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海開き中止の危機に!

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海開き中止の危機に!

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 砂浜での戦闘において、彼らほど戦略的に戦っているのは他には居ない。
 アサルトカービンを構えるは桐生 円(きりゅう・まどか)。そのパートナーであるウィザードのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がサラマンダーの炎を避けて空中に飛び上がる。サラマンダーがその姿を追って上空を見上げた瞬間、円の銃弾がサラマンダーの腕と足を狙い撃つ。
 一瞬動きが止まる程だが、それで十分。サラマンダーが円を捉えて動き始める時、今度はオリヴィアの火術がサラマンダーの顔を襲う。そうして互いに攻撃が向けられた時に互いが攻撃して妨害する、そうしている間にディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)の準備が整うのだ。
「行くぜ」
 円とオリヴィアが誘導した、ディアスの領域にサラマンダーが踏み入った時、ディアスは地中に入れた手から火術を発動する。火術が起こした爆発で大量の砂がサラマンダーの体に圧し掛かる。
 雄叫びを上げて体を振りて砂を払おうとするサラマンダー、その動き出しに、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)白井 祐未(しらい・ゆみ)が同時に剣で斬りかかる。
 2人の斬撃は打撃になってしまうが、サラマンダーの巨体を勢い良く吹き飛ばす事が出来た。
 着地を決めるクルードと祐未。ディアスもサラマンダーの行方に目をやっている。円とオリヴィアも近寄りける。
「楽しい、楽しいぞ、ディアス。砂をかける作戦も上出来なのだ」
「確かに炎は弱まり、視界を遮ってはいるんだけど」
「… 火傷、してる…」
 ディアスのパートナー、プリーストのルナリィス・ロベリア(るなりぃす・ろべりあ)は音もなくディアスの横に着き、ディアスの手にヒールをかけた。
「ありがとう、ルナリィス」
「いいよねぇ〜 仲良さそうで」
「… … …」
 オリヴィアの声にはルナリィスは一切の反応を見せなかった。それを見たディアスは小さく笑んだが、すぐにサラマンダーへと視線を向けた。
「やはり、気絶はしない、か」
「すまない、次こそは必ず決めてみせる」
「クルードの攻撃でも気絶しないんだ、それだけ硬いって事だろう」
「あぁ、それでも確実にダメージはある。起き上がるまでの時間が長くなってるからな」
 円の分析にディアスも加わった。
 もう一度、今の戦略で仕掛ける為、それぞれに散る中、クルードのパートナーであるプリーストのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)がクルードの制服の袖を掴んで言った。
「あの、これ栄養剤。嫌いなのは、知っています、けど」
 クルードは無表情の無反応でやりすごそうと思ったが、ユニの手が震えている事に気がついて栄養剤を手に取った。
「… ちょうど欲しいと思っていた所だ…」
 顔を歪めてクルードは、一気に飲み干してから駆け出した。
 円とオリヴィアがサラマンダーの攻撃を妨害、ディアスが火術で砂をかけ、クルードと祐未で斬りかかる、それでも。
 サラマンダーは倒れない。
「くそっ、まだまだぁ」
 ディアスの声に皆も顔を上げるが、誰もみな、大きく肩で息をしているのであった。


 息を切らして浜辺を見つめた。図書室で調べ物をして、走って辿り着いたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が浜を見た時、ディアスの火術がサラマンダーに砂をかけている所であった。
 そこへ2人の生徒の斬撃、サラマンダーは宙を舞っていた。
「おぉ、なかなかに強いんだな」
 ミューレリアに遅れてメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とそのパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)も追いついて浜へと目を向けた。浜でサラマンダーと戦う生徒達は疲弊しきっているようにも見えた。
「ミューレリア、あの人たち」
「あぁ、砂に目を付けたのは良いんだけどな、惜しいぜ」
「ねぇミューレリア、あの人たちに教えてあげようよ、私たちが図書室で調べた事、そうすれば」
「何言ってんだ、あれは私がサラマンダーを捕獲する為に使うんだ、サラマンダーをペットにするんだ」
「でも…」
 倒れたはずのサラマンダーが再び起き上がった。戦っている生徒達も立ち上がり、炎を避けて一斉に散った。が、どうにもサラマンダーに近づけない様にも見えた。メイベルは目を伏せ、首を振って拳を強く握り締めてから力強く目を見開いた。
「やっぱり、私っ」
「メイベルっ?」
 ミューレリアの声もセシリアの声も届かぬままにメイベルは浜へと駆け下りていた。


「くそっ」
 今日だけで何度目だと思ってんだ。地中に手を入れて神経を集中させる。ディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)が戦況を見つめれば、誰もみな、足が重くなっている、捕まるのも時間の問題だ。
 だが、このまま続けるしか方法が…。
「くっそぉぉぉぉ」
 砂が炎を弱めている、もっと砂をかければ、もっと。半ば自棄になって掌に力を込める。
「だめですぅ、違うですぅ」
「なっ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がディアスに飛びついてきた。顔を歪めるディアスに、起き上がったメイベルが言葉を続けた。
「違うのです、砂は体にかけるのではなく、食べさせるのですぅ」
 ディアスが思考を巡らせる。食べさせる? 砂を? 思考が上手く機能しなかった。
「サラマンダーの胃の先には炎袋があるです、そこが機能している限り皮膚の炎は消えないのです、ですから」
「なるほど… それなら!」
 ディアスがサラマンダーに目を向ける。火術の向きを調節して、開いた口に入るようにすればいい、山を作って突っ込ませればいい、単純にブチ込んでもいい。
「あっ、でも、気絶させられなきゃ」
「首の付け根を狙えばいいんだぜ」
「ミューレリア」
 腕組をしたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が顔を背けて立っている。
「メイベルが聞かないから、仕方なく、だぜ。せっかく調べたのに独り占めしようと思ったのに!」
 ディアスはミューレリアとメイベルの顔を順に見て、笑みを得てから立ち上がる。
「ありがとう、助かったぜ。サラマンダーと戦ってる皆に伝えよう」
 メイベルとミューレリアの助言によって、サラマンダー捕獲班は光りを得た、正にそんな瞬間となったのだった。


 ディアスがメイベルの助言を聞いていた時、膝が隠れる程に浅い波打ちで、戦っていたのはレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)、剣士である。
 斬撃が効かないのは分かった、俺の剣の疾さでは斬れない、打撃になってしまう。毎日の素振りを増やすか、何て考えながらサラマンダーの炎を避けていた。
 上手いこと水は飲まねぇんだな。口の中に海水は入っている、しかし、身を守る炎が弱まったり動きが鈍ったりはしていないようだ。吐き出しているみたいだな。
 レイディスはサラマンダーの目の前で海面を強く斬りつけた。それにより海水がサラマンダーに被りかかる。サラマンダーが怯んだ一瞬に、レイディスは頭部へと一撃を叩き込んだ。
 レイディスが後方に跳んで着地した時、ウィザードの緋桜 ケイ(ひおう・けい)が寄り来ていた。
「ずいぶんと地味な事をやってんだな、あんた」
 レイディスは緋桜に目を向けるが、言葉使いと外見が一致せずに困惑した。故に何も言えずにいると、緋桜が続けて言った。
「俺の氷術なら、一発だぜ」
「氷術?」
「あぁ、見てな」
 そう言って緋桜はサラマンダーに向かって行き、素早く切り返して視界を混乱させると、サラマンダーの手と足を目掛けて氷術を放った。あっという間にサラマンダーは、手足の周辺ごと凍らされ、身動きを取れなくなっていた。
「攻撃するなら、このタイミング。どうだ、俺の氷術は。協力してやってもいいんだぜ」
「自慢するために揮われる力ほど、惨めなものはない」
「へっ、悪いな、嫉妬からの罵倒は受け付けてないんだ」
 サラマンダーが力づくで氷を壊そうと暴れている。が、しばらくは持ちそうだ。
 緋桜がレイディスに続けようとした時、老魔法使いであるラベル・オバノン(らべる・おばのん)が歩みよっていた。
「ほっほっほぅ、その力、戦闘で使うのは勿体ないのぅ」
 緋桜の氷術にラベルは呼びかけていた。氷術を習得しているのは緋桜のみだった、浜を見回ったラベルはようやくに、繭の運搬班の切り札を見つけたのだった。


 ランスを構えた水神 樹(みなかみ・いつき)がサラマンダーの上空に飛びかかる。サラマンダーの吐いた炎が樹に襲ったが、樹はランスを高速で回転させて炎を弾き、そのままサラマンダーの額に一撃を入れた。
「おぉぅ」
 樹の雄姿を見ていたパートナーのカノン・コート(かのん・こーと)は「漢らしい背中だ」なんて思ったが、すぐに樹の体に心配が向かった。
「樹、樹ぃ、ちょっと、ちょっとっ!」
 カノンは樹に駆け寄ると、すぐに樹の腕を取ってヒールをかけた。
「ちょっとカノン、今は戦闘中だから、治療なら後でお願いするから」
「ダメだっ、火傷は早く治療しないと跡が残るんだ」
 大きな足音がして、振り向くと、サラマンダーが突進してきていた。
 瞬時に2人は跳び上がり避けたが、2人の視線は一致しない。樹の瞳はサラマンダーを、カノンの瞳は樹を追い捉えていた。それ故に、カノンが着地した時、サラマンダーの尾が振り向かってきていた事にカノンは気付かなかった。
「があっ」
 直撃を受けるカノン。カノンを追った樹にも勢いをつけた尾が襲い掛かった。
 ランスで身を守ろうとも、その重量には耐えられない。カノンと同じに吹き飛ばされた。
 樹が起き上がった時、サラマンダーが目の前で大きく口を開けて炎を吐こうとしていた。
 跳び避け… 足が!
 樹が大きく目を見開く。炎が放たれ、
「うわぁぁぁぁぁぁ」
 カノンがサラマンダーの頭の上でメイスを振り下ろしていた。しかしサラマンダーに反応は無い、気付いていない。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
 止めろ、離れろ、コイツ、止めろ!何度も何度もメイスを振り下ろすカノン。サラマンダーの尾が再びカノンの体を直撃した。
「カノン!」
 サラマンダーは再び大きく口を開けてゆく。カノンは起き上がれずに、それでも樹へと手を伸ばして叫んでいる、その目には涙も浮いている。
「樹ぃ!」
 サラマンダーが樹に炎を放つ、直前刹那、サラマンダーの体が大きく吹き飛んだ。
 飛びゆくサラマンダーを追う2人、次にその瞳に映ったのは、メア・ナハト(めあ・なはと)の涼しい瞳だった。
「ちょっと、何?!」
 樹を抱きかかえるメア。カノンの傍に樹を降ろした。カノンは自分の瞳を疑った。
「あんた、何で…」
「黒髪の女性を守るのは、私の信念です」
 ポニーテール、美しい黒髪。樹はメアを見上げて頬を赤らめた。
「あなたの努力、見届けました」
「へっ、助けられなきゃ意味ねぇよ」
「そんな事はありません。心打たれる者もいたはずです、あなた自身を含めて」
 カノンが樹の顔を見てみて… 樹はメアを見つめているし!
 サラマンダーが起き上がる、そして唸りと共に睨みをつけている。
「さて、先程、捕獲に関しての有効な手法を聞きました。終いにしましょう」
 静かに言って剣を構える。カノンもどうにか、立ち上がり並び構えた。