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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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第6章 白球朱に染めて

「さすがにこれは反則じゃのう……」
「残念だけど退場だな」
 主審のマギステル・アンジェリカと一塁審の緋桜 ケイはそのように判断したのだが、三塁審の黒脛巾 にゃん丸は通常のヒット扱いと判定。出塁中の選手たちが戸惑っているが、野球軍側の選手はこれを好機と見て、一斉に出塁中の選手に襲いかかってきた。
 これを見て観客席から何人か飛び込んだ。
 観戦していた妖艶な美女ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、他生徒との親睦がてらフィールドに飛び込むと、近くにいた蛮族を蹴り飛ばす。長い足に見とれていた蛮族の鼻につま先があたり、鼻血を吹き出してひっくり返った。
 同じく観客席から飛び入りの嵐堂 大地(らんどう・だいち)は、真っ赤に染まったモヒカンを逆立てて名乗りを上げる。
「いいかてめえら!モヒカンってのはな、誇り高きモヒカン族の戦士の髪型なんだよ! その魂を受け継いだ猛火漢(もひかん)番長、嵐堂大地が相手になってやる!」
 これを聞いて側にいたモヒカン刈りの蛮族たちはいきり立ち、雄叫びを上げながら嵐堂に飛びかかった。しかし飛びかかったモヒカンたちが攻撃を繰り出すより早く嵐堂の鉄拳が顔面にたたき込まれていく。そのたびにモヒカンたちは「ひぎゅあッ」「べぼしッ」「はとぅわァッ」などと奇声を発して倒れていくのだった。
 二度目の乱闘ともなると観客のほうも慣れたもので、もうそういうものだと割り切って観戦するものも出てくる。
「パラ実名物世紀末救世主乱闘が拝めると聞いてきましたが、こんなものですか。あの蹴りひとつとっても無駄の多い動きですね。イエニチェリとは比べものにもなりません」
 薔薇の学舎から見物にきた黒滝 大晶(くろたき・ひろあき)は冷ややかに目の前の『出し物』を眺めていた。だが一方で、なぜ自分がこんな下劣なショーを見に来たのか不思議でもあった。俺はこの野蛮人どもの何かに憧れてでもいるのか? 馬鹿な、俺にとっての理想はジェイダス様だけのはず……
 薔薇の学舎だけでなく百合園学園からこっそりと様子を見に来たお嬢様たちの姿もあった。彼女たちは少し離れた安全な場所から、オペラグラスごしに男たちがぶつかりあうさまを見ては、キャーキャーと黄色い声を上げているのだった。転校してくればもっと刺激的な光景だって見られますのに、雨宮 千代(あまみや・ちよ)はぼんやりとそう思う。千代は百合園に入る予定の令嬢だったが、刺激を求めてここパラ実に入学したのだった。

 チアリーダーの一人、藤原 優梨子は乱闘を見ていてもたってもいられず、フィールドに飛び込んだ。
「ダメです! 私の目の前で『私抜きの』殺し合いをするなんて! まぜてくださいまし!」
 そう叫ぶとポンポンに仕込んだデリンジャーを構えて敵中に走る。狙うは敵の監督……茅野 菫。拳銃の有効射程というのは存外短い。ぎりぎりまで接近してから引き金を引く。
「あぶない、菫!」
 菫のパートナー、パビェーダが銃弾を受けた。見た目は華奢だがその正体は不死の吸血鬼、この程度で死にはしない。危機を脱した菫の魔術が辺りの空気を焦がし、優梨子は窒息して倒れる。
 空飛ぶ箒に乗って高度を確保しつつ、この戦いを見ていたテトラ・ロシェット(てとら・ろしぇっと)は、深呼吸してから飛び降りた。
「くらえ! 秘技『波羅蜜多大瀑布(ぱらみただいばくふ)!!』」
 それを聞いて、露店で檸檬之鎖闘頭化(レモンの砂糖漬け)を売っていた乱振 狼煙(らんぶる・ろうえん)が驚きの表情で叫ぶ。
「なに、『波羅蜜多大瀑布(ぱらみただいばくふ)』だと!?」
「知っているのか狼煙!?」


「パラミタ大陸沿岸から流れ落ちる滝のうち最大のものはパラミタ大瀑布と呼ばれている。この圧倒的な滝は太平洋と通じており、その水量は平均毎分30万立方メートルとも言われている。これはナイアガラの滝の約3倍という途方もないものだ(波羅蜜多ビジネス新書『賢い父さんの儲かるパラミタ投資術』より抜粋)」


「……というわけで人間の跳躍力を遥かに超える高度から飛び降りることで得られる位置エネルギーを打撃力として用いるパラミタ特有の武術があると聞いている。俗に言うパラミタ三倍段というやつだ」
「なんという恐ろしい武術……!」
 テトラは菫とパビェーダの上にどさりと落ちた。落下の衝撃で三人とも気を失ってしまう。こうして茅野新監督の時代は幕を閉じたのだった。