天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

リアクション

 爆撃で生じた粉塵が晴れ、『I2セイバー』の前に幹や枝を吹き飛ばされたクリフォトが現れる。一見すると生命活動を失っているように見えるが、それでもまだそびえ立っている所に、世界樹の(あくまで仮初の存在だが)生命力の高さが伺える。
「これで終いにする。……行くぞ!」
 地表すれすれを飛んでいた『I2セイバー』のブースターが点火され、爆発的な加速力を得た船はクリフォトへ一直線に飛ぶ。十分接近した所で船体下部に仕掛けられていた爆薬を爆発させ、艦首を上向きに起こし、装着されていた衝角をクリフォトの幹へ突き刺す。
「貫けぇぇぇ!!」
 全砲門を開き、ありったけの弾丸を見舞う『I2セイバー』、しかし早くも再生を始めた枝が船を刺し、絡まり、引き剥がさんとする。
「出力低下! このままではエンジンが焼き切れるぞ!」
「まだだ! 完全に生命力を奪うまで、退くわけにはいかない!」
 直後、皐月たちのいた部屋へ枝が侵入、操舵をしていた皐月を吹き飛ばす。
「皐月! くっ……」
 マルクスが駆け寄ろうとするが、枝が完全に道を塞いでしまっていた。そしてマルクスも、船を襲う強烈な揺れに部屋を転がり、全身を打って意識を失う。
 クリフォトは『I2セイバー』を引き剥がし、怒りのままに粉砕せんとしていた――。

「……あれ? あたしたち……生きてる?」
「……たぶん……」
 パチパチ、と目を瞬かせて、リンとプリムが自らの無事を確認する。一足遅れて目を開いた未憂は、視界に映る機体の、白色の輝きに目を覆う。
『みんなは避難して! コードさん、藍子さん、お願いしますっ!』
 その機体からリンネの声が聞こえたかと思うと、白色の機体は地を蹴って飛び上がる。
「何があったのかしら……?」
「さあな。だが、義妹達の思いに、機体の方も応える気になったんだろう。
 行くぞ藍子、義妹達のたっての願いだ、無事にこいつらをイルミンスールまで送り届けるぞ」
 コードと藍子が先陣を切り、後に未憂たちが続く形で、一行はイルミンスールへ帰還を図る。その間に白色の機体はクリフォトへ、今にも破壊されそうな『I2セイバー』の下へ向かっていた。
「どうするつもりなんだな?」
「決まってるじゃない、助けるんだよ! この子が……エールラインが教えてくれてる、まだあそこには人がいる!」
 モップスに答えるリンネ、その声を聞いて博季が水晶を撫でながら呟く。
「エールライン……それがお前の、本当の名前なのか」
「いい名前じゃない。魔王と呼ばれるよりはずっと、ね」
 その間にも『エールライン』は『I2セイバー』のすぐ傍まで迫っていた。
「ファイア・イクスプロージョン・ツヴァイ!」
 手から生み出した炎を剣に変え、『エールライン』はクリフォトの枝を切り裂く。切断面から伝う炎が絡まっていた枝まで焼き切り、『I2セイバー』は解放される。自動操縦プログラムに切り替わっていたようで、船はイルミンスール方面へ向かって離脱を始めた。
「後は……!」
 『I2セイバー』を後方に見、『エールライン』は前方のクリフォトへ向き直る。幹に深々と穴を開けられつつも、まだ生命力は残っていたようで、少しずつ再生が始まっている。クリフォトの力を弱める結界も、再生能力を抑えるには相手の力が強過ぎた。
『リンネ!』
 通信が入り、『エールライン』の周囲に【アルマイン隊】の面々が合流する。“進化”を遂げた『魔王』がクリフォトに止めを刺そうとしていることを見抜き、自分たちも一撃を与えるべく、やって来たのだ。
「みんな……よーし、それじゃでっかいの、いっくよー!」
……天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ。
 今ここに手を取り合い、
 大気を切り裂く雷迅に乗り、
 立ちはだかる敵を塵と化せ!」

 リンネの詠唱が終わり、炎が剣から弓矢に変わり、鏃の先端が開けられた穴へと向く。
「これを使うんだ! これがイルミンスールの思いの力、絆の力だ!!」
 涼介の搭乗する『ソーサルナイト』が“進化”を果たし、手にしていたブレードに全魔力を込め、塞ぎかかっている穴へ投げつける。
(私たちがここで頑張れば、エリザベートが魔力を消費するのを防げるってわけね。それじゃあちょっと気合入れましょうか。
 エリザベートには是非、アーデルハイトを連れて帰ってもらうんだからね!)
 泡の搭乗する『アルマイン・シュネー』も“進化”を遂げ、巨大な氷の刃『メイルーンの牙』を顕現、やはり穴へ投げ入れると、周囲が強烈な冷気で凍り、回復が阻まれる。
(リンネちゃんも歌ってみない!? って誘ってみたいけど、今はちょっとね。
 でも、今度是非歌ってみない? ボクは今も、魔族へ音楽を届けたい思いに変わりはないよ!)
 花音の搭乗する『クイーン・バタフライ』のスピーカーから、歌声が聞こえてくる。

『シンデレラ・ファイティングスタイル』

 真夜中に響く12時の鐘 真実の私のプロローグ
 あなたの瞳に映る幻 解ける魔法と夢の時間
 「ゴメン、もう帰らなきゃ」 理想の姿は壊したくないの
 ありがとう 微笑を残してくれた王子様 

 カボチャの馬車で希望の扉……開いてくれた魔女さん
 お礼に灰かぶりの罪を許せる強さを持ちたいの

 シンデレラ・ファイティングスタイル
 自分に嘘を付かない勇気 心は美しく磨きたい
 光と影を受け止めて 胸を張れる生き方
 透き通るガラスの靴 曇りのない想いを信じます

 幸せの欠片を探して すべての愛へ祝福の歌


 その歌が新たな力への道を開いたか、雷華の搭乗する『トールマック』、歌菜の搭乗する『セタレ』にも、強力な魔力上昇の効果が現れる。
「雷華さん、すごい反応です! もしかしてこれが、“進化”の力でしょうか?」
「まあ、そうなんでしょうね。目覚めた理由は分からないけど、とにかくこの魔力は使えそうね」
 『トールマック』から各機へ魔力が供給される。その魔力を用いて『セタレ』が、マジックカノン全力放射を見まわんとする。
「アーデルハイト様を連れ戻す……この力は、そのために使う!」

「ファイア・イクス・アロー!!

 最後に『エールライン』から、炎の矢が電撃の如く放たれ、穴に飛び込む。
 中で合わさった全ての魔力が暴発、天地を揺るがす大爆発を起こす。爆風が幹の反対側へ、クリフォトの一部と共に吹き抜け、先の風景が見通せる程に見事な穴を貫徹させた。
 直後、白色に輝いていた『エールライン』の輝きが消え、元の姿に戻ると、その場に膝をついた格好で崩れ落ちてしまう。
「ど、どうしたんだな!?」
「あー……魔力切れかな……私も疲れたー……」
 呟いて、どさ、とその場にリンネが突っ伏す。慌てて博季が駆け寄りリンネを抱き起こすと、すぅ、と寝息が聞こえてきた。
「今のが“進化”だったってわけね。一時的な魔力枯渇状態だから、少し休めば治るでしょ。
 ……向こうも、暫くは動けないみたいね」
 幽綺子が示す先、幹の一部にぽっかりと穴が開いたクリフォトは、こちらに襲いかかってくる様子がない。生命力を殆ど絶たれたことと結界により、それだけの元気もないようであった。
「……お疲れさまです、リンネさん」
 博季の腕の中で、リンネがふふ、と微笑む――。


「ねえニーズヘッグ、エリザベート校長に「どデカイ風穴作ろうぜ」とか、「後はオレに任せとけ」とか話してたみたいだけど、結局何をするつもりなの? ……ううん、何をするかはいいの。ニーズヘッグ、ワタシの魔力が必要な時は言ってね。それ以外でもワタシにできる事があったら、ドンドン言って構わないから」
「多数の生徒と契約しているあんたにとっては、One of Themかもしれない。だが、オレにとっておまえはパートナーだ。
 危険が伴おうと、オレはあんたに付いてくぞ」
 ニーズヘッグの下を訪れた、ニーズヘッグの契約者であるミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)瓜生 コウ(うりゅう・こう)に、ニーズヘッグはそうだな、と呟き、考えていた案を口にする。
「オレが最初にここに来た時のことを覚えてるか? あン時はコーラルネットワークという場だったが、ユグドラシルはイルミンスールに枝を伸ばして入って来た。それとおんなじ事を、クリフォトに対してもやろうって考えだったんだ」
 魔族があらかた一掃された時点で、エリザベートにイルミンスールを動かしてもらう。世界樹同士が直接触れ合えば、コーラルネットワークの序列は関係がなくなり、二つの間を繋ぐ道が生まれる。その道を使って、クリフォト内部へ侵入する。無論、力の差は歴然だから短時間しか持たないだろうが、それしか方法はないだろう、と。
「今思えば、オレをここに寄越したのも、こういうことを見越してのことなのかもしれねぇなぁ……。
 って、ま、それは置いとくぜ。で、いくらイルミンスールでもクリフォトに穴を開けるのは難しいから、オレの出番、というわけだ」
「あなたもとんでもないものを食べますねぇ」
 そこに、前線からエリザベートがテレポートで戻って来る。
「好きで食うわけじゃねぇよ。……つうわけで、オレをイルミンスールの腕の先端に括りつけてもらって、クリフォトの幹に噛み付き、食い進む。そこにイルミンスールの枝を突っ込んで、道にしよう、つうわけだ」
「……えっと、なんというか、スゴイね、としか言えないよ」
 話を聞いたミレイユとコウが、似たような感想を漏らす。ニーズヘッグとエリザベートは以上の案を考えていた……のだが、直後もたらされた報告によって、その無謀とも豪快とも言える案は実行されない運びとなった。
「……えぇ!? クリフォトに穴が開いた、ですってぇ?」
「おいおいマジかよ――って、マジだぜ。どデカイ穴が開いてやがる。しかも開いたまんまだ。どんだけ張り切りやがったんだ、テメェら」
 エリザベートの言葉を聞いて、ニーズヘッグが外に視線を向け、報告が事実であったことを確かめて向き直る。『I2セイバー』の突貫、『エールライン』の全力魔法、その他、生徒たちの懸命の攻撃によって為されたものであったが、経過を知らない一行は大層首を傾げる。
「……ニーズヘッグの他に、あれだけの破壊力を出せるものがあったか? ともかく、一つの懸念は解消されたのではないか?」
 コウの言う通り、道を作るための条件の一つ、クリフォトに穴を開けるというのは満たされた。後はイルミンスールがその穴に自らの枝を差し込めば、道が完成する。……というより、穴が出来ている以上、イルミンスールがわざわざ飛ぶ必要もなかった。
「枝がありゃあ、それでいい。そうだな……こんくらいの」
「こんくらい……ってデカ過ぎですよぅ! 誰が切るんですかぁ!」
「仕方ねぇだろ、そうでもなきゃ人が通れる道が作れねぇ。それに、適任はいるだろ。
 ……おいアメイア、いるんだろ。ちょっとでっかくなって切ってこいよ」
「……貴様、私を植木職人か何かと一緒にするつもりか? ……まぁいい、手伝えることがあれば力を貸そう」
 アーサーをイナテミスへ送り届けたアメイアが、ニーズヘッグの求めに応じて現れる。
「……ちょっと待つですぅ。切る、ってイルミンスールをですかぁ?」
「当たりめぇだろ? それ以外に何があるってんだ」
 何を言うんだ、という顔のニーズヘッグの言葉を聞いて、エリザベートが喚く。
「イヤですよぅ! イルミンスールが痛い思いしたら、私だって痛いじゃないですかぁ!」
「枝の一本くらい、イルミンスールでもどうってことねぇよ。アメイア、さっさと行ってこい」
「……いいのか?」
 逡巡していたアメイアだが、それが一番イルミンスールに負担が少ない策だとニーズヘッグに説明されると、すまない、と一言謝って外へと飛び出していく。
「ま、待つですぅ!」