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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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07 サルヴァの秘密兵器




 そのようにしてイコン部隊が派手に陽動をして基地内部の戦力をおびき出している一方で生身で突入して激しい陽動を繰り広げる契約者の中でも派手な、とはいえないものの特筆すべき活躍をしたものの中に騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がいる。
 詩穂とそのパートナーの青白磁とセルフィーナは事前に入手できたダェーヴァの怪物のデータを元に、それらに対する対策を練っていた。そして、その対策がクリティカルな形で作用し、結果、基地攻略は大幅に捗ることにつながった。
 クー・シー。牛ほどの大きさの犬の姿をした怪物。
 これは群狼戦術と呼ばれる連携攻撃を行うのであるが、詩穂はこの群れに対して【ワンモアタイム】を使用した。
「グルルルル……?」
 クー・シーの内数匹がもたらされた不可思議な感覚のために攻撃の手を止める。
 連携の順番などが錯覚によって狂ってしまったことにより、流れるようなその動きが止まってしまったのだ。
「今だ! 撃て!!」
 その瞬間、群狼戦術によって少なからぬ被害を出していた海兵隊からの一斉射撃が、クー・シーに向かって行われる。
「ギャイン!」
 叩き込まれる無数の銃弾がクー・シーの体に穴をうがち、真っ赤な血を迸らせる。
 連携が崩されたあとのクー・シーの群れが崩壊するまでに、5分とかからなかった。契約者や米兵たちの攻撃を受け、クー・シーは散り散りに逃げ出していく。
 ロビン・フッドに対してはスナイパーのように、あるいは固定砲台のように隠れていることも想定して殺気看破で警戒していると、遠方から攻撃の気配がする。
 詩穂はすかさず常闇の帳を展開する。
 対物ライフルは人間を標的にするならば絶対的なダメージを誇るが、常闇の帳で防ぎきれないほどのダメージではない。
 そしてロビン・フッドの弓矢が対物ライフルレベルな以上、その攻撃を防ぐことは簡単であった。
 更に何度も描写しているように情報攪乱がコープス系の戦術リンクを阻害する。それらを試みている契約者の数が多いだけに近距離のリンクは維持されても戦場全体のリンクなどは時折途絶するようで、想定していたよりも長距離の射撃は発生していないようであった。
 レッド・キャップ相手にはセルフィーナの鬼眼が威力を発揮する。
 強い相手には弱いが弱い相手には残忍に振る舞うというレッド・キャップに、セルフィーナは鬼眼で睨みつける。するとそれだけでレッド・キャップは怯えだして散り散りばらばらに逃げ出すのだ。あとは逃げるレッド・キャップに背中から銃弾を撃ちこめば、事は足りた。
 そんな詩穂たちの活躍によって、契約者と米軍は基地の奥深くへと進んでいったのである。
 そして、セルフィーナのピッキングによってダェーヴァに捕まっている人々が次々と解放されていく。

 捕虜などが解放されると、まず水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)や医療の心得がある米兵がトリアージを行う。ついで重症のものがいた場合はマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の命のうねりが彼らに飛ぶ。人数が少ない場合はベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)や通称クエスことクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)のヒール、あるいはナーシングなどで治療を行う。そして、彼らに武器が渡されるのだが、その武器の運搬においても特筆すべき契約者がいた。
 それは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のパートナーのベアトリーチェで、ベアトリーチェは【獅子の牙】のエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)や、クエスとそのパートナーのサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)、がトラックの荷台いっぱいに持ち込んだRPGやマシンガン等の中小火器や刀やナイフなどの刃物を【大商人の無限鞄】に詰め込んだのだ。
 これにより350キログラムほどの重量、軽トラックの荷台ほどの武器類をベアトリーチェ一人で運ぶことが可能になった。そのため、武器の運搬に確保する予定だった人員の何割かがそのまま攻撃に回ることが出来たために、契約者の火力に余裕ができたのである。

 また、情報撹乱の中でも特筆されるべきなのはやはり水原ゆかりであろうか。
 ゆかりはただ漫然に情報撹乱を行わず、通信状態を著しく悪くした上で、そのノイズから漏れ聞こえるような形で嘘の情報と真実の情報を混ぜて情報を発信した。
 主に陽動作戦について、こちら側の兵力の数や保有するイコンなどの武器類の数。それからダェーヴァ内部で暴動などが起きそうだなどという情報だ。
 生憎とダェーヴァを構成するメンバーが指令級のサルヴァ以外はその大半がサルヴァが創りだした怪物であったりコープスでありと意志を持った末端というものが存在しないためにそれらの欺瞞工作の大半は意味をなさなかったのだが、それでもその行動は無意味ではなかった。基地内部に存在する意志を持った末端、ほんの片手ほどもいないそれらに対しては判断を鈍らせるという効果があったのである。もっとも、かおり本人もそれほど効果を期待しているわけではなかったので、上手く行かなかったところでさしたる痛痒を感じなかった。
 それよりもゆかりとマリエッタの主目的は捕虜の解放であり解放した中にいるダエーヴァとの権力争いに敗れた者たちへの監視である。というのも本当に権力争いで失脚したのかというとちょっとあやしい連中が、内部からの破壊工作に当たる可能性が存在したためである。
 しかし今のところはそのような兆候は見られずに、解放された人々は素直に内部から暴れて、騒ぎを大きくすることに協力しているのだった。
 というのも、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)のパートナーであるネフィリム三姉妹エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)がちょっとした活躍を見せたのがその理由だった。
 凶司の操縦する{ICN0005582#広報用高速飛空艇}から撃ちだされて基地に突入した三姉妹は、人質などの前で【健気に頑張る美少女】という、やや誤解されている感じもあるが、ある意味ステロタイプなアメリカ人好みの女の子を演じてみせたのがその理由だった。
 過激な薄い装甲でも隠し切れない肌色が捕虜の中の男たちを刺激する。
 色欲、性欲は生存の欲求でもある。少々過激な格好の美少女たちが自分たちを救出に来たということは、彼らの中のやる気を大いに呼び覚ます効果があった。
 転向者たちにも武器を配るさなか、契約者たちを発見した多脚戦車コープスの小銃の攻撃を選んで、セラフはわざと被弾する。
 小銃の攻撃程度ならば、三姉妹の防御能力でもそれなりの被害しか発生しない。それを利用してセラフは【怪物に襲われた美少女の危機】を演出する。
 すると武器を受け取った転向者がその武器をすぐさま多脚戦車コープスに向けて撃ち放つのは、狙い通りという他なかったのである。
 ともかく、そんな三姉妹の存在も含めて捕虜や転向者の解放は順調に進んでいた。そして契約者は転向者たちから気になる情報を入手する。
 曰く
『20メートルもある巨大な人型兵器がしばらく前に運び込まれた。起動にはかなりの時間がかかるらしく、サルヴァが今なお起動準備をしている最中のはずだ。名称だけは判明していて、ヒューベリオンというらしい』
 という情報である。
 三姉妹はそれをAWACSとしてデータリンクおよび内外の通信中継役のために基地の場有空で待機していた凶司に伝える。
「……了解。すぐに旗艦に連絡を入れる」
 そして凶司から旗艦へとその情報が伝えられたのであった。