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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 七章 カーニバル『昼下がり』

 太陽が西に下りていく頃。
 家族とこの街にやって来ていた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は交通規制をする兵士達の目を逃れ、人の少ない路地裏に入った。

(明人さんとリュカさんの話も、コルッテロの噂も聞きました。危ないことは百も承知です)

 霜月は表通りとは全く違う不穏できな臭い雰囲気を感じながら、進んでいく。
 と、不意に背後で聞き覚えのある声がした。

「待ってください!」

 霜月は足を止め、振り返る。
 そこに立っていたのはパートナーのジャンヌ・ダルク(じゃんぬ・だるく)だ。

「追ってきたんですか? ジャンヌ」
「……ええ、様子がおかしかったものですから。一体、どうしたですか?」

(どうした、ですか……。確かに、どうしたのでしょうか。自分は――)

 ジャンヌの問いかけを聞いて、霜月は思い返す。
 それは四日目の出来事。観光中にふと目にした金髪の少女のことだ。

(あの少女)

 霜月は忘れない。今でもはっきりと覚えている。
 全身を駆け巡る壮絶な恐怖を。見ただけで本能が忌避した悪夢の一瞬を。
 そして。

(何故かは分からないですが、止めなければと思いました)

 霜月はそう思うと、ジャンヌに告げる。

「……とある少女を探しているんです」

 その言葉を聞いたジャンヌはハッとした表情を浮かべる。
 そして、携帯電話を素早く取り出し彼の妻に電話しようとした。

「違います。やましいことではありません。やめてください」

 即座に霜月は否定する。

「……なら、何故女性を探しているんですか?」
「それは、その、世迷い事だと馬鹿にするかもしれませんが……」

 霜月は少女と出会ったときのことを真剣に話す。
 少女を見たときの恐怖を。それを止めなければならない、と思った直感を。
 ジャンヌは聞き終えた後、ため息を吐き、

「最初からそう話してください。私も協力しますよ」

 携帯電話を懐に戻した。

 ――――――――――

 どこかの路地裏。
 コルッテロの構成員である男は必死に逃げていた。

「ひぃ……はぁ、ひぃぃぃ!!」

 顔からは夥しい量の汗が浮かび、吐く息は継続的に荒い。
 男は走る勢いを殺さず路地裏の角を曲がる。しかし、角を曲がったところでいきなり足を止めた。

「忍者から逃げられると思ってんのか?」

 男が曲がった先の角にいたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
 唯斗はにんまりと笑みを浮かべると、《水龍の手裏剣》をちらちらと男に見せ付ける。

「なに、殺しはしねぇよ。ただ教えて欲しいことがあるだけだ」
「……ちょ……ちょっと……ちょっと……ちょっととと、ま、待ってくださいよ」

 男の口から吐き出されたのは、負け犬の用いるような敬語であった。
 男はいつも通りコルッテロの仕事をしていると、唯斗に出会った。初めのうちは虚勢を張っていたが、それも束の間、自分と相手の実力差が分かり逃げ出したのである。

「まぁ、ちょっくら話を聞かせてもらえればいいから。後で解放はしてやるよ」
「ひ。ひぃぃ!」

 男は慌てて踵を返し、逃げようとした。
 が、それよりも早く柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が《アクセルギア》で体感時間を加速し、背後に回りこむ。

「面倒ごとは嫌いなんでな。動けないようにさせてもらうぞ」

 真司は素早く〈サンダークラップ〉を発動。
 電撃をスタンガン程度の威力に調整し、男を痺れさせて動けないようにした。

「あばばばばばっ!」

 男は感電して、地面に倒れこむ。
 その様を見て、唯斗は口笛を吹き、労いの言葉をかけた。

「やるじゃねぇか。見事な手並みだな」
「……おまえが先に追い詰めてくれたお陰だよ」

 二人は目的の一致から協力をしていた。
 その目的は『鍵と計画』について構成員から聞き出すこと。
 ただ違う点は、唯斗がそれをコルッテロの企みだそうだから調べているのと、真司がその企みにヴィータ・インケルタ(う゛ぃーた・いんけるた)の目的があるかもしれないと思って調べている点だ。

「ねぇ、早速この男を尋問してもいい?」

 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)はピクピクと痙攣している男をちょんちょんと突っつき、真司に言った。

「ああ、頼む。……殺すことだけはするなよ?」
「分かってるわよ〜、信用ないわね〜」

 リーラは笑みを浮かべて、《イロウションシード》を取り出した。



「おおおお俺はなにも知りませんよ! 本当です!」
「へぇ〜、本当に? 本当のことを言わないと刺すわよ〜?」

 リーラは手足を拘束した男に、《イロウションシード》の針をちらつかせる。

「この針を生物に刺して植え付けたると、体内の鉄分を吸収して爆発的に成長するの。それで、生物を内側から食い破るのよ〜?」
「ひぃぃぃ! 分かりました。話します、話しますから!」

 脅しが効いたのだろう、男は涙目を浮かべ怯えた表情を浮かべる。
 対照的に、リーラの可愛らしい顔には満面の笑みが浮かぶ。

「私の次の質問にはハイかYESで答えてね?」
「ハイ!」
「とりあえずアンタが知ってる情報を全部教えて貰えるかしら?」
「YESYESYES!」

 男は返事をすると、鍵と計画についての情報を話した。
 リーラはその言葉に耳を傾け、反芻するためにつぶやく。

「ふ〜ん、計画の鍵は『幾学模様の刻まれた機晶石』。
 計画については『この街を掌握する』といった程度しか分からない、ねぇ」
「ハイ!」

 男は涙目でリーラを見つめる。
 リーラは他にもう情報を引き出せない、と判断するやいな、男の首筋に〈手刀〉を奔らせた。
 男は蛙が潰れたような声を出し気絶する。リーラはその男を両手で掴み上げ、

「どっせ〜い!」

 と、放り捨てた。

 ――――――――――

 表通りから外れた後ろ暗い裏通り。
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)はそこにいた。
 マイトがこの街を訪れた理由はただ一つ。ヴィータの目撃情報を聞いたからだ。

(ヴィータがこの町で目撃されたと聞いて来てはみたが……。
 自由都市プレッシオ、裏社会で暗躍する犯罪結社コルッテロ。……成程、いかにも『アレ』が好みそうなきな臭い雰囲気がするな)

 マイトは走りながら、思う。
 この街は華やかな表通りから一歩外れれば、不穏な空気に包まれる。
 ぼろぼろの衣服に身を纏う浮浪者の痩せた者達で溢れている。それはこの街の現状を象徴しているように思えた。

(ともあれ……『アレ』は刑事として必ず俺が追いつめる。……憑りつかれている『彼女』共々、な)

 マイトはそう思い、より一層と強く決意する。自分はヴィータを捕まえる、と心に誓う。

(『アレ』に一度関わった以上刑事として放っては置けない……『アレ』が乗り移ってる体の方も含めて)

 マイトがそこまでヴィータに拘るのは、以前関わった『暴君召喚未遂事件』に起因する。
 マイトは犯人格のウォルターという少女を追い詰めた。そして、関節を極めて無力化した……はずだった。

『ああ、ああ、あああ。は、入ってくるなぁ! あたしのなかに入ってくるなぁぁぁーッ!!』

 しかし、ウォルターは負傷したヴィータに乗り移られ、マイトは取り逃がしてしまった。

『ばいばい。また縁があったら、会いましょうね』

 邪悪な笑顔を浮かべて、ヴィータは逃げていった。

「……ッ!」

 マイトは思い出し、歯を食いしばる。
 憑依されたウォルターの最後の顔をマイトは忘れられない。それは誰かに助けを求めていた顔だったからだ。
 敵とはいえ、自分の目の前の者を救えなかった。その事実が、正義感の強いマイトの胸に大きな傷を残していた。

「待っていろ。絶対に俺が捕まえてやる……ッ!」

 マイトは決意を込めてそう呟く。
 と、同時。前方で柄の悪い男が道端で倒れる浮浪者に暴力を働いているのを発見。

(あれが噂の犯罪結社の構成員か? とにかく――)

 マイトは柄の悪い男との距離を詰めて、<抑え込み>による腕がらみでその男の関節を極める。

「がぁっ! なんだテメェは!?」
「……警察だ。実行犯として君を逮捕する」

 マイトの言葉を聞いて、柄の悪い男は焦って顔を歪める。
 そして、《戦闘用手錠・改》をかけて無力化すると、尋問を開始した。

「まず一つ。君はコルッテロの構成員か?」
「……あぁ」

 柄の悪い男はバツが悪そうに答える。
 マイトはその言葉を聞いて、《カスタムトレンチコート》のポケットから一枚の写真を取り出した。それにはヴィータが写っている。

「そうか。なら、この女が今どこにいるか知っているか――?」