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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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●天秤世界:“回流”の植林地

(ついに、“灼陽”様が決断なされた。契約者の技術を得て、龍族と決着を付ける心積りのようだ)
 一日の植林活動を終え、椅子に座る“回流”が溜息を吐く。朝方、遠くからでもハッキリと見えた“灼陽”の姿は、これまでのどの姿よりも『力』に溢れていた。どんな技術が使われたかは分からないが、確かにあれだけの力を得れば、今の龍族の長を屠ることすら可能に思われた。
 そしてそれを証明するかのように、今日一日、たった一日で“灼陽”は龍族に一度は奪われた『ポイント32』を奪い返してしまった。彼がその情報を知ることが出来たのは、彼が鉄族だからである。“灼陽”から発されるいわば電波のようなメッセージは、『オペレーション:ファイナル』の発令と『ポイント32』の奪取を伝えてきていた。
(この森も、いつ戦火に見舞われるか分からない。全て失ってからでは遅いのは分かっている、けれど僕は、その時が来た時にまた飛ぶことが出来るのだろうか)
 心の中で呟き、“回流”が頭を抱える。短期間とはいえ鉄族の精鋭部隊“疾風族”に居た時の自分は、もう思い出せない。『機体』こそ失ってはいないものの、今の自分では飛び上がることすら出来ないのではないか、“回流”はそう思う。

 そうして彼が悩みを深くしている頃、密かに建物を抜け出した多比良 幽那(たひら・ゆうな)はゆっくりと、“回流”の『機体』が置かれている場所へ向かう。
「こんな時間にお散歩……ナワケないわネ。
 整備、するんデショ? ならワタシが居ないとネ」
 横からハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)がやって来て、幽那の返事を待たず隣を歩く。しばらく無言の時間が続いて、やがて幽那がぽつり、と言葉を漏らす。
「私とあなた達だけがこの場に居たなら、話は単純だったわ。
 『植林の邪魔をする者は死ね』、これで済むんだもの」
「オーコワ。お祖母ちゃんを怒らせたラ生きて帰れないわネ」
 おどけて返すハンナに微笑んで、表情を正して幽那が続ける。
「でも、この場には“回流”も居る。彼の悩みはまだ終わっていない。
 例えるなら蔦が絡み付いて、伸びるのを阻害している状態。……そして彼の本来の姿は、空にこそある」
 空を見上げる幽那、夜という時間帯であるはずの空は、昼間とあまり変わりがない。
「……“回流”と植林を続けるという未来モ、あると思うのだけれど?」
「ええ、それは認めるわ。彼が植物への愛を語ってくれた時、私は素直に嬉しいと思った。
 私は今の自分に誇りを持っている、同時に歪んでいるとも思っている。そんな私を少しでも理解し、受け入れようとしてくれた彼と植林を続けたい、その気持ちはハッキリとこの胸にある」
 幽那が胸に手を当て、一瞬だけ柔らかな笑みを浮かべ、直ぐに打ち消す。
「……けれど、私が彼にとっての『蔦』になってはいけない。私は彼の蔦を取り除き、彼本来の姿を取り戻させてあげる」
 足を止める幽那、目の前には苔と蔦に覆われた“回流”の『機体』があった。
「……マ、ワタシはやれることをやるだけだネ」
 ハンナはそれだけを口にして、幽那と共に『機体』の整備に取りかかる――。

『起きろ! 起きろ! 早起きは三文の得!
 たった三文しか得しないなら寝てたほうがいいね!』
「む……あ、あぁ。寝てしまったのか……」
 翌朝、キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)に起こされた“回流”の下に、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)が母、幽那からの言葉を伝えに来る。
「母が、貴様の『機体』の所に来てほしいとのことだ」
「幽那さんが? 一体何があるというんだい」
 “回流”の問いにアッシュは「行けば分かることだ」とだけ答えて、早々に部屋を立ち去る。閉められた扉の向こうから『嫉妬してる? 嫉妬してる?』「うるさいな!」といった声が聞こえた。
(よく分からないが……行ってみるか)
 頷き、“回流”が身支度を整え、建物を出て自分の『機体』がある所へ向かう。するとそこには、驚くべき光景が広がっていた。
「これは……!」
 “回流”の目の前には、苔と蔦を取り除かれ、整備の行われた自分の『機体』があった。どことなく丸みを帯びた格好は、鋭角的なデザインの多い今の鉄族の『機体』と比べるとどうしても『旧式』という評価をされるかもしれないが、漂う雰囲気は決して劣ってはいない。
「どう、思い出した? かつての自分の姿を」
 声に“回流”が振り向けば、そこに幽那の姿があった。夜通し整備を行った影響は背後に控えるハンナ共々微塵も見られない。
「幽那さん、何故……? 君は戦いには興味が無かったんじゃ」
「ええ、それは変わっていないわ。戦いなんて興味は無い、やるなら他所でやって頂戴。
 ここに居るのが私達だけならば、無関係を貫いたでしょう。でもここにはあなたも居る。あなたが抱える悩みを取り除いて、あなた本来の姿を取り戻させるには、こうするのが一番だと思ったわ」
『武器を持った奴が相手なら、『覇○翔吼拳』を使わざるを得ない!!』
「貴様は黙っていろ! 母の言葉が台無しだっ」
『アリスも幽那ちゃんと“回流”の鈍った心を磨けと言われた! どう磨けばいいかは分からない!』
「ま、まぁ、我も方法は分からないが。ほらアレだ、とにかく乗りたくなるような気分にさせればいいのだろう?」
『じゃあ『氷柱割り』だね! 『ビール瓶斬り』でもいいよ!!』
「どうしてそうなる!? その2つは全く関係ないだろう!」
『覇○翔吼拳だからね、仕方ないね!』
 そのうち二人で言い争いを始めてしまうアリスとアッシュに苦笑して、幽那が“回流”に向き直る。
「あなたの悩みは、戦火にここが飲み込まれればハッキリするでしょう。けどそれでは遅すぎる。
 少し強引だけど、戦う時は一緒に戦いましょう。苦しみも悩みも植物への愛も、二人で分けましょう」
 伸ばされた手を“回流”は見つめ、そして何かを決意した顔を浮かべ、幽那の手を取る。
「ありがとう、幽那さん。……僕はまた、飛ぶよ。森を守るために戦う、それがたとえ同族同士であったとしても」

 『機体』は一人乗りに見えるが、鉄族は『機体』に搭乗する時は『機体』それ自体が本人となるため、幽那が搭乗する事に問題はない。一つ問題があるとすれば、予備の素体を載せることが出来なくなるため、飛ぶ事が出来なくなればいずれ“回流”は『死んで』しまう事だった。
『まぁ、そんな事になれば幽那さんもただでは済まないからね。
 簡単に落とされるつもりはない。幽那さん、乗り心地はどうかな?』
「そうね、悪くないと思うわ。計器の類が一切無いのは不思議な感じね」
 幽那の発言の通り計器は一つもなく、赤くぼんやりと光を湛える筋が何本か見える程度であった。人に例えるならそれは血管といったところだろう。
『“灼陽”様ほど巨体であれば、操作するために計器が設置されているね。僕たちは基本一人乗りだし、計器を見て操縦する、ではないからね』
 話している間に、ハンナが飛行機の発着を指揮する士官の如く、“回流”に離陸許可を出す。
『さて、行こうか、幽那さん』
「ええ」
 幽那が頷き、そして『機体』後方から推進力が生まれる。普通の飛行機に比べ僅かの滑走距離で地面を離れた“回流”は、何度か具合を確かめるように辺りを飛行した後、『ポイント32』の方角へと飛び去っていった――。

 幽那と“回流”を見送って、アッシュはぽつり、と言葉を漏らす。
「我は、まあ、なんだ、母にとてつもなく愛されてるのだな。
 ……そして、“回流”に若干の嫉妬を覚えてしまっているのかもしれん……」
『あっ、今アリスの言葉を肯定したね? しちゃったね?』
 横でキャッキャッと騒ぐアリスを無視して、アッシュは母の無事の帰還を祈ると同時に、戦いが鎮まるまでの間この森を絶対に守り抜くと決心する。
『あーあ、自分の世界に入っちゃった!
 さーて、楽しんでくれたかなっ? マスターは「こんなんでいいのか……」って言ってるみたいだけどねっ!』