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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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艦隊出動2

 次の艦砲射撃を行うのは藤色の貴婦人の異名を持つウィスタリアだ。繊細な翼を持つ美しいフォルムの淡い藤色の要塞は、とある遺跡の奥に建造途中で放置されていたものを桂輔とアルマで修復し完成させたものだ。艦長のアルマはウィスタリアとリンクすることで艦の性能を最大限に引き出している。その代償として艦の損傷があった場合、それは痛みとしてアルマを襲う。もっともいつも彼女はその痛みを表に決して出さない。アルマはテレメーア、土佐からの砲撃データを受け、各種スキャニングとセンサーからの情報で自艦の砲撃エリアを決定する。
「グラビティキャノン、重力子生成率80%。エネルギー供給安定……。
 コンディションオールグリーン……発射準備完了。グラビティキャノン、発射します!」
翼の間から巨大な渦にも似た重力波が発射され、巻き込まれたイレイザーの一群れがそっくり押し潰された。格納庫では柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が着艦前にトリアージプログラムで小破、あるいは補給が必要というイコンに受け入れの通信を行ない、誘導するよう整備メンバーに伝える。一応着艦前に概要は把握しているが、やはり目視によるトリアージは欠かせない。着艦した機体の状態を区分――青=問題無し、緑=損害軽微、黄色=小破、オレンジ=中破、赤=大破、黒=修理不能――にあわせて分類してゆく。
「残念ながらウィスタリアには、整備、修理の人間が少ないからな。
 規模の大きめの修理を必要とする機体は、伊勢か土佐に回ってもらわざるを得ないのが現状だなぁ」
てきぱきとトリアージに従い、損傷度の低い機体から優先的に修理、補給を行っていく。少しでも早く前線に返すことが任務である。手がかからないものを先に処理することで、結果的には回転は速くなる。
「お前さんは、もう少し待ってもらうことになりそうだ」
やや損傷の深い機体をポンと叩くと、桂輔は隣の機体への燃料、弾薬の補給を指示し、ついで新着の機体の方へ走って行った。
 ついで砲撃準備に入ったのは加賀だ。土佐同様、R&Dで要塞砲を発射に火薬を使わないレールガンへ改造してある。龍一はやはり戦闘時の損傷による浸水を警戒し、艦橋基部装甲区画内のCICで艦の指揮を執っていた。イコンの発着デッキも2重扉を利用し、同様に浸水しないよう対策を採っている。天城 千歳(あまぎ・ちとせ)がそれまで行っていた前線に展開するイコン部隊が効率よく迎撃できるよう誘導を行いながら、同時にモニターに表示される各種データ、データリンクで艦隊ネットワークから廻って来た情報を元に、レーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視を併用して索敵を行う。
「区画F3に密集エリアがあります。前線のイコン部隊もこちら方面にはまだ展開していません」
「それは願ったりかなったりだな。何の遠慮も要らない、存分に砲撃を味わってもらうことにしよう」
「念のため、そのエリア付近に近づかないよう、僚機に警報を発令します」
千歳が僚機に向けて警戒を呼びかける合間に、龍一は忙しく各種計器、レーダー、センサーと射撃システムの最終チェックを行う。
「主砲発射準備オーケー。テレメーア、当艦は3.00秒後に主砲を発射する」
「こちらテレメーア、了解しました。テレメーア主砲の発射準備が5.35秒後に整います」
ローザマリアの声が通信機から返って来る。
「主砲発射――!」
簡素な龍一の命令と共に砲撃が開始され、狙ったエリアの敵影が一気にその数を減らす。
「突破してくるものがあれば、僚艦と協力して弾幕射撃を展開して削る。 
 弾幕射撃と直掩機の迎撃を突破してきた敵に対しては、ウィッチクラフトライフル、冷凍ビームによる対空砲火で迎撃」
「了解いたしました」
千歳が言い、主砲発射、弾着データの送信と平行でレーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視で艦の周囲を探る。味方機を巻き込んではいないか、予想しない位置からの敵襲がないか。見落とせば一気に危機に陥る。千歳は緊張した面持ちで各種センサーのデータを見つめている。
 加賀の格納庫でも伊勢、土佐やウィスタリアほどの規模ではないが簡易な整備、修理と補給は行える。また守護天使エドガー・パークス(えどがー・ぱーくす)は衛生兵として軽傷のパイロットの受け入れ準備を行っていた。こちらには本格的な医療設備がないため、重傷者は加賀の医務室へ搬送し、そちらで治療を受け持ってもらうよう話がついている、
「消毒薬と、傷の保護パッド、あとは……。
 万一重傷者がこちらに先に回ってきた場合のごく応急的な措置を取れるだけの薬品を確保致しませんと」
必要品をリストアップした中に漏れがないかのチェックを行い、千歳や龍一らにも極度の緊張下からくる異常がないかのモニタリングも併せて行う。整備兵の手伝いとして、帰還したイコンへ燃料、弾薬の補給と修理パーツの運搬作業を行っているジュリア・グロリア(じゅりあ・ぐろりあ)を呼びとめ、手がすいたら飲み物を龍一、千歳らに持って行ってくれるように依頼する。
「特別な知識もスキルもないから、流石に雑用係以上はまだ無理だし、任せて」
「頼みましたよ。案外緊張しているときというのは、脱水症を起こしやすいものなのです」
「へぇ〜、そうなんだ。気をつけて水分を取らないといけないのねえ」
「案外見落としがちなことですが、脱水症は危険ですからね」
グロリアは大きく頷いて、艦内の簡易食堂のほうへと向かった。