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墓地に隠された秘宝

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墓地に隠された秘宝

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秘宝予想図


 一度キャンプ地に戻った八坂は、イライラと陣内を歩き回っていた。
 すると、覚えのない女のクスクス笑いが聞こえてくるではないか。
 声のする方を見やれば、長い銀髪を風に揺らした赤い瞳の女が立っている。警備の厳しいここにどうやって入り込んできたのかと、八坂は警戒する。
「何者だ? どうやって入ってきた?」
「そんなことは小さなことよ……」
 ラペル・チェンバロッテ(らぺる・ちぇんばろって)クルクス・ナインレッド(くるくす・ないんれっど)を従えて、ゆっくりと八坂に近づく。
 異様な雰囲気に八坂は一歩引いた。
「そんなに警戒しないで。ワタシ、アナタとお友達になりたいの」
「友達だと? 気でも狂ってるのかね?」
「あらぁ、ワタシは本気よ」
「不要だ。部外者は出て行ってもらおう。今回は特別に見逃してやる」
 八坂の鋭い眼光にもラペルはまったく動じない。逆に楽しんでいるようにさえ見える。
「ダメよ。ワタシはアナタについていくって決めたのよ。だから、よろしくね」
 二人はしばらく睨みあっていた。いや、睨んでいたのは八坂で、ラペルは微笑んでいる。
 やがて八坂は鼻を鳴らして吐き捨てるように言った。
「勝手にしろ。ただし、邪魔はするなよ」
「もちろんよぉ。お友達だもの」
 その言葉を無視してラペルに背を向けた八坂は、使える時は使ってやろうと暗く笑んだ。



 特に行く当てもなくシャンバラ大荒野を歩くコタ達は、何度か襲撃を受けた。どれも冒険者崩れやならず者達で、宝珠とは関係のない集団のようだった。そして、そのたびに同行者が少しずつ増えていった。
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)ラグナ アイン(らぐな・あいん)もその内だ。
 ラグナは期待するような眼差しでクラリッサに秘宝について尋ねている。
「機晶石っぽい匂いとかしませんでしたか?」
「に、匂い……?」
「私の予想では、秘宝は封印された古代の機晶姫だと思うのですよ」
 ラグナの勢いにタジタジのクラリッサは、助けを求めるように佑也を見たが、彼はお手上げというふうに苦笑しただけだった。
 だが、その様子をラグナがバッチリ見ていた。
「佑也さんは違うとおっしゃるのですか? さっきは同意しましたのに」
「いや、してないよ……」
 いきなりコタに聞くのではなくクラリッサに聞いてみたら、とは言ったが。
 というのも、現在逃亡中の墓守が会ったばかりの奴に秘宝のことを話すとは思えなかったからだ。それなら、同行しているクラリッサから探ったらどうかと勧めたのだ。
 ところがラグナのような人物はもう一人いた。皇祁 雅(すめらぎ・みやび)だ。
 長身の彼女は黒い瞳をキラッキラさせて、クラリッサに自分が耳にした噂を話した。
「ゆる族の秘宝は恋愛成就の宝石だと聞いたよ! ……なあ、あんたも本当はそれが欲しいんだろ?」
 後半は声をひそめて言う雅。
 今度はクラリッサはポカンとしている。
 しかし、それを図星を突かれた顔と判断した雅は、仲間を見るような目で見て、慰めるようにクラリッサの肩を叩いた。
「見ていればわかるよ。だって、俺も同じ思いを持ってるからさ」
「え、えぇ!? あのっ、ちょっと……」
 頬を赤くして慌てふためくクラリッサに、雅は確信を強めた。
「別に恥ずかしがることないじゃん。大切な人を守りたいって気持ち、よくわかるよ。……伝えないの? すく傍にいるんだから」
 そう言った雅の目はわずかな切なさを抱えていたが、半ばパニック状態に陥っているクラリッサは気づかなかった。
 呼吸困難にもなりかねないクラリッサの背を撫でて落ち着かせようとしたのはトーヤ・シルバーリーフ(とーや・しるばーりーふ)だった。
「そ、そんな急に言われたらビックリしちゃうよ。クラリッサ、深呼吸して。大丈夫だから」
 言われて深呼吸を繰り返すクラリッサ。
 心が静まってきたところで彼女は同行者達に謝罪した。
「ごめんなさい、取り乱してしまって。……私、そんなにわかりやすかったかしら」
 それは見た人の印象によって答えの変わる問いだった。
 雅のように同じ思いを抱える者にはすぐにピンときただろうし、そうでない者には多少の違和感を感じさせるくらいだっただろう。
「気にしないで。ねえ、クラリッサはコタ君とどうやって知り合ったの?」
「私達は……」
 ふとみんなと雑談をしながら前方を歩くコタの背を見たクラリッサは、その日を思い出すようにわずかに目を細めた。
「雨の日よ。ゆる族の墓地で会ったの。コタも私もお墓参りに来ていて。あそこ、滅多に人なんていないから珍しくて声をかけたの。……お互い、故人を偲んで湿っぽくなってた後だったから、ちょっと気まずかったんだけどね」
「それから、ずっと一緒に?」
 頷くクラリッサ。
 トーヤはポケットから手のひらサイズのぬいぐるみらしきものを出して、クラリッサに握らせた。
 それは、トーヤの手作りのコタのぬいぐるみだった。
「禁猟区をかけておいたよ。危険から守ってくれるように。何か困ったことがあったら、何でも言って」
「恋の相談もね」
 茶化すように雅が混じってきた時、さっそくぬいぐるみが反応した。
 同時にコタの方にいた月隠 神狼(つきごもり・かむろ)の鋭い声が上がる。彼女のパートナーの虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)が自身がかけていた禁猟区に敵がひっかかったのを感じて知らせたのだ。
「来るよ!」
 一行は足を止め、迎撃態勢をとった。
 前衛に出た神狼は前方から突進してくるバイクの五人組に、威嚇射撃を行った。
 土煙を上げてブレーキをかける彼ら。
 またかと思うくらい、どう見ても荒くれ者だった。
 神狼はうんざりしながら、それでもそれを表に出さずに彼らに言った。
「一応聞くよ。何の用かな?」
 リーダーらしき男が獰猛な笑みで答えた。
「はっはっは! 一応答えてやろう。お宝の鍵を寄越しな。大人しく渡したら何もしない……かもな!」
 再び下品な笑い声を立てれば、仲間の四人も同じように笑う。
 コタのにいた富士丸の目が怒りに光った。
「死者の安らぎを守る墓守……その墓守を襲うとは何事か……痴れ者め」
 陽光に反射したホーリーメイスに怯え……ではなく、鋼のような髯を蓄えた相貌、筋骨隆々の二メートル余りの体躯、実直さを表す眼光に、五人は馬鹿笑いを引っ込めた。
 後方で見守るクラリッサの傍ではトーヤ、雅、ラグラ達がいつでも戦えるように武器を構えている。
 他にも仲間はいるわけで。
 数的に不利を知ったリーダーは、それでも強気に言い放った。
「ふ、ふん。俺達を退けてもお宝の鍵を狙う奴は山ほどいるんだ。賢い俺達は、お前らが逃亡の果てに疲れて弱ったところで、そいつをいただくとするかな。はっはっは!」
 言うだけ言って彼らは来た時と同様、土煙を巻き上げて去っていった。
 何しに来たのかよくわからない連中だったが、一つの真実を残していった。
 仲間を代表するように神狼はコタとクラリッサに尋ねた。
「……んっとさ、二人が狙われる原因って何かな? 言いづらいことだけどそれが解消されないかぎり、ずっと狙われるわけでしょ? ……いつか、限界が来ちゃうよ?」
「オイラ達が狙われるのは、秘宝の鍵っスよ。知ってるっしょ。けど、こいつがある限りずっとこのままなのは確かっスね。……限界、か」
 数秒の沈黙の後、コタは行く先をゆる族の秘宝の眠る墓地に決めた。
「オメーのおかげで決心ついたっス。そこで決着つけるっスよ。……悪いけど、巻き込むっス」
 何を今さら、と神狼達は笑った。

 再び歩き出した一行の数メートル後ろ。
 ゆらりと空間が揺れて人影が現れる。
「ふっふっふ。いいコト聞いちゃった」
 光学迷彩で後をつけていた時雨塚 亜鷺(しぐづか・あさぎ)は、メモ帳を見てニヤニヤする。
「もう少し詳しいことがわかったら、望みのありそうなのにこの情報を売って……ウフフフ。あ、それともこのままこっそりついていって、ピンチの時にかっこよく助けて恩を売るか……」
 自分が損をしないよう、怪我をしないように立ち回る算段をつける亜鷺。
 が、突然背後からのびてきた手にメモ帳を奪われてしまった。
「何!?」
「ほうほう、これが……ご苦労じゃったのう」
 と言って、懐にメモ帳をしまいこもうとする蓮池 みとら(はすいけ・みとら)
「返してよ!」
 亜鷺はみとらからメモ帳を取り戻そうとするが、みとらはひらりとそれをかわす。
 みとらは不気味に「ヒッヒッヒ」と笑う。
「これはみとらちゃんが有効に使ってやるけぇのう……」
「盗人が堂々と何を言うかー!」
「そっちも同じじゃろう。カッパ共の後をこそこそと……」
「うぐっ。あ、あなたに言われたくないよっ」
 少し、声が大きすぎたと気づいた時は、もう遅かった。
 先に行ったはずのコタ一行が戻ってきていて、疑心に満ちた眼差しを亜鷺とみとらに向けていた。
 メモ帳は亜鷺に返され、二人は監視されるように一緒に行くことになった。
 が、亜鷺もみとらも諦めたわけではない……。