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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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第八章 〜修学〜


「白雪せんせーとつーちゃん、私をポータラカに連れてってー☆」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は以前のお礼のために海京分所を訪れた。そこで、ポータラカ行きのことを知ったのである。
「構わないが……単なる技術研修が目的ではなさそうだな」
 博士の推測は概ね当たっていた。
「ええ。私も『生身での限界』を知ったところですから」


・出発


「博士、俺もポータラカに行かせてくれないか?」
 前日、ポータラカ行きの準備をするホワイトスノー博士の手伝いをしながら、月夜見 望(つきよみ・のぞむ)は申し出た。
「会議の方はどうするつもりだ?」
「それはもう頼んである。それに、助手として博士についていくのは当然だろ!」
 とは言うものの、それは建前かもしれない。
 少し前に、整備科長と教官長と話したときに、自分が矛盾していたということに気付いた。
 イコンを「友達だ」って散々言ってきたにも関わらず、そんな自分がイコンを「道具」として見ていた。内心では、イコンの力とそれを振るう人の狂気を恐れ、信じることが出来ない状態だったのである。
 望の頭に焼き付いているのは、イコンが導入されて間もない時期の、実戦での光景だった。
 それまでの戦いの常識を覆したサロゲート・エイコーン。その力を持った天御柱学院の生徒は鏖殺寺院の一派に対し、奇襲攻撃を行った。それは「戦い」ではなく、もはや「虐殺」とさえ呼べるほどであった。
 まだ生徒達が争いというものに疑問を持つ前のことである。シャンバラに仇なす者は全て敵。それを真に受けた結果が、その殲滅戦だ。
 望はそれがトラウマとなっていたのだと、改めて認識した。力が一人歩きするようになったら、またあんなことが繰り返されてしまうかもしれない。そう思うと、信じられなくなる。
 そんな自分に、会議に参加する資格はない。
「ならば、私の助手として向こうでのことはまとめてもらう」
 博士が望の申し出を受け入れた。
 望がポータラカに行く目的。それは、「理解」するためだ。
 イコンや機晶姫のことを。知識や技術だけではなく、精神的なことも。そうすることで、護るための戦いをしてくれる学院の皆を信じられるようになるために。
 そうなったとき、本当の意味で博士や調律者の力になれると信じて。

* * *


 極東新大陸研究所海京分所主催の技術研修という名目で集められた生徒を乗せた大型の飛空艇は、パラミタの西北地域までやってきた。
「あれ? あぁ、そうか。博士も一緒に行くんだよね」
 いつもの黒いロングコートを着たジール・ホワイトスノー博士の後ろ姿を見て、東森 颯希(ひがしもり・さつき)が声を漏らした。
「ロボット工学の母と呼ばれる博士ですよ? 行かない方が不思議です」
 月舘 冴璃(つきだて・さえり)はそれに応じた。
「この前会って思ったけど……凄いよね、あの人。知識とかはもちろん、精神面でもさ」
「ええ……それに、どんな天才でもその能力は意外にも普通でしたね」
 優秀であっても万能ではない。決して人間離れしているわけではないというのが、ホワイトスノー博士だ。
「協力……なんでもいいから出来ないものかな?」
「ケタ違いの人物同士の話です。無理ですよ」
 冴璃はきっぱりと言い放つ。
「無理って言うから無理になると思うけどな〜……と、その話はここまでにして」
 にやりと笑みを浮かべ、颯希が冴璃と顔を合わせる。
「ねえ冴璃……今回の研修なんとなーく嫌な予感しない?」
「……ここまで来て縁起でもないこと言わないで下さい」
「あはは、だよねー。にしてもこんな形で行けるとは思いもしなかったよ」
「そうですね。いくら協力関係とはいえ唐突な話でしたし」
 シャンバラとポータラカが協力することになったのはつい最近の話だ。それで生徒をぞろぞろと引き連れて見学に行けるというのは、少々驚きである。
 無論、それゆえに警戒をしている者もいる。

(ポータラカは我々シャンバラに何をさせたいのだろう……)
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は疑問を抱いていた。
 今回はシャンバラからの働きによって実現したらしいとは聞いている。が、それでも急な出来事であるため、不自然さを拭うことは出来ずにいた。
 深く詮索しようとは思わないものの、この技術研修が、万全な安全が保障されたものだとは到底思えない。
 それもあって、国軍の一員として警護役を買って出ている。
「白竜は研究員の先生方の信頼を得たいみたいだけど、かえって警戒されなくない?」
 世 羅儀(せい・らぎ)がぼそりと呟く。
 じっ、と彼を睨む白竜。
 とはいえ、シャンバラ教導団――国軍が海京であまり信頼されていないようには感じている。
 特に、極東新大陸研究所海京分所に関しては、警備システムが敷かれている程度で、契約者が一切携わっていない。それもあって、契約者よりも機械を信じているといった印象を抱いている。
「緊張しているのか?」
 責任者であるホワイトスノー博士から声を掛けられる。
「いえ、そのようなことはございません」
 元々雰囲気が硬いためか、緊張しているように見えたらしい。
「ふむ、軍人気質といったところか。
 ……そろそろ到着だ」

 一面に広がる銀世界の上に、「門番」の姿があった。
「『見ている』のでしょう? ならば、わたしが何者かは分かるはず。大人しく通してくれないかしら?」
 人形の少女は、門番の機晶姫ではなく、その背後にいるであろうポータラカ人に向かって告げた。
 次の瞬間、飛空艇は光に包まれた。
「物分かりがいいわね――『来訪者』さん」
 光が収まると、目の前には海京とは比べ物にならないほどの、「宇宙都市」とでも呼べそうなほどの未来的な風景が広がっていた。