リアクション
* * * 南地区、天御柱学院。 「お嬢、その格好は!?」 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)がリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿を見て、目を丸くした。 「さっきの放送聞いたでしょ。環菜君を『二度も』奪わせはしないわ」 彼女は環菜そっくりの外見に返送していた。元々外見特徴が似ているため、服装やメイク次第ではエリザベートすら間違えるほどだ。 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)の至れり尽くせりで、仕上げに入る。環菜のに成り代わり、天住の元へ向かおうというのだ。 どこか不安そうな視線を、鞆絵とヴィゼントが向けてくる。 「時間稼ぎにもならないかもしれないけど、少しでも気が引ければ、その隙に動ける人達だっているでしょう?」 「しかし、北地区の国軍も西地区の海京警察も身動きが取れない様子じゃないですか」 「まだ、『サイオドロップ』がいるわ」 正体不明の海京の暗部組織。風紀委員の対抗勢力ならば、この状況を打破しようと動いていても不思議ではない。 敵か味方か、彼女にとっては未だ不明な存在ではあるが。 「……仕方ありませんね、出来る限りのことはしてみましょう」 ヴィゼントがテクノコンピューターを操作し始める。 元々彼はポータラカ研修で学んできたことを統合・編集して学院に提出しに来て、そのついでにレイヴンに使われているブレイン・マシン・インターフェイスについて調べている最中だった。 ところが、クーデター勃発とリカインが環菜の格好をしたことで、それどころではなくなってしまったのである。 今は、学院のコンピューターを繋いで天住がやったように映像を電波に載せられないか試しているようであった。 「あとは場所を移動して……私がいる場所が相手に特定されないように」 本物が天住との通信を試みているように見せかけようとする。 『聞こえてる、天住 樫真。三年前の事故で昏睡状態になっているのではなかったかしら?』 おそらく、本物の環菜が事故のことを一切知らないはずがないだろう。 『三年振りに目を覚まして、まだ今の情勢が飲み込めてないようね。独立したとはいえ、「神」が圧倒的に不足しているシャンバラには、まだ「学校」が必要なのよ。必要以上に干渉しているかどうかは、まずはシャンバラ……いえ、パラミタのことをもっと理解した上で言って欲しいわね』 さらに続ける。 『「オーダー13」、既得権を嫌っているようだけど、それもまた既得権の一例ではないのかしら? それに、学校勢力同士の争いで犠牲者が出ていると言いながら、その権力を行使して外部どころか内部で諍いを起こして死者を出すことを厭わないと宣言するのは構わないの?』 ヴィゼントのテクノコンピューターのモニターに、天住の姿が映し出された。 『さすがに憎らしい物言いだ。見ての通り、僕はこうして生きてる。偽者だというなら、極東新大陸研究所との提携までの交渉の詳細を全部話すよ。僕にしか分からないことを含めてね。 それと、学校勢力が「必要以上に干渉しているだけの存在でない」なら、むしろその方が問題だ。地球人と契約者に依存し過ぎているがゆえに、「神」の存在が疎かになってるんじゃないかな? オーダー13は、むしろ強化人間は管理可能で安全な存在だと知らしめるためのパフォーマンスさ。普段は普通の人間として生活を送りながらも、有事の際は一糸乱れぬ統率の取れた兵士となる。どのくらい優れているかは……そうだね、せっかく北地区に国軍がいるんだから、彼ら相手に証明してもらうとするかな。 内部の諍いは構わないかって? 別に言う通りにすればいいだけじゃないか。「皆殺しだ」って言ってるわけじゃないんだからさ。むしろ、一般人が死ぬとすればそれは君達腐った学校勢力の責任だよ』 不敵に微笑みながら、天住が告げた。 『ってことでお芝居はそんなところでいいかな、ニセカンナさん?』 次の瞬間、風紀委員が室内に押し寄せ、リカイン達を包囲した。 『そうそう、このやり取りが海京中に流れてると思ったら大間違いだよ。海京のネットワークは僕の手中にある。君達がどこからアクセスして、何をしていたかなんてのは全部筒抜けなんだよ』 彼女達の失敗は、海京のネットワークが天住に掌握されていることに気付けなかったことだ。 『せっかくだ。君は本物をおびき出すために利用させてもらうよ。ああ、どうせ本物の御神楽 環菜は来ないか。友達なんかより、我が身の方が大事だからね」 彼女達は全員気絶させられ、リカインだけが風紀委員によって連れ去られた。 |
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