカル線に突入したのだった。