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リアクション
【1】日日是鍛錬!……3
空京中華街・中華飯店『赤猫娘々(アカネコニャンニャン)』。
警察の介入によって騒動は鎮まったものの、ピリピリと緊張した空気は未だ流れている。
猫の額ほどの路地に停車するパトカーに、黒楼館館主ジャブラ・ポーと五大人M.C.バンフーの姿があった。
老師に手酷くやられたジャブラだったが、その傷は驚異的な速度で回復していた。
型となる魔獣と同等の力を得ることが出来る『幻魔無貌拳』。
その龍の型は、龍と同等の驚異的な生命力を使い手に授けるのだ。
気を傷の回復にすべて回し、静かに瞑想に耽れば重傷からでも復帰することが出来る。
「……ミャオの行方は掴めたのか?」
「それがまだ……。すぐに取っ捕まえて、BOSSの前に連れてきますYO!」
「歯向かう者にはしかるべき報復を。それが我ら黒楼館やり方だ」
「今、カラクルの奴が捜索を始めたんで、ゆっくり傷をRECOVERしててください」
車の横を中華街の住民が走り抜けて行った。何か催しでもやっているのか、前のほうに人垣が出来ている。
「What?」
バンフーは車から降りて、その人垣をまじまじ見つめた。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!!」
人垣の真ん中で、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は星屑のような笑顔を振りまいていた。
衿栖はアイドルデュオ『ツンデレーション』のお世辞がヘタなほう担当。
彼女の突然のゲリラライブに中華街のミーハーな人たちが集まってきたのだ。
「急な告知だったのにこんなに沢山の人が集まってくれて……私、感動してます! ありがとう!」
「うおおおおおおお!!」
「えーりーす! えーりーす!」
通りを埋め尽くすファンたちは全力で彼女を応援していた。
ただ、集まったのはファンの人たちだけではない。
846プロのサイトやSNSで告知したかいあって、新聞社、テレビ局、芸能記者も来ているようだ。
前回知りあった情報屋のおじさんも、最前列で楽しそうにタオルを振っているのが見えた。
「少なくとも300人は集まったか。この中華街でこれだけ集まれば上々だな」
イベントを取り仕切るレオン・カシミール(れおん・かしみーる)は観客を見回した。
空京中を監視出来る能力を持つ五大人カラクル・シーカー、その注意をこのライブで惹けるかもしれない。
急遽行われることになったゲリラライブにはそういう意味があったのだ。
レオンはテレビ局のカメラを見つめた。
「……見ているのか、カラクル・シーカー?」
そこに警備を担当する茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)があらわれた。
「ひと回りしてきたけど、黒楼館の連中は様子見してたわ。どうやら邪魔をする気はないみたい」
「まぁ連中も我々が捜索妨害をしてるとは思わないのだろう」
「もし何かしてきても大丈夫。朱里が生まれてきたことを後悔させてあげるから」
「警官も近くにいるんだ。ほどほどにしておけ」
ふたりは歌い踊る衿栖に目を向けた。
「……とは言え、こんな計画を巡らせても、今のあいつには関係ないんだろうがな」
「みんなー! 次の曲行くよー!」
ただ目の前のお客さんを喜ばせたい、気が付くと衿栖の頭にはそれしかなくなっていた。
自分の歌で少しでも緊迫した中華街の空気が変わってくれたら……ただ素直にそう思っていた。
「……まぁいい。ものはついで、五大人をもうひとり足止めしておくか」
マイクをとったレオンに、衿栖は不思議そうに小首を傾げた。
「ここで特別ゲストの発表だ! 空京が誇るヒップホップアーティスト、M.C.バンフー! 拍手で迎えてくれ!」
「ええっ! M.C.バンフー!?」
観客の視線が一斉に後ろで様子見していたバンフーに突き刺さった。
常人なら驚くであろう状況だが、流石はカリスマラッパーである。
「Fuu! 俺の知らぬ間にこんなLIVEがブッキングされてたとは知らなかったぜ!」
むしろノリノリである。マイマイクを片手にステージに上がると観客を煽った。
「俺インザ中華街! 知らぬ間のブッキング、まじマネージャーファッキン! 最高のステージ見せてやる! 刮目!」
「うおおおおおお!! バンフー! バンフー!」
「……め、めっちゃ盛り上がってる!」
カリスマの魔力に衿栖も驚愕である。
「ええと、それじゃライブの前に少しバンフーさんのお話を伺いましょうか」
「HANASHI? ラッパーが椅子に座ってゆったりTALKマジありえねぇ。身の上話はラップでSAY! マジ常識!」
YO! 俺M.C.バンフー!
ニューヨーク生まれ、ヒップホップ育ち!
毎日毎晩、言葉のナイフで世の中えぐる! 俺の未来はまぶしく光る!
週に三日はラーメン食べる! 着なくなった服は友達にあげる!
たまの休みは足を伸ばしてザンスカール! 好きな十二星華はシャウラのパッフェル!
Yeah!
「これ、身の上話なのかな……」
その点は微妙であるがしかし、ステージ巧者のバンフーの姿は、衿栖の闘魂に火を点けるに充分だった。
ライブに飛びこみ、即興でセッションを始めた。
「俺のラップにinしてくるたぁ、ナイス度胸DA! Fu!」
「負けてられませんから! 一緒に中華街を盛り上げましょう!」
「Yeah!」
衿栖はテレビ局のカメラに向かって指拳銃をBANG!
(カラクルさん、今のはあなたに向かってのアピールよ。私の……いいえ、私達のステージ、楽しんで貰えたかしら?)
・
・
・
「……えらく通りが盛り上がってるな。芸能人でも来たのかね」
路地裏を歩く緋山 政敏(ひやま・まさとし)は言った。
暗くじめじめした路地で、政敏はリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)ととある人物を捜していた。
警察が踏み込んだどさくさに姿を消した五大人のひとりラフレシアンを。
「あ、見つけた」
建物の間に体育座りのラフレシアンを発見した。
髪も髭も伸び放題、風呂にも入らず不潔感全開だった人間だが、前回奇麗に洗浄されてしまって見る影もない。
「だ、誰だ……?」
「ああ、そう言えば名乗ってなかったな。俺だよ、俺。一緒に芋洗いされた……」
ラフレシアンは鼻をひくひくさせた。
「このカレー臭、おめぇオデが秘孔を突いた小僧だな」
「おお、覚えててくれたか。俺は緋山政敏ってんだ。よろしくな」
実は前回、ラフレシアンの『薫気功』の効果によって、政敏は体臭がカレーになってしまったのだ。
直に効果は消えるが、それまで「あの人お昼カレーだったのかしら?」とまわりに思われる苦行が待っている。
「というか、こんなところで何してるんだ?」
「あんな敗北したら立場ねぇだよ。館主も怒ってるし、顔を出すのは気まずいだ」
「ははぁなるほど……。なぁ、お前はどうして黒楼館に入ったんだ?」
「そりゃこんな人から嫌がられるオデの力を必要としてくれたからだぁよ」
「居場所がないから黒楼館が居場所になってるのか? それはちょっと諦めが良すぎるんじゃねーのか?」
「?」
「俺はさ。お前みたいな奴等の居場所を作りたいって思うんだ」
目で促され、リーンはPCでネットの掲示板を見せた。
『空京警察がショタの規制を始めるかも知れないって噂知っている?』
「あ、ごめん。これはカラクリ・シーカーとかって人に向けて書き込んだ奴だったわ」
「そんな規制ないだろ。陰湿な嫌がらせするなよ……」
「だってショタ好きの悪い奴って聞いたから……。ええと、こっちが本当の奴」
『体臭を変える拳法があるって噂。マジだったぜ。オレの連れがカレー臭くてウザイ♪』
そのリーンの書き込みに、次々にレスがついている。
『kwsk』
『おい、どこでそれ習えるかおしえろおしえてください』
『腋臭にも効果あるかな?』
「こ、これは……!」
「ほら、お前の力を必要してる奴はいっぱいいるんだよ」
「どうする? この人たちの力になる気はある?」
「オデは……」
すこし間を置いて、ラフレシアンはこくりと頷いた。
「なら善は急げね。えっと『○月◇日に中華街で、秘孔突いてくれるってよ!』……と。これでOK」
政敏はポンとラフレシアンの肩を叩いた。
「居場所なんて幾らでもあるんだ。なかなか見つからないだけでさ」
「!」
「お前以外の黒楼館の連中もさ、なにもあそこを居場所にする必要なんかないんじゃねーのか?」
「……そうかもしれねぇ」
「だったら道を正してやるのが仲間だろ。お前がその気なら俺は付き合うぜ。このカレー臭はダチの証だからな」
「まさとす……」
「なぁ黒楼館はなにを企んでるんだ?」
政敏の漢気と真剣さに打たれ、ラフレシアンの瞳に決意が宿った。
「……わかっただ、まさとす。オデも館主を止めなくちゃなんねってことが。よす、とにかく黒楼館道場さ急ぐだ」
「黒楼館道場?」
「行けばわかるだ!」
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