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臨海学校! 夏合宿!

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其の五 15:30 密林での出会い!!


 そこは森、というよりジャングルに程近い状態だ。緑がある分日陰ではあるのだが、風がないので蒸し暑さがあった。時折聞こえる鳥の鳴き声を手がかりに、鳥を狩ろうと努力はしてみるものの、うまくいかない。トラップをいくつか仕掛けてみるが、どうやら鳥達はこの背の高い木々の上のほうを飛び回っているようだった。
 肉を諦めた赤月 速人(あかつき・はやと)は、見つけたツタや大きな葉だけでなく、見た目だけできのこや果物も適当に判断してざくざく採取を続ける。テント班の素材集めを手伝っていたはずのグラウェン・ロックベル(ぐらうぇん・ろっくべる)は、何故か赤月 速人の荷物もちをやらされていた。

「なぁ、速人……ツタや葉っぱはいいとしてもさ、このきのことか食えんのか?俺、この果物もちょっと怪しいと思ってんだけど……」
「大丈夫だって!腹が減ってりゃなんでもうまいから!!」
「おかしいだろ!?な、それおかしいだろ!?」
「グラウェン、落ち着きなさい。私も持つの手伝うから……」

 瞳の色と同じ真っ赤なパレオつきのワンピース水着を纏うマユラ・スノーフリークス(まゆら・すのーふりーくす)は、パートナーであるグラウェン・ロックベルをなだめながら自分もテントに使えそうな素材を集めつつ森を進む。

「あんまり豪快に採らないでくださいよ、蛮族の方に出会ったとき、勝手に採ってるなんて思われたらいきなり印象悪くなっちゃいますから」

 白いフリルつきワンピースに、何故かエプロンをつけた姿の高潮 津波(たかしお・つなみ)は同じく黒いビキニに同色のエプロンをつけたパートナーの機晶姫ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)を従えて先頭を歩いていた。其の後ろには、地図を描く役目を持った篠崎 真がいる。万が一迷ったとしても、彼の書く地図があれば安心だろうということだ。

「大丈夫!なんせこの俺が交渉役についてるんだ、問題なんて何もおこらねぇさ」
「わ、わああああ!!」

 グレン・ラングレン(ぐれん・らんぐれん)が胸を張って言い切った其の直後、赤月 速人が悲鳴を上げた。一番近くにいたグラウェン・ロックベルが彼の首に巻きつく大蛇に切りかかろうとするが、あまりにも大蛇が密着しており、蛇だけを切るのは、難しそうだった。

「くそ、どうすれば……」

 ヒュ、と風を切る音がグラウェン・ロックベルの耳元を掠めていった。視線をそちらにやるよりも早く、目の前の大蛇の身体は飛んできたらしいナイフにより二つに割れて、赤月 速人は大蛇から解放されていた。

「ダいジョウぶカ?」
「ケガ……なイか?」

 片言の言葉が密林の中から聞こえてきた。高潮 津波は辺りを見回して、其の声の主が蛮族のものであるとすぐに察した。

「は、はい!大丈夫です。助けてくれて、ありがとう!」
「ヨかっタ」

 姿を見せたのは、布を裂いて局部だけを隠した褐色の肌をした流れる黒髪を持つ女性。ワイルドな水着といわれたら、そう見えるであろう格好だ。もう一人も褐色の肌、そりあげた頭に腰巻を巻いただけの男性。年齢は20前後といったところだろうか。

「へぇ、それじゃ、あんたらがパラ実の生徒……なのか?」
「あ、アなタも?」
「俺はグレン・ラングレンだ」
「私、キージャ族。ナラ・ヅーケ、彼、タク・アン」

 ナラ・ヅーケ、タク・アンはそれぞれ自分を指しながら名前らしい単語を口にする。タク・アンは無口な気質なのか、グレン・ラングレンを睨みつけているようにも見える。しばらくの間睨みあうが、そのうち肩を組んで歩くようになっていた。目だけで通じ合う、とはこのことだろう。

「片言はさておいても、名前が何で地上の漬物なのかしら……」

 高潮 津波が苦笑しながら小声で突っ込む。同じ学校のよしみであるということで、彼らは快くジャングルを案内してくれた。
 ナラ・ヅーケは片言ながらも、すぐに溶け込んでいろんなことを教えてくれた。
 きのこは紫色のかさが、この土地ではとてもおいしいということ。
 木の実は表面がぬるぬるしているものがよく熟しており、ジュースに最適であること。
 巨大な芋虫は、丸まった状態で煮込むと、柔らかくて味わい深く地球の鶏団子に似ていること。
 虫食いに見える葉っぱは、ゆでると茶色に変わるが、葱に近い役割を果たしてくれること。
 ジャガイモ……というより、タロ芋に似たような芋の在り処も探してくれた。

 一方、タク・アンは、時折襲ってくる蛇の対処の仕方を、グレン・ラングレン、グラウェン・ロックベルや赤月 速人に教えていた。いつの間にか、捌いた蛇を蒲焼にする方法まで話し始めていてた。

「ナにを作るのでスか?」
「カレーと、バーベキューとお鍋の予定です」
「かレー?よくパラ実で話ニは聞きますが、見たことナいデす」
「そう、カレーっていう煮込み料理を、ご飯にかけるのが私の国では一般的かな。食べたことない?」

 コクン、と頷くナラ・ヅーケに、グレン・ラングレンと高潮 津波は顔を見合わせた。どうやら、同じことを考えているらしい。にっこり笑うと、二人はナラ・ヅーケとタク・アンの手をそれぞれとった。

「「それなら、お礼に、夕食に招待するよ(ぜ)」」 

 キージャ族の二人は大喜びで返事を返す。一旦集落に帰って、食材を分けてもらうこととなり、グレン・ラングレンが集落に招待された。そこで、タク・アンがグレン・ラングレンにいくつかの布切れを見せる。

「コレが、今朝風に乗って飛んデきた。知ってイるか?」
「ん?こりゃ、パラ実で最近ナガンが買い占めてた褌じゃないか」
「褌?」
「ああ、えっと……こうしてつけるんだ」

 グレン・ラングレンが講習会を行いながら、集落の男性達は面白がってみんなでつけてみる。するとこれが意外にも大好評だった。もともと人にくれてやるようなことを言っていたのを思い出して、グレン・ラングレンは集落へプレゼントすることになった。

 帰りは篠崎 真の地図のおかげで、来た時よりもスムーズにキャンプ地へと帰ると、女子用のテントは既に予定通り立っていた。

 女子用のテントは、寄せ集めた布だからか、『水』とか『コンテス』とかよく分からない文字が入っているのもあり、見た目は少し悪いがそれに関しては誰からも苦情は来なかった。
 男子用のテントも、流木で作った骨組みは出来上がっており、あとは葉っぱの屋根や壁を作るだけとなっていた。大量に集めたツタや蔓は編み上げて縄としてテントの足りない部分の補強に使った。
 そして、忘れてはならないのが深夜魔物たちに立ち入られないようにするための、鳴子を始めとする、トラップの数々だ。誰もが入念に何度もチェックを繰り返す。

「始める前は色々大変でびびったケド、やってみるとなかなか、工作みたいで楽しかったな」
「曖浜殿のおかげであります。みんなを鬱々とした作業ではなくあんなに楽しませてくれたおかげで、皆作業そのものが楽しそうだった」

 曖浜 瑠樹は比島 真紀の言葉にテレながら頬をかいた。誰もがテントの出来に満足して、一足先に抜けて櫓を組みにいったキャンプファイヤー組へ向かうと、いく人かの生徒がそこにとどまっていた。彼らの表情には、不気味な笑みが浮かび上がっているのだった。


其の六 17:00 そういえば米は?


 ヘトゥレイン・ラクシャーサは森班が集めた食材を、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はテント班では使わない木材をキャンプファイヤーに、それでも小さい薪を料理班の元へ運んでいた。師匠、早瀬 重治は先ほど彼女の手伝いをしようとして腰を痛めたらしく、救護係り手伝いのエラノール・シュレイクに手を引かれて救護テントに向かっていった。

 水班が作り上げた真水のプールから、葉っぱで作った大きなバケツで何度も水を運び食材を洗い、毒がありそうな食材には予めキュアポイズンをかけて下準備を繰り返す。いくつも設置されたかまどにはせわしなく薪が放り込まれていき、その上に乗る鉄板や鍋の上では多くの食材が踊っていた。
 見た目はひどいが味はとんでもない味わいがある食材たちは、料理班のメンバーによってその姿を変えていった。

「さて、お魚は大きいのは全部捌いて鉄板焼きに、それ以外ははらわたを取って串にさして姿焼きね?」
「貝類はどうするの〜?」
「砂抜きをした奴から、網の上並べておいて〜まだ火はつけないでね〜?」

 時折質問に答えながら、大量に詰まれた魚介類を鈴木 二深子(すずき・ふみこ)はてきぱきと処理していく。その手際の良さには誰もが感嘆のため息を漏らしていた。

「それじゃさけさん、私達もがんばりましょう!」
「ええ……あら?ミルフィさんは?」
「あ、あのこは……お料理禁止なんです……」

 神楽坂 有栖は少し寂しげに微笑むので、荒巻 さけは深く聞かないようにして、自らも採取してきた食材を手にした。

「……さけさん、それ……」
「蛇って、蒲焼で食べられるそうですよ?」
「そ、そうなんですか……凄いですね……」

 そのころ、ミルフィ・ガレットは首から【お料理禁止】の札を下げた状態で、水運びを手伝っていた……。

「ナラさん、このきのこは全部食べられるの?」
「はイ……でも、石づキは取っテくだサい。果物ニは、先ほドの管状ノ植物をサして下さイ」

 フィル・アルジェントの質問に、ナラ・ヅーケはすらすらと答えていく。彼女は集落からもいくらかの食料を持ってきてくれた、小麦粉と思われる粉や、卵などもあり、鍋で焼く薄いパンもメニューに加えられた。料理の出来ないアスタ・クロフォードはこねる作業の手伝いを積極的に買って出ていた。 

「それにしても助かったよねぇ〜、お米ばっかりは私達の荷物にはないんだもの〜。パンもあれば、朝ごはんにも困らないよね」
「このお米、変わった形ね?細長くって、黄色い……」
「パラパラしているので、煮込み料理ニ良く使いマす。津波の国の米は、ふッくラしテいルのでしょう?」
「そうね、でも、国によってやっぱり違いますよ。うちの国はそうだけど、ってだけですね。どっちかって言うと、地球で言うタイ米が近いですよ」

 高潮 津波は特にナラ・ヅーケと仲良くなり、彼女を通して他の料理班のメンバーも蛮族という言葉に畏怖を覚えることはなくなっていた。お互いの格好が露出度が高く、皆似通っているためか、誰も彼女と自分との格差を気にしていない。 
 その様子を、水着コンテスト班の審査員、レーゼマン・グリーンフィール、藍澤 黎が低姿勢で双眼鏡から覗いていた。

「……裸にエプロンより、水着にエプロンのほうが……これはなかなか……」
「あたなたち?」

 背後に感じる殺気に言い訳するよりも早く、彼らの脳天は料理班を手伝っていたイライザ・エリスンによってお玉でたこ殴りされていた。

「イライザさん?」

 セラ・スアレスは不機嫌そうなイライザ・エリスンの様子を見て不思議に思うが、彼女はにっこり笑ってセラ・スアレスと共に料理班の手伝いの続きを始めた。カレーは既に鍋の中で煮込まれ始めており、おいしそうな香りがあたりを漂ってた。

 〜〜18:30〜〜

 準備もラストスパートに入った。バーベキューも焼き始められており、テント組が残った資材で作ったキャンプファイヤーの櫓には火を灯すだけとなった。
 キャンプファイヤーのために、手が空いたものから出し物の準備も始まった。
 一人が、楽器の練習を開始したそのときだった。