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リアクション
【4】おれたちのポリスストーリー……6
「……舐めた歌で署員を魅了させるか?」
次に挑むのは、焔の魔術士七枷 陣(ななかせ・じん)に憑依した奈落人七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)だ。
『いや、ただの歌にそんな効力はないんとちゃうか?』
「ならば、バンフーも気功術の使い手。自分の気を歌に乗せてランクの低い輩を操作する事が出来る類か……」
刹貴は正攻法で攻めるつもりは微塵もない。
ちょうど天斗が蹴り飛ばされたタイミングに、物陰から一気に接近を試みた。
「……その気功、無為に散るがいい!」
不意を突き、奥義『鬼門封じ』を放った。
人体の要となる経穴を突くことで、気の流れを一時的に遮断させると言う奥義だ。
「……ぐっ、FUIUCHIたぁ、性格の悪い奴らだ! それでこそdisりがいがあるってもんよ!」
OK遊びはここまでだ! 焔の魔術士のおでましだ!
クリスマスに婚約発表 両手に花で思わずひゃっほう
しかしお前らよーく見とけ
リーズは見た目12歳 FU! 真奈は実年齢2歳 DA!
こいつはもう言い逃れできないぜ!
ナナカセジンa.k.a.ローリコン! ナナカセジンa.k.a.ローリコン!
「……くくく、なんか言われてるぞ」
バンフーからすれば誰が取り憑いてるのかなんてわかるわけもなし。
とりあえず見たまんま、陣のほうをdisり始めたのだった。
『ちくしょう! なんで俺ばっかり人前でdisられなきゃならないんや、こんなん不公平や!』
「しかしそれほど効いてないんじゃないのか?」
『あ、そう言えば……軽く凹んだだけで済んでるわ……って、おい!』
バンフーも自らの異常に気が付いた。
「な、なんだ、ラップに気が乗らねぇ……!」
「思ったとおり、気を使う技だったな」
警官を虜にしてしまったHip-Hop Kenpowの奥義とは『イルラップ』。
気を伴った歌声で深層心理に訴えかけ、対象の意識を変革させてしまう恐るべき秘技なのだ。
「これでお前のまやかしは破られたわけだな……」
しかしバンフーは笑った。
「そいつは違うな。俺の技は相手の頭に条件を刷り込む技だ」
「む?」
「つまりこのバンフーのカリスマが失われない限り、俺の熱狂的なファンとなったままってことさメーン!」
Hip-Hop Kenpowには気を必要としない技もある。
それがこの『チェケラッ掌』。
正直、拳法舐めてるとしか思えないが、チェケラという時の手の動きをそのまま技として成熟させた秘技である。
しかし、日々チェケラを多用するラッパーのチェケラは大岩を砕き、鋼鉄の門戸を貫き、つまらねぇ世の中に風穴を開けるほど威力を秘めている。
「チェケラ! チェケラ!」
「ぐ……!」
刹貴は繰り出されるチェケラを素早く回避した。
これまでに培った戦闘の直感でわかった、この技は食らったらまずいことになる、と。
「こいつ、気だけじゃないな……。肉体も高い水準で完成されている……」
「HO! 当たり前だ! これぐらい出来なきゃ、ミュージックシーンのトップは走れねぇんだYO!」
しかも封じることに成功した気だが、拳を交わしていると少しづつ気が拳に戻っているのがわかる。
「達人クラスとなると、気を押さえておけるのはわずかな時間しかないか……」
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(非常に不愉快だが……保名様が『万勇拳』の者として動く以上、僕もそれに従いましょう)
膠着状態に陥りかけたとその時、潜んでいた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が飛び出した。
葛葉は赤い瞳をカッと見開き、痺れ粉をバンフーに浴びせた。
「ぶあっ! ペッペッペッ! なんだ、こりゃ!」
「おや、もろに吸い込んでしまいましたね……。春華さん、今ですよ」
「ホワチャーーー!!」
今度は鮑 春華(ほう・しゅんか)が物陰から飛び出した。
なんだか凄くご機嫌なのは状況的に暴れても良さそうな現場だからなのだろう。
春華はスクイズマフラーを放ち、痺れ粉で動きが鈍くなっているバンフーをぐるぐると縛り上げた。
「このまま絞殺ッスよー!!」
「うぐっ!」
「春華さん、殺すのはやめてください」
「うええっ! バイフー、ダメってどういう事っスか!?」
「あくまでも目的は『更正』なのです。今回は我慢してください」
「ウギギ……イライラするっス! 折角、好き放題殺せると思って楽しみにしてたッスよ、この警察署襲撃を!」
遠足みたいに言わんでほしい。
「た、大変だ! 署長が賊に捕まっているぞ!」
「バンフー署長をお助けしろ!」
こちらに駆け寄ってくる警官に、春華はゾッとするような視線を向けた。
その途端、彼女の放った殺気に飲まれ、彼らは恐慌状態に陥った。
「五月蝿いっス! こちとらナーバスになってるっス! もっと気ぃ使うっスよ!」
「僕も今日の仕事にはストレスが溜まっています……」
葛葉も残念そうに言うと、そのイライラをぶつけるように、恐慌状態の警官を霞斬りで切り伏せた。
「……なのでハツネ様も殺さないように気を付けてください」
ふと気が付けば、バンフーの前に破壊衝動に取り憑かれた少女斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が立っていた。
「うん……。でもその代わり、死なない程度に遊ばせてもらうの」
「な、なにをする気だ? 馬鹿な真似はやめといたほうがいいぜ?」
「ヘンテコ頭に拒否権なんてないの。この黒銀火憐で鞭打たれてればいいの」
ハツネの振るった鞭が、バンフーを激しく打った。
「だあああっ!!」
「ヒップホップだか何だか知らないけど、いい歳の大人がいつまでそんな格好で踊ってるの?」
「ぐええええええっ!!」
「あっ、今は這いずり回ってるんだっけ? クスクス……芋虫みたい♪」
「あううううううううううううっ!!」
「早く許し請いして、靴でも舐めなよ、芋虫ー」
「ぐぬうう……! M.C.バンフーをナメんじゃねぇぞ! K・U・S・O……このKUSOガキが!!」
バンフーの気迫にドレッドヘアーがふわりと浮き上がる。
身体を独楽のように回転させると、春華はその勢いに引っ張られ、バンフーの周りをぐるぐると振り回される。
「わわわっ!?」
「HEY! ストライク!」
春華はハツネに直撃。二人はもみ合うようにして、床を転がっていった。
その姿に天神山 保名(てんじんやま・やすな)はやれやれと肩をすくめた。
「例え己が優勢であっても、戦いにおいては油断は禁物じゃと言うに。そうは思わんか、バンフーよ」
保名はバンフーに視線を向けた。
「ハツネはああ言ったが、主の舞踊は万人を魅了する良き舞よ。しかし、それを悪用するのは愚の骨頂じゃ!」
「……ふん」
「主に『誇り』があるなら! 正々堂々、わしと勝負せい!」
「ヒットチャートじゃ売れてる奴がルールだ。格闘じゃ強い奴がルールだ。Big Mouthは俺に勝ってから言うんだな」
「望むところ! とくとその目に焼き付けよ、『万勇拳』流白狐神拳演舞じゃ!」
保名の全身を闘気が覆った。
先手をとったのはバンフー、先ほどから随分気も回復して威力が増しているチェケラッ掌を繰り出した。
しかし武人として、チェケラから逃げるのは、背中に傷を負わされるよりも恥である。
「ならば……!」
守に長けた奥義『狐手掌』でチェケラを流す。
「……そして食らえ! 白狐神拳奥義『天弧二連撃』!!」
反撃の二連撃を繰り出すが、敵もさるもの、片手のチェケラが流されるや第二のチェケラを放っていた。
天弧二連撃とチェケラがぶつかり合う。
「ぬううううううううう……!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお……!!」
どちらも譲らない拳のつばぜり合いを制したのは……バンフーだった。
大きく弾かれた保名は床を跳ねるほどの勢いで吹き飛ばされた。
「FUUUUUUUU!! 流石、俺様ナンバーワン!!!」
「ぐ、うぐ……、流石、五大人を名乗るだけのことはある。しかしバンフー、まだ勝利の美酒に酔うのは早いぞ……」
「?」
「よく見てみろ、チェケラに大事な自分の手を……!」
はっ自らの手を見れば、チェケラを放った指があらぬ方向に折れ曲がっていた。
「ぐわあああああああああああーーッ!!!」
「ひとまず、万勇の名に恥じぬ働きは出来たようじゃな……」