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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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第三章  魔神撃滅作戦

「こちら陽太。全機、配置につきました」
『了解しました。それでは、作戦を開始して下さい。健闘を祈ります』

 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の連絡に、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)からのゴーサインが返ってくる。

「聞いての通りです。全機、作戦開始!」

 陽太は、高らかにに作戦の開始を告げた。
 一斉に、行動を開始するイコンたち。

「折角の私の楽しみを、貴方の様な無粋な方に邪魔されたくは無いのです――大人しくしてもらいますわよ!」

 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)魔王 ベリアル(まおう・べりある)の駆るサタナエルが、うずくまる魔神の周囲に広がる溶岩を、【冷凍ビーム】で凍らせていく。
『どうやら魔神は溶岩からエネルギーを得ているらしい』と踏んだ綾瀬は、魔神のエネルギーを断つ作戦に出たのだ。

 周囲の異変に気づいた魔神が、咆哮を上げ立ち上がる。
 所々が欠け抉れたその身体は、魔神が未だ、先の戦闘のダメージから立ち直っていない事を物語っている。


「陽太様、魔神の鼻面ギリギリまで迫ります!」
「分かった!機体の制御は任せて!」

 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)の操縦するイコン乙琴音ロボは、一瞬で{ICN0004979#乙琴音ライダー}に変形すると、一気に魔神に迫り、その注意を引くように周囲を飛び回る。
 魔神は盛んに掴みかかるが、《ディメンションサイト》と《野生の勘》を《潜在開放》した舞花の操縦テクニックと、その舞花の意図を瞬時に《エセンシャルリーディング》する陽太の機体制御で、神がかった機動を見せる乙琴音ライダーを、捉える事は出来ない。 

「ナイスポジションですわ舞花!これでも喰らいなさい!」

 魔神の顔面目掛け、連続して【冷凍ビーム】を打ち込むエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)
 魔神が、苦悶の咆哮を上げる。

『魔神は怯んでるわ!今よセルマ!』

 【聖邪龍ケイオスブレードドラゴン】を駆り、上空から戦況を見つめていたリンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が、《精神感応》でセルマ・アリス(せるま・ありす)に指示を出す。
 
「了解!やれ、ラグー!水流攻撃だ!」

 セルマの命令一下、魔神に強烈な【ウォーターブレス】を浴びせるラグー。 
 立て続けに氷結攻撃を受けた事により、ドロドロとした溶岩の塊だった魔神の身体は冷え固まり、黒い火成岩へとその姿を受け変えていく。
 それと共に、徐々に鈍く、鈍重になっていく魔神。 

 それを見て取った各機は、一斉に魔神に接近戦を挑んだ。

 【二式】で斬りかかるサタナエル。
 両手の【氷獣双角刀】で斬撃を浴びせる琴音ロボ。
 【ワイバーンクロー】で掴みかかるラグー。

 しかし、冷えて固まった魔神の皮膚は尋常な硬さではない。
 3機の波状攻撃は十分なダメージを与える事が出来なかった。

「なんて硬さなの!?」

 舞花が、悲鳴に近い叫びを上げる。

『セルマ!魔神の皮膚が、また溶け始めてるわ!このままじゃ、元の木阿弥よ!』
「わかった!一度離脱する!!」

 3体は、一斉に魔神から離れると、魔神とその周囲に氷結攻撃を浴びせ、その動きを封じにかかる。
 再び、魔神の動きが鈍る。
 その時、皆の戦いを崖の上から見つめていたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、重々しく口を開いた。

「感じる……。私の中にあふれる力を!雄々しく、猛々しく、そして熱い……。コレが、人々が我等に寄せる『希望の心』なのか……?」

 カッ!と目を見開くハーティオン。

「今ならば――人々の想いの集う今ならば行ける!いくぞ、龍心機ドラゴランダー!星心機バグベアード!蒼空戦士ハーティオン、参る!」

 ハーティオンの呼びかけに応え、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)もまた、ハーティオンと共に宙を舞う。

「超龍星合体!!」

 ハーティオンを中心に、ドラゴランダーとバグベアードが合体し、全く新しい姿へと変身を遂げる。

キング・ドラゴハーティオン!!!」

 これこそが、蒼空戦士ハーティオンの真の姿。
 そして、人々の希望の象徴。 

「希望の心に照らされて 奇跡と共にここに見参!」
 
 陽の光浴びて、聳え立つハーティオン。
 そして、そのハーティオン目指して急速に近づいてくる、一つの影。

「お、お前は――!?」

 それはドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。

 背中から《地獄の天使》で翼を生やし、トレードマークの黒縁メガネが《潜在解放》《魔力解放》でサングラスに変わってはいるものの、それは紛れも無くハデスである。

「ハデス、その姿は一体!?」
「ククク。これこそが、我が真の姿。本来であれば、後2年は隠しておきたかったが仕方がない。特別に見せてやるとしよう!
そして、この秘密兵器もな!いでよ!聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)!そして、剣神グレートエクスカリバーン!!」

「了解。ぐれーとえくすかりばーん、発進シマス」

 ハデスの呼びかけに応え、彼方より飛来する、一振りの剣と巨大ロボ。

「真の姿を見せよ、カリバーン!」
「任務了解。ぐれーとえくすかりばーんニ合体シマス」

 グレートエクスカリバーンのAIハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が、主の命に応える。
 飛んできた剣とロボットは、ハーティオンの目の前であっと言う間に合体を遂げ、巨大な剣となった。

「こ、コレは――……」
「これこそが、我がオリュンポスの、そしてこのドクターハデスの技術と叡知の全てを注いで作り上げた究極兵器、聖剣エクスカリバーンよ!」

 悪の科学者ハデスが作り出したとは思えないエクスカリバーンの神々しさに、思わず目を奪われるハーティオン。
 ハデスに改造される以前、聖剣勇者カリバーンに宿っていた勇者の心が、ハーティオンに宿る人々の『希望』に、同調しているのだ。

「征け、ハーティオンよ!このエクスカリバーンを使い、炎の魔神を倒すのだ!!」
「そうか、ハデスよ……。貴公もまた、人々の為に――。ならば、最早迷う事無し!!」

 ガシィ!とエクスカリバーンを握るハーティオン。
 人々の為を思っているのは、あくまでハデスではなくカリバーンなのだが、この際細かいコトはどうでもいい。

 ハーティオンは、高々と飛び上がると、両手に握ったエクスカリバーンを、天高く構えた。
 魔神の姿を、眼下に捉える。

「魔神の足は止まってる!今よ、ハーティオン!!いい?一撃で、魔神の身体を両断するのよ!それ以外、勝ち目はないわ」

 飛空艇から魔神の情報を解析していた高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、ハーティオンに告げる。

「目標補足。えくすかりばーん出力、120ぱーせんと」

 ハデスの発明品の声が響き、エクスカリバーンが眩い光に包まれる。

「炎の魔神……なんという熱量と存在感よ……。だが、負けるわけにはいかぬ!」

『ゆくぞ!必殺、銀河!真っ向両断斬りぃーっ!!』 

 裂帛の気合と共に、魔神目掛けて急降下するハーティオン。
 その手に握られたエクスカリバーンが、魔神の身体を脳天から尻尾の先まで両断した――かに見えた、その時。

「な、ナニぃ!?」

 エクスカリバーンは、魔神の身体を半ばまで両断した所で、止まっていた。
 先程まで眩しい程だったエクスカリバーンの輝きが、今は、全く失われている。

「りあくたー出力不足デス」 

 ハデスの発明品の機械的な声が、冷たく響く。
 そして、カリバーンが切り裂いた魔神の身体の中から、大量の溶岩が、デロリ、と溢れだした。
 溶岩は瞬く間に、カリバーンを飲み込んでいく。

「逃げて、ハーティオン!あなたの身体では、溶岩には耐えられない!!」

 ハーティオンをモニターしている鈿女のセンサーが、次々と警報を発する。

「しかし、エクスカリバーンを置いていく訳には――」

 なんとか、エクスカリバーンを引きずり出そうとするハーティオン。
 しかしエクスカリバーンは既に、溢れだした溶岩にすっぽりと飲み込まれてしまっている。

「いかん!このままでは、二人共やられる!!」
 
 ハデスが叫ぶ。

「今スグ離脱シテクダサイ、はーてぃおん……。コノママデハ、アナタモ破壊サレテシマイマス」
「ぬぅおおおぉぉおおおっ……!だ、大丈夫だ、これしき……!」

 あくまで、エクスカリバーンを魔神の身体の中から救い出そうとするハーティオン。
 だがその身体は、見る間に溶岩に覆われていく。
 ハーティオンとエクスカリバーンから、しゅうしゅうと、蒸気が上がる。

『セルマ!ブレスで、魔神を冷やして!』
「ダメよ!そんな事をしても、固まるのは表面の溶岩だけ!魔神の体内から溢れてくる溶岩を、止める事は出来ないわ!!」

 リンゼイの言葉を、鈿女が即座に否定する。

「はーてぃ……おん……。ワタシヲ……置イテ……」
「ダメだ!しっかりしろ、エクスカリバーーーン!!」

 既にハーティオンの身体は半分以上、溶岩に埋もれている。

「誰か、何とか出来ないのか!誰か!!」

 ハデスの悲痛な叫びが、木霊する。

『ハーティオン!そこを動くな!!』 

 突然の声と共に現れた、漆黒の風。
 その風が、魔神の身体を横一文字に切り裂いた。

「こ、魂剛――!」

 風のように現れたそれは、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の駆るイコン、魂剛だった。 
 両断された魔神の身体から、溶岩が、ドロリ、溢れる。
 再び、『風』が動く。
 すると、魔神の下半身が、ドオッ!と音を立てて崩れ落ちた。
 たちまち、溶岩の海の中に飲み込まれていく。
 続けて、二度、三度と魂剛が動いた。
 その度に魔神の翼が、両の腕が、首が、細切れに解体されていく。
 魔神の身体だった溶岩の固まりが、次々と落下しては、溶岩の中へと消えていく。

「い、一体、何が起こっているんだ……?」

『信じられない』という表情で、魔神が解体されていく様を、ただ呆然と見つめるハーティオン。

「スゴい……。こんな事が出来るなんて……」

 ハーティオンと合体しているバグベアードから送られてくる情報を、瞬時に解析した鈿女は、魂剛の戦いに驚愕していた。
 とても、人間技とは思えなかったからだ。
 魂剛はまず、火成岩と化した魔神の硬い表皮を、【ファイナルイコンソード】で切り裂く。
 そして間髪入れず、もう片方の手に持った【二式(レプリカ)】で、ファイナルイコンソードで生じた切り口を全く同じ軌道でなぞり、溶岩が溢れてくるのを止める。
 最後に切り離した魔神の身体を、蹴り飛ばすなり弾き飛ばすなりして魔神の本体から放し、再び融合するのを防ぐ。
 以上の作業を、目にも止まらぬ速さで繰り返しているのだ。
 魂剛の、そして操縦する唯斗とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)による、神速を超えた超神速の一撃『 』(うつほ)であればこそ可能な、絶技であった。
 
『今よ、ハーティオン!』

 エクスの声で我に返ったハーティオンが、魔神の最後の断片からエクスカリバーンを引き抜く。
 ハーティオンとエクスカリバーンを包んでいた溶岩が、バラバラになって落ちた。
 
『離脱するぞ!!』

 ハーティオンを抱えるようにして、空へ飛び上がる魂剛。

『みんな、冷凍ビーム一斉照射!溶岩による沼への侵食を止めて!!』
「「「了解!」」」

 鈿女の指示に従い、乙琴音ロボ、サタナエル、そしてラグーから一斉に放たれた氷結攻撃が、溶岩を覆う。

「やったか?」
『わからないわ……。結局、魔神の弱点みたいなモノはドコにも無かったし……』

 半信半疑の唯斗とエクスの目の前で、溶岩は見る間に火成岩へと姿を変え、やがてその表面に分厚い氷の層が出来上がっていく。


『おそらく……、まだ魔神は滅んではいないと思います』

 陽太がつぶやいた。

「どういうコトだ?」
「この魔神には、『核』のようなモノがありませんでした。つまり僕達が倒したのは、単に魔神の『肉体』に過ぎないと言う事です。恐らく、魔神の本体というか、精神というか、そうしたモノがまだどこかにいるのではないかと、僕は思います。

 唯斗の疑問に応える陽太。
 彼の《エセンシャルリーディング》能力は、今回の戦いを通して、魔神の本質を直感的に掴んでいたのだ。

「つまり、溶岩の供給を元から断つか、もう一度封印するかしない限り、何度でも復活すると言う事ですわね、陽太様?」
「そう思います――多分」
 
 エリシアの言葉を肯定する陽太。
 確証が持てないため今一つ自信がなさそうだ。
 
「そういう事なら仕方ありませんわ。とにかく、今は出来る事をするのみ。徹底的に溶岩を凍らせた上で、一度体勢を立て直しましょう」
「良かった〜。なら、まだ魔神を捕まえるチャンスはあるんだね!!」

 ベリアルが、嬉しそうに言う。
 彼女には、「魔神をエネルギー源とした地熱発電所を建設し、四州島全域に冷蔵庫と冷製プリンを広めようという野望があるのだ。

「ハハハハハ!不死身とは、まさに我が下僕とするに相応しい!炎の魔神よ!ますますオマエが欲しくなったわ!!」
「コラ、御雷!アンタのせいでこんな騒ぎになってるのよ!少しは責任を、感じなさい!!連合艦隊は壊滅同然で、ハーティオンやドラゴランダーは大破寸前!!誰が直すと思ってるのよ!!」
「何を言うのだ姉よ!それを言うなら我がエクスカリバーンとて同じコト!被った損害で言えばおあいこだ!」
「そういう事言ってんじゃ無いわよ、このバカ弟!!全くアンタにはねぇ、前から一度ガツンと言っとこうと思ってたのよ!今スグ降りて来なさい!!」
「残念だったな姉よ!このオリュンポスの大幹部たるハデスに命令出来るのはただ一人、オリュンポスの大首領のみ!!」
「こうなったら不肖の弟もろとも、その大首領とやらも始末してあげるわ!今スグココに連れて来なさい!!」

 ギャイギャイと、不毛な言い合いを繰り広げるハデスと鈿女。

「ねぇセルマ……。今鈿女さん、ハデスさんのコト『弟』って……」
「ウン……。確かに言ったね……」
「陽太様……?鈿女さんとハデスさんて、もしかして姉弟――」
「舞花……。今の話は、僕達だけの胸の中にしまっておこう……。ね、エリシア?」
「そうですわね……。世の中には、決して触れてはいけない『禁忌』というモノがありますから……」

 ハデスと鈿女の言い合いを、呆然と見つめる一同。
 一度火のついた兄弟ゲンカは、まだまだ果てがなさそうだった。