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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「レーダー機能回復……ふむ、あれは契約者の拠点だな。無事に狙い通りの地点に着けたようだ」
 生体要塞ル・リエーの映し出す外部映像を見、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が予定場所へ到着出来たことを確認する。これほどの巨体が果たして所定の位置に飛ぶことが出来るのか不安はあったが(実際、ある大型飛空艇が移動の際、目的の場所とは異なる場所に飛んでしまった例を耳にしていた)、杞憂に終わったようである。
「よし、計画に基づく行動を開始する。機材を降ろし、拠点周囲の設備強化を行う」
 セリスの指示が下り、搭乗員が要塞に積み込まれた機材を地上へ降ろす作業に取りかかる。『ツインウィング』が拠点内部からすぐ外側の施設用の資材や物資を搭載しているのに対し、こちらはより外側の設備設置・強化のための資材や物資が用意されていた。その他、大型飛空艇では入らない大型のパーツも載せられている。
「俺は現場の監督と、周囲の警戒に当たる。マネキ、ルイエ、留守を頼む」
 戦艦でいうところの艦長席に鎮座する招き猫……もとい、マネキ・ング(まねき・んぐ)と、要塞の管理全般を任されている粘土板原本 ルルイエ異本(ねんどばんげんぼん・るるいえいほん)に言い、セリスがその場を後にする。
「うむ、行ってくるがよい。フフフ……我が要塞の生体エネルギーと防衛計画を元に、この拠点を不落の城塞へと変貌させようではないか。
 その為の兵器や機材各種を大量に積んできたのだよ。これで、拠点発展の功績は我へと還元される……」
 あくまで招き猫の姿のまま、マネキングが呟くとすぐ傍のモニターが反応し、眠たそうな表情のルイエが映し出される。
「…………あなただけじゃ、ないと思う…………」
「む、寝ていると思ったが、聞いておったか。ふむ……お前はこの生体要塞ル・リエーの要。お前がそのように言うのであれば我の認識を改めるのもやぶさかではない」
「…………すぅ…………」
「……と思えば、寝おったか。まぁよい。
 さあ、この世界の住人共よ、どう出る? 静観するならばそれでよし、もし襲撃してくるというならば……我が要塞の糧にしてくれよう」
 やはり招き猫の姿のまま、マネキングが不敵な笑みを浮かべる――。


「拠点の強化……はまあ、他にもやってる人がいる。けど、川の整備はあたしらが関わってきて、勝手も知ってる。
 つうわけで、今日は川の強化……って言うのか分かんないけど、それをやろうと思う。資材はここにいっぱいあるから」
 前回整備をした川の前で、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が今日の作業の内容をアーマード レッド(あーまーど・れっど)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)に話す。相変わらずエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の手掛かりは知れずじまいであったが、彼らは彼らなりに、受けた仕事は(今回の川の整備については、イルミンスールの意向を汲んだセリスの斡旋によるものだが)こなすつもりでいた。
「クク……ここは皆の……遊び場……やりましょう……」
「敵ガ川ノ存在ニ気付ケバ 破壊ヲ試ミルデショウ。対策ハ 必要デス」
「そうそう。水がなくなったら大半の契約者は困っちまうし、風呂にも入れなくなっちまうしな」
 輝夜の発言に、ネームレスがクク……とおかしそうに笑い、レッドは意図的か、反応を返さない。
「な、なんだよ! あたしだって女なんだ、身奇麗にしたい年頃なんだよ!
 ……って、ああもう、言ってて恥ずかしくなってきた! ほら無駄話してないで、チャチャッとやるぞ!」
 自分で撒いた話の種を自分で強引に刈り取って、そして一行は作業に取りかかる――。

「そういやあレッド、アレ持ってきたんだっけ。もう使える状態にあるのか?」
 作業の途中、輝夜がレッドに尋ねる。輝夜の言う『アレ』とはレッドの対大型敵性用強化外部装備、『{ICN0003949アームドベース・デウスマキナ改}』の事である。
「エエ。セットアップハ 完了シテイマス。使用後ノ電力供給ニハ 課題ヲ残シマスガ」
 『デウスマキナ改』の稼働には、レッド自身のエネルギーの他、外部から供給されるエネルギー(主に電力)を必要とする。静麻や桂輔、彼らの意見を聞いたエリザベートやアーデルハイトの案や努力により、エネルギー供給問題は徐々に解決されつつあったものの、一度に大量のエネルギーを消費した場合の早急な回復は、まだ難しくあった。
「そっか、じゃあホントにヤバくなった時の切り札、って感じだな。
 ……はぁ〜、あたしもレッドみたいなカッコいい強化装備、考えてみよっかな……」
 手を止め、輝夜が空を見上げる。太陽の光の代わりに届くオーロラのような光が、ここが地球でもパラミタでもない事を教えてくれる。
「……主公の事を……考えていたので?」
「……まあ、ね。
 あいつがこの世界に居るかどうかも、これから来るつもりなのかも分からない。でも……このまま何も無いまま終わりにするわけにはいかないから」
 輝夜の言葉に、ネームレスもレッドも同意の意思を返す。――自分たちの目で一つの結末を見届けるまでは、終わりに出来ないし、するつもりもない。
「っと、手が止まっちまった。まだまだやることはたくさんあるんだ、休んでいられないな」
 しんみりとした雰囲気を払拭する言葉を吐いて、輝夜が作業を再開する。

 そうして、彼らの働きにより川を始め、拠点の外の設備については一度の上空からの大雑把な爆撃(流石にドンピシャで爆撃でもされようものなら破壊されてしまうが)には耐えられる程度に強化されたのであった。


「これが変換装置ですぅ。普段はイルミンスールに取り付けて使いますぅ」
 静麻桂輔の前で、エリザベートが電源タップのような装置を掲げて見せる。
「これを、地面に突き刺せば……!」
 言って、エリザベートが装置に付いていた二本の杭のようなものを地面に突き刺す。
「……うーん、流石にイルミンスールの時そのままにはいきませんかぁ」
 呟いたエリザベートが、二人にどうなっているのかを簡単に説明する。要はイルミンスールのように、天秤世界にもその内部にエネルギーを持っており(この場合の内部とは天秤世界の中、という意味であり、地面の下というわけではない。ほとんどのエネルギーは地面の下にあるが)、そのエネルギーはイルミンスールの持っているものととても似ているのだという。
「……なるほど、いまいちピンとこないがそういうものだとして、では天秤世界とイルミンスールには密接な関係がある、ということになるが」
「どうやらそのようですねぇ。その辺は大ババ様とミーナ・コロンたちが調べてるみたいですよぅ」
 そんな話をしつつ、エリザベートが装置から出力される力の値を口にし、二人が設備を動かすのに十分かどうか検討する。
「これなら、ここの電気設備や風力発電機を動かすには十分だ。……って、地面からこうやって電気を取れるなら、風力発電機を動かす必要ってあるのか?」
「ありますよぅ。二人は『ブライトコクーン』の話は知ってますかぁ? それと同じようなものをこの拠点に作ることにしてるんですぅ」
 イナテミスには、『イナテミス精魔塔』を中心として展開される膜『ブライトコクーン』が備えられている。あちらは一つの塔から生成されるが、こちらでは拠点と周囲の風車を出力場として、主に上空への耐久力を高めた仕様の膜を生成する予定なのだという。
「そんなものまで出来ちゃうって、やっぱ俺の感覚からすると魔力っていい加減に見えるわ」
「そういうものにしておいてくださぁい。また何か気になることがあったら言ってくるといいですぅ」
 そう口にして、エリザベートがその場を後にする。

(契約者の拠点におけるエネルギー問題は、以前に比べ大分良くなりましたね。ウィスタリアの負担も減りましたし、これならイコン整備に十分な能力を発揮出来そうです)
 『ウィスタリア』艦内にて、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)がコンソールを操作し、浮かび上がるデータを眺め安堵した表情を見せる。エリザベートが持ってきた変換装置と風力発電によって、少なくとも契約者の拠点における電気設備、および緊急の際のバリア稼働のエネルギーには目処が付いていた。『ウィスタリア』はその本来の目的である、イコン搭載戦艦としての役割を担いつつある。
『こちら『ゴスホーク』、これより補給のため帰還する』
 モニターの一つに柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の顔と、搭乗機『ゴスホーク』の状態が映し出される。「補給のため」と言った通り、エネルギー残量を示すゲージが減っていた。
「『ゴスホーク』、着艦を許可します。誘導に従ってください」
 どことなく機械的な返答を行い、アルマがハッチの一つを開け、誘導灯を点灯させる。
(……、桂輔には「俺にはもうちょっと愛想よく出来るのになぁ」と言われましたが……)
 桂輔と前にした話を思い返しながらも、具体的にどうすればいいのかアルマには分からなかった。
(……笑えばいい、とも言っていましたか)
 つんつん、と自分の頬を突付き、アルマはしばらくの間、笑うという事について思いを巡らせていた。