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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)

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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)
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第八章 選定神バージェス



 ここにあったありったけの食料がバージェスの前に並べられた。
 その中には、葉月 可憐(はづき・かれん)が用意していたお弁当もあった。それらをバージェスは、本当に少しずつ、味見をするかのように全ての料理をつまんでいくと、それからこの場にいる全員の部下を見回して、食えと命令した。
「お口に、合いませんでしたか?」
「見慣れぬものがあるとは思ったが、貴様が用意したものか」
「はい。是非バージェス様に食べて頂きたいと思いまして」
「……口に合わなかったわけではない。空腹だと思っていたのだがな、そうでもなかった。しかし、俺のためというのならば横に置いておけ。あとで……頂くとしよう」
 バージェスは食事をする部下を置いて、そのまま出口へと歩みを進めた。
「どこへいくのかなぁ?」
 その背中に、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が聞く。
「客人が来ている。小物だが、いい殺気だ。くっくっく、やはりこうでなくては面白くない」

「準備、終わったぜ武尊。あとは、スイッチ一つで生中継をジャックできる」
「今回ばなしは嘘でも誇張でもねーんだ。しっかり映せよ」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)はおうよ、とこたえた。
 恐竜騎士団の連中が用意した生中継のシステムは、すごく単純でわかりやすいものだ。だから、ジャックするのはとても簡単だった。これで、会場のモニターやネットで視聴している人全員に、この場の状況を見せ付ける事ができる。
 これから始まるのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)とバージェスの戦いだ。もっと正確に言うのならば、殺し合いだ。ここで、バージェスを殺して武尊が恐竜騎士団の団長になる瞬間を、できるだけ多くの人に見せ付けるために、生中継をジャックする準備をしていたのである。
「出てきた、頼むぜ」
 遺跡の入り口から、ゆっくりと姿をバージェスが現れたのを確認して、又吉は映像をジャックした。
「バージェス! ……死ぬ前に何か言い残したいことはあるか?」
 ラスター血煙爪の刃が回転を始める。
 バージェスがどこまで現状を知っているだろうか、目覚めて十分と経ってないが、誰かが説明をしているかもしれない。もっとも、知らなくても別に構わないはずだ。恐竜騎士団ならば、いつでも上の連中に決闘を挑む権利がある。
「御託はいい。俺を殺したいんなら、やってみろ」
「武器を持ってくるぐらいなら、待ってやってもいいぜ」
「言うねぇ。だが、殺す相手のことぐらいちったぁ知っておいた方がいいぜ。俺はな、この俺の体よりも強い武器を知らねぇんだ。それと、俺はお喋りもあまり好きじゃねぇ、こいよ。初手はお前に譲ってやるからよ」
 バージェスは手招きをしてみせた。
「……映像はうまくいっているか?」
「大丈夫だぜ、武尊」
 映像のジャックが成功しているのは確認済みだ。今頃、会場のモニターの前に居る奴らは驚いている頃だろう。
 準備は整った。あとは、バージェスをこの場て倒してしまえば、恐竜騎士団は武尊のものだ。バージェスを倒すのだ、文句は誰にも言わせない。
「うおおおお、バラバラになりやがれぇ!」
 ラスター血煙爪を思いっきり振り下ろす。本当にバージェスは初手を武尊に与えて、反撃をしてきたりはしなかった。ただ、頭に振り下ろされたラスター血煙爪を右腕を前に出して防いだだけだった。
「嘘だろ、刃が通らねぇ」
 腕に当たったラスター血煙爪は、火花を吹いてはいるが、バージェスの腕を落とすことも、血を流させることもできてはいなかった。
「それで終わりか?」
 なぜバージェスの腕が切断できないのか。スキルによって防御力をあげているのか、恐らくそれが一番正解に近い気がした。そうでなくては、ラスター血煙爪を受け取められるわけがない。
 となれば、腕を除く部位なら攻撃が通るはずである。ラスター血煙爪を押し込みながら、武尊は真空波を放った。狙いはもちろん、バージェスの首だ。
 しかし、落ちない。首が落ちない。当たったかどうかさえも、わからない。反応が無かった、何も、自分の落ち度で真空波を出し損ねたか、いや、そんなわけがない。
「……言ったろ? 俺は自分の体よりも強いもんを知らねぇんだ。武器も防具もなっ」
 左腕が武尊の顔面を打ち抜いた。それがどれほどの威力だったか、映像には人間の体が玩具のように吹き飛ぶシーンが記録されている。
 吹き飛び、まともに着地もできずに武尊は地面に叩きつけられた。心も体も十分折れてしまえる一撃だったが、ふらつきながらも武尊は立ち上がった。意地だけで、立ち上がっていた。
「くっくっく、そうだ。戦え、牙を交えると決めたなら、死ぬまで戦ってこそだ」
 言いながら、バージェスは横目で又吉を見た。だが、すぐに視線を外す。
「おいおい、律儀に順番待ちか? ここになぁ、俺より強い奴なんて一人もいねぇんだよ。この首が欲しいんだったら、黙って待ってねぇで隙を見て来やがれ!」



「正直な所、バージェス様が『脱皮』をなさるのかと思っていましたわ……見た目が爬虫類ですので。その為に弱まって居るのかと……」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)はバージェスの行方不明を、そういうものと考えていた。
 爬虫類に限らず、生物の脱皮の瞬間というのは一番危険にさらされる時だ。そのタイミングを知られぬために、身を隠している。そんなものだと思っていた。
 だが、実際はそうではなくバージェスは実際に生死の境をさまよっており、もう半分ぐらいはあっちの世界に足を突っ込んでいるような状態だった。
「このまま黙って見てるつみりじゃないみたいだな」
 声をかけてきたのは、中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)だった。
「わかりますか?」
「半分ぐらいなら、な」
 綾瀬に憑依している奈落人の飛鳥は、彼女の意思を完全に奪いはせず、半分半分で保つようにしている。心の内側まで見えるわけではないが、心臓の高鳴りような体の変化は共有している。
「私は『傍観者』ですわ……ですが、今だけは『1人の人間』として行動致します……」
「一人でするの?」
 心配するような口調ではなく、ただ確かめるように漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が聞いた。それに、綾瀬はええと答える。
「選定神バージェス。貴方様に1対1での決闘を申し込みますわ。神の最後の瞬間を見れる特等席ですもの。こちらも、礼を尽くさねば失礼にあたるというものですわ」
「そういう事なら、任せたわよ。できるだけ、怪我しないでね」
「無茶はするなよ」

「ふはははは、それじゃ俺の首はやれんなぁ!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は風圧だけで吹き飛ばされてしまいそうな、バージェスの拳の範囲から、なんとか退避できた。
「どこが死に掛けの病人よ。元気じゃない、これでもかってぐらいに!」
 牙竜が提供してくれた情報は、決して間違っていたわけではないだろう。事実だし、眠りについているバージェスは一度彼女も目にしている。死の足音が聞こえているのは間違いないのだが、しかしそれでもなおバージェスは化け物らしい。
 既に武尊はノックダウンして動いていない。死んではいないだろうが、というかあのパンチを顔面に受けて一度立ち上がってみせたのは正直凄いと思う。あれはもう、パンチなんて生易しいものではなくて、追突事故だ。何トンというトラックか何かが衝突するようなものだ、耐えられるわけもないし立ち上がるなんて論外だ。
「話を聞いて同情しちゃったのは、まずかったかなぁ」
 先にこの場所にたどり着いていた牙竜から、大方の話は聞いている。
 戦う事を望み、戦い以外のものに価値を見出せないバージェスの最後を、病死では飾れないという恐竜騎士団の思いや、バージェス本人の願いは、共感とまではいかないが理解できないものでもない。
 むしろすごく単純でわかりやすい。だからこそ、武士の情けのつもりでこうして彼の声に呼ばれて出てみたが、それに支払うチップが自分の命かもしれないと今頃になって気づいた。
「けどまぁ、小賢しくない純粋な強さってのも、いいものよね。さて、どうしたものかしらね」
 バージェスの強さを分析すると、とにかく硬くて、とにかく一撃が重い。素早さは高くはないが、歴戦の経験と勘によってか、それが全く足かせになっていない。
 付け入る隙はあるだろうか。いや、それこそそんな小賢しい手を使ったところで、蹂躙されておしまいだろう。
「全力で、ぶつかるだけよね。こういうのは!」
 飛び込む。もう、おまけの初手は使い切ってしまっている。あとはただひらすら、全身全霊で打ち合うのみだ。
「そうだ、来い! もっと俺を楽しませてみせろ!」
 肌がざわるくような咆哮を受けて、それでも恐れず前に進む。
 バージェスの二つの腕を武器と見るならば、二十合ほど打ち合った頃合で、バージェスの動きが急激に鈍くなった。
 誘っているかもしれないという危惧が祥子に浮かんだのは、攻撃を入れてからだ。丁度人間なら急所にあたるみぞおちに、梟雄剣ヴァルザドーンが入った。分厚い皮膚かそれとも鱗のせいか、切るには至っていないがそれでも衝撃は体の内側に響く。
「ごふっ……」
 バージェスが、吐血した。
「……いいのを入れてくれるではないか」
 バージェスはそう言った。言ったが、嘘だというのは祥子にはわかっていた。バージェスが血を吐いたのは、一撃が入るほんの少し前だったからだ。普段だったらその誤差は判別できなかったろう、今だからこそ、打ち合っていたからこそわかる。
 なぜ、そんな嘘をつくのだろうか。理由はわからないが、しかし嘘をつくに足る意義があると祥子は感じた。
「まだまだ、これからよ!」
 さらに続く、打ち合う、血を吐いたバージェスはその分体が軽くなったとでも言うように、待ちによっていた戦法が、自ら前に出る形になった。
 数えて、四十三合目、ついにバージェスの拳に祥子は捕らえられた。

 人間の感覚と時間は等式では繋がらない。極限まで集中した時、一秒はとてつもなく長く、一時間が瞬きの間に消えていく。
 それは特別な時間だ。そして、綾瀬にとってそれはまさに今だった。
 既に二人がバージェスの前に倒れていた。バージェスはまとめてかかって来いと言ったが、一対一を望んだ綾瀬は祥子が出た時点で待った。バージェスの体の病み具合は良く知っていたから、最悪そこでバージェスが倒れるかもとも思ったが、それでも待った。
 待ってよかった。
 無粋な横槍が入らない打ち合いをして、どちらかが倒れるまで戦う。それだけの事が、ただそれだけなのに、楽しく感じてしまう。
「そうだ、もっとだ。殺すつもりで来い!」
「そのつもりですわ」
 バージェスは攻撃を避けない。全て、受ける。
 病のせいで体が動かないのではなく、それがバージェスのやり方なのだろう。
 闘争に特化し、強さを追い求めた結果、強くなりすぎた神はただ戦場に立つだけではもう闘争を感じなくなってしまっているのだ。だから、攻撃を受けることで少しでも自分が戦いの中に居る事を感じようとしている。
 隣合わせの死の恐怖を感じない限り、闘争ではなくただの遊びになってしまうからだ。
 時に一撃で相手を瀕死に追い込む、ハイアンドマイティの一撃でさえバージェスは避けない、崩れない。
 必殺の一撃を何度も何度も繰り出して、それでも届かない。飛び道具を捨てて、自身の身体能力をスキルで底上げしてこれだ。浮かぶ笑みが、楽しいからなのか、それとも呆れてしまったからかも綾瀬にはよくわからない。
 もう何度目かもわかない、全力の一撃を繰り出したその時、変化があった。
 攻撃を受けた、バージェスの腕から血が迸ったのだ。武器の威力を考えれば、そのまま腕を切断しても十分なのだが、刃はほんの数ミリが沈んだだけで、かすり傷に等しい。
 だが通った、初めて手傷を負わせることができた。
 衝撃の瞬間、何かキラキラと光るものが飛び散ったが、それが何なのかはバージェスの口から語られた。
「俺の鱗を割るか、くっくっく、らしくなってきじゃあないか!」
 今まで、ありとあらゆる攻撃を受けてなお無傷いた理由、それが彼の体を覆う鉄壁の鱗だった。どんな攻撃をも受け止め、攻撃の時にはその硬さがそのまま武器になる。
 最初に言った、自分の体より強い武器も防具も知らないという言葉の意味が、形をもって理解できた瞬間だった。
「まだまだこれからだ! なぁ! そうだろうがぁ!」
 手傷を負わせたといっても、所詮はかすり傷。この程度は、バージェスの動きに何ら変化は無い。だが、続ければ通るのだ。あの硬い鱗も、決して完全無欠ではない。
 力の限りハイアンドマイティを振り、一撃一撃に全力を込める。
「わかってはいましたけれども……」
「ま、よく頑張ったってところだな」
 先に砕けたのは、バージェスの体ではなくハイアンドマイティだった。
 何度も何度も繰り返し振るううちに、刃が欠け、ついに砕けた。負わせた手傷は一つ、それでも三人目にしてやっと負わせた最初のダメージだ。
 一歩一歩確実にバージェスは綾瀬に近づいてくる。獲物が砕けた時に、極限まで達した集中が途切れたのか、指先一つもうまく動かせない。いつの間にか、体の限界を突破してしまったらしい。
 手の届く間合いに入ったバージェスは、痛烈なボディブローを打ち込んできた。だが、人間が吹き飛ぶようなものではなく、その場で綾瀬はひざを折った。だが、意識を刈り取るほどのものではなく、苦痛ではあるが耐えられるものだった。
「これは貴様が俺が奪い取ったものだ、持っておけ」
 綾瀬の目の前に、半透明の小さな鱗が一枚あった。全ての攻撃を受け止め、最強の矛になるバージェス唯一の武器であり鎧の、ほんの一欠片。
「これで終わりか!」
 天に向かって、バージェスが吼えた。まだ足りない、まだまだ足りないのだと。
「次は私達の番です!」
 声は空から返ってきた。
 バージェスの前に現れたのは、可憐とアリスの乗るイコン、澪標がゆっくりと降りてくる。
「人形を使うか! ふはははは、いいだろう! 面白くなってきたわ!」
 バージェスはその場に一度かがみ、何かを懐から取り出してみせた。その何かは、その場で強烈な光を発すると、恐竜の咆哮と共にその巨大な体躯を唐突に現した。
「さぁ、これでお相子だ」
 70センチにも及ぶ長い爪を持つ、ティリジノサウルスの背中の上にバージェスは立っていた。化石から蘇らせられたばかりだからか、ティリジノサウルスは興奮し今に飛び掛ってきそうである。
 バージェスは恐竜を化石から呼び出すことができる。可憐らに合わせて復活させたのは一頭だけなのは、相手を倒すためではなく戦場に身を置きたいからだ。
「恐竜が出てくるとはねぇ、これはますます油断はできないねぇ」
「最初から全力のつもりです。病人なんて思ってはいけません」
 澪標の準備の間に、三人が次々と挑み、そして倒れていくのは二人も見ている。油断や余裕を見せられる相手ではないのだ。例え、こちらがイコンを持ち出したとしても。
「さぁ、来い!」



「どっかで見た事ある光景じゃねぇか」
 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は覚えていた。奴は忘れているかもしれないが、はっきりと鮮明にあの時の事を覚えていた。
 選定神バージェスに多くの契約者が挑み、それが全部地に臥している中、バージェスだけが立っている光景をだ。倒れているのは、宇都宮 祥子、国頭 武尊、小鳥遊 美羽、ベアトリーチェ・アイブリンガー、中願寺 綾瀬 、それにイコンが一機に恐竜が一頭だ。
「……あの髭野郎がほら吹いたか?」
 恐竜騎士団に指名手配されていた竜造は、先日捕まってしまった。牢獄ともいえない場所に監禁されていたが、そこに居た髭面のおっさんを殴り倒して逃げ出したのだ。人がいいうえに、怪我までしている髭面のおっさんを倒すのは簡単だった。あまりにも簡単だったので、少し手加減しておいたぐらいだ。
 殴り倒すついでに、バージェスの事も聞き出してみたが、今奴は病に倒れて死ぬ寸前だと言っていた。それがどうだ、元気に今日も契約者をまとめてのしているじゃないか!
「ま、どっちでもいいか。死んでさえなけりゃ、今度こそぶちのめせるってもんだ!」
 今度は引かない。自分より格上の奴が寝転んでようが、なんだろうが、最低でも一発は殴る。できるなら倒れるまで殴る。それだけだ。
 幸い、バージェスは挑戦者求むって様子で、参加者を邪魔者が止めるような状況ではないらしい。大手振って、殴りに行ける。
「遅かったですね」
 唐突に声をかけてきたのは、あの髭面のおっさんだった。
「あん? なんでてめぇがここに居るんだよ」
「ある人に助けてもらいましてね」
「でなんだ、俺を止めるか?」
「いえ、それをバージェス様は望んでいません。どうぞ、思うが侭に行動してください」
「……じゃあ、なんで声をかけた?」
「私から注文が一つ。好きにして構いませんが、死なぬように。怪我をしていたとはいえ、負けたままというのは気分が悪いのですよ。安心してください、ここで負った傷が完治するのは待ちますよ」
「けっ、言うじゃねーか」
 髭面のおっさんは、これ以上は言う事が無いと一歩下がった。
 この会話を聞いていたのか、バージェスはこちらに顔を向けていた。
 この時、竜造は以前と違っている事に気がついた。バージェスが手傷を負っていることと、あの時にあった疲れのようなものが今のバージェスには無いということだ。
「次は貴様か、少しは俺を楽しませてくれるんだろうな?」
 竜造の目を見て、バージェスは言った。
「楽しむだ? これから俺に倒される奴が、なに寝ぼけたこと言ってやがる!」
「くっくっく、いいぞ。そういうのは俺好みだ。言うからにはやってみせろよ! つまらなかったら命は無いと思え!」



「あーあ、派手にやっちゃって」
 のんびり迂回しながらバージェスのところにたどり着いてみたら、想像以上に大変なことになっていてコランダムはそれを言うのが精一杯だった。
 何よりも面倒なのは、この映像を撮影されて生中継に割り込まれたことだ。
 茶番だとは思っていたが、これでは新団長決定戦が本当の茶番になってしまう。
「……ったく、人の苦労も知らねーで。これだから、年寄りってもんは始末に終えないな」
 言いながら、コランダムは自分の槍を持った。
 そのまま進んで、バージェスに声をかける。
「おっさん、何やってんだ?」
「見ればわかるだろう? 次の相手は貴様がするか? くっくっく、悪いことを聞いたな、貴様にそんな度胸はあるまい」
「いいや、そうでもないさ。色々考えてみたが、こいつは千載一遇のチャンスってやつだ。初めて見たぜ、あんたが血を流してるところなんてな。今の俺なら、あんたを倒せるんじゃないかなーってな」
「ほう。聞いたぞ、自分の口から出た言葉、今さら引っ込めたりはさせぬぞ」
「ああ、俺だってそのつもりだ。せっかく整えた舞台をめちゃくちゃにしてくれた分も上乗せして、きっちり清算させてもらう。覚悟しろよな、バージェスのおっさんよぉ!」