天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

美少女サンタのプレゼント大作戦!

リアクション公開中!

美少女サンタのプレゼント大作戦!

リアクション

・21時40分 ――ゲーム開始から二時間半経過

 この時点でもまだ市街中心部に多くの参加者が集まっていた。
「おお、そのサンタ服似合ってるなー。二人になれるとこでじっくり見せてくんない? ……って、サンタ探してたんだっけ? ま、いいや! なぁなぁ、どうよ?」
 鈴木 周(すずき・しゅう)はサンタクロースを探し……てはいたが、サンタコスの女の子へのナンパに夢中になっていた。
「あの……困りますわ。あれ、今サンタを探してるとおっしゃいました?」
 そこへ、箒に乗った神代 明日香が降りてきた。そう、周がナンパしていたのは彼女のパートナー、神代 夕菜だったのである。
「ダメですぅ〜かわいい女の子のコスプレ配達員はいたのですが……ってあなた何してるんですかぁ〜?」
 パートナーがナンパされてる状況を見て、明日香は目を見開いた。
「今度はメイドのかわいい子が……なあ、これからどっか行かない?」
 迫りくる周に彼女は戸惑いを覚えた。
「今サンタを探してるのですぅ〜」
「あ、実は俺も……」
 その時、夕菜はある事を確信したようで、そこで周の言葉を遮ってしまった。
「明日香さん、ちょっとよろしいかしら」
 周から少しだけ離れ、静かに自分のパートナーに耳打ちする。
(もしかしたら、サンタクロースは女性かもしれませんわ。サンタを探している、と確かに言っておりますしたわ……ただのナンパかもしれませんが)
 夕菜がサンタ姿だから声を掛けられたかもしれない、ようだった。だとすれば……
(それなら、さっき見た大きい袋持った女の子がそうかもしれないですぅ〜)
 途中でコスプレ配達員にしては違和感のある人物を見かけていた。が、明日香はサンタクロース=男性だと考えていたため、声は掛けなかったのである。
 付近を見渡してみる。サンタクロースを探していると思しき人達がサンタ姿の女の子を呼びとめている様子がその場からも窺えた。
(街中でも同じようにしてる方はいらっしゃいますわ。絶対とは限りませんけど、その方が本物かもしれませんわ)
 相談した後、二人は周とひとまず別れることにした。夕菜が男性を苦手としていたことと、相手がやたらと女の子に積極的だったため、本能的に身体が動いたのである。
「と、いうことで失礼するですぅ〜」
 明日香と夕菜は街の中心部から離れた場所に置いてきたサンタのトナカイまで歩いて行く。
「あ、ちょっと、俺も探し……いっちまったぜ」
 二人のナンパに失敗し、少ししょげる。が、すぐに立ち直り、
「こうなったら絶対モテるようになるアイテムを貰ってやるぜ。待ってろ、サンタのじーちゃん!」
 夕菜の思っていた事とは異なり、周は単なるナンパ目的で彼女に近づいたのだった。この時彼自身は、サンタクロースが女の子であるなどとは夢にも思っていなかったのである。


「たくさんケーキを頂いちゃいましたね。袋の中がパンパンですよ」
「いいんだ、余りものなんだし。帰ったら全部食べよーぜ」
 明智 珠輝とリア・ヴェリーの二人はバイトが終わり、空京の繁華街を歩いていた。バイトの時のサンタ姿のまま、しかもケーキを入れ過ぎてやたらと大きい袋になってしまっている。
「ふふ、それにしても、今日はサンタ姿が多いですね。さすがクリスマス・イブ……あれ、なんか私達にも視線が集まってるような……?」
 実際、彼らを見ている者がすぐ近くにいた。四人、厳密に言うならば一人と一組である。
「あれだけ大きな袋を持っている人は他にいない。あれが本物のサンタか、袋のせいで顔が見えないが……爺さんではなさそうだ。ん、隣にもう一人……二人組のサンタ、もしくは本物の手伝いか護衛か?」
 一人の方は虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)である。彼はちょうど真後ろからその姿を捉えていた。
「自分を見つけてってくらいだから、このたくさんいる中でも大人しめな人がきっと本物だよ」
「ちょうどそれらしき者を発見した……見ろ、あれだ」
 もう一方はエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とパートナーの機晶姫ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)、アリスのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)である。
「伊達や酔狂で大きな袋を背負っているわけではないだろう……どう思う?」
「他の人とは雰囲気が違います、多分、あの人が本物です」
 ミュリエルは答える。明らかにこの場の他のサンタとは様相が異なっていたため、直感的にそう思ったのである。
「む、考えているうちに離れてしまった。追うぞ!」
 三人は珠輝の姿に迫っていった。
「あれ、なんか目つきの悪い人が近づいて来るんですけど……さっきの視線はあの人たちですか。ふふ、そんな眼で見ないで下さい、ああ、感じてしまいます……!!」
「待て珠輝、まだ僕達と決まったわけじゃ……ってほんとに見てるぞ!」
 実際は後ろのケーキ袋を追いかけてる側は見ているわけだが、この二人は自分達が見られていると思い込んでしまった。すぐに駆けだしたが、
「走ったら追ってきましたよ、ああ、この感じたまらない!!」
「おい、もっと急がないと追いつかれるぞ」
 が、追ってくる二組が早かった。すぐに追いつかれ、その際に袋からケーキが飛び出してしまう。
「……ケーキ?」
 涼は袋から出たものを見て、目を細めた。同じくらいのタイミングで駆け寄っていたエヴァルトも、
「プレゼントとじゃない、だと?」
 と唖然としていた。
「男女の二人組……ああ、どうやら思い違いだったようだ」
「僕は男だ!」
 涼は二人を見て、完全に本物でないと確信したようだ。袋の中身もプレゼントでなかったのだから、バイト帰りだったとでも考えたのだろう。
「まさかそれ全部ケーキなのか? なんてことだ!」
「当てが外れたね」
 エヴァルトは頭を抱える、それに対してパートナーの二人は苦笑気味であった。
「あれ、何をそんなにがっかりしてるんですか?」
  珠輝はそれぞれから事情を聞いて納得した表情になる。
「サンタさんがプレゼント配り……? なるほど、それで皆さんはサンタさんを探してたんですね。ふふ、面白そうですね。リアさん、私達もぜひ手伝いましょう。ふふ。てなわけで頑張って探して来て下さいね、リアさん」
「え? 僕が探すの? ったく、仕方ないなぁ……」
 リアは一瞬驚いたようだが、すぐに飛び立っていった。
「俺達も探すか。きっとサンタも探してとは言ってるが、プレゼントを配っているはずだ。一か所にずっとはいないだろう」
「虎鶫さんに同感だ。この人数で手分けして探せば早く見つかるはずだ」
 その時、ミュリエルが口を開いた。
「子供達に配ってるんなら、郊外の住宅街なんじゃないでしょうか。あの、もう子供は寝てる時間のはずなので……」
 その意見に、その場にいた者たちは頷いた。
「ふふ、では街中を見回りつつ移動しましょうか。何か分かるかもしれませんし、ね」
 彼らは今いる繁華街から郊外の住宅街へと向かう事を決めた。
 

・22時00分 ――ゲーム開始から三時間経過
 
 時間は現在に戻る。フレデリカの所へ手伝いを申し出る人が現れている頃、空京の繁華街からほどなく離れた広場には複数の男女がいた。
「なるほど、サンタは女の子かもしれないってわけだね」
「あの文章を見た感じだと、若そうだし、なんとなくそれっぽいんだよな」 
「わたしもそう思いますよ。自分達の立場に近い女の子っぽい雰囲気を感じましたし」
 十倉 朱華とパートナーのウィスタリア・メドウ、葉月ショウ、如月 空(きさらぎ・そら)、そして神名 祐太(かみな・ゆうた)であった。街で聞き込みをしていた四人は情報交換のため集い、そこにゲーム参加者を探していた祐太が合流したのである。
「街中のサンタ姿の女の子にも聞き込んだけど、みんなバイトの子とかだったんだよな。もうこの辺にはいないのか?」
「プレゼントを配ってるなら、子供の家がある辺りにもういるんじゃありませんか? あれだけ探してもみんな違ってましたよ」
 ショウと空は主に女性のサンタ姿を中心に声を掛けていたため、大体街中の探索は済んでいたのである。
「まあ、僕達もこんな格好だったから、視線を集めたりしたけどね。でも、あの様子じゃ今繁華街にいる人達は見つけるのに戸惑ってるんじゃないかな」
 朱華とウィスタリアはサンタ姿である。そのため、ここに来る間に視線を感じたり、声を掛けられたりすることが多々あった。
「それじゃ、郊外まで行ってみようぜ!」
 祐太は提案する。しかし、歩くには多少距離があった。
「そうだね。ここから歩いたら時間がかかるし、行こうか……っと、僕達には小型飛空挺があったな。だけどこの人数、大丈夫かな?」
「俺は箒があるから大丈夫だぜ」
「でも残り四人じゃ厳しいよね」
 いくら空が小柄だとはいえ、小型飛空挺に四人だと厳しいものがものがあった。
「あれ、君達サンタクロースを探してるの?」
 ちょうどそこの五人に声が掛かった。その主は蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)であった。
「うん、でもちょっと困ったことがあって」
 答えたのは空だ。そこで彼女は、郊外に移動しようと考えている旨を説明する。
「なるほどね。それなら大丈夫、あたしたちも小型飛空挺ならあるから……ね、ヒメナ」
 路々奈のパートナーのヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)は頷いた。
「十倉さん達のと合わせて二艘、これなら三人ずつで乗っていけます」
 さらに二人を加え、一行は空から郊外にいると思われるサンタクロースのもとへと向かっていった。
(上空からならうまく撮影出来そうね。よし、そろそろ準備するよ)
(はい)
 路々奈達の目的はサンタウォッチをする事だった。そのため、まずはサンタの居場所を推定する必要があったのである。事情を聞いたことで、サンタに近付けると考えたのだ。
(玲奈はもう辿りついたのか?)
 ショウは受けた勝負の事が気になっていた。時間的にも、早い人ならサンタを見つけていてもおかしくはない。


「街中かと思ったら……住宅街の方にいるのね?」
「ええ、おそらくは。プレゼントらしき反応を感じました。いくつかに分かれていきましたが、一番大きいのは動きが鈍いですね」
 如月 玲奈とバイト終わりでゲームに合流したリュース・ティアーレもまた、バイクに乗って郊外へと足を運んでいた。
「……で、どうしてそんな格好なの? 上から見たら女の子かと思ったら、まさか男だったなんてね」
「ケーキ屋でさっきまでバイトしていたものですから」
 玲奈は繁華街から飛び立った時に、勢いよく走っていくサンタ姿の女性を捉えた。だが、近づいて声を掛けてみたら長身の女装をした男だったのである。
「他にも何名か一緒にいたんですが、皆さん本物のサンタクロースがいることには気づいてないようでしたね……ん?」
 その時、後方から人の気配を感じた。振り向けばバイクで疾走してくる影が。それはすぐに彼に追い付いた。
「え、サンタクロースが三人!?」
 それはサンタ服を着たグレン・アディールと彼のパートナーの二人だった。玲奈は一度箒で上空に上がる。
「学園にあの知らせを届けたのはお前か?」
 ただ静かにリュースを問い詰める。
「違いますよ。オレもあの知らせを見て、本物のサンタクロースを探していたところです」
「ほう。一つ聞くが、何か掴んでるのか?」
 あえて街中ではなく、郊外へと向かってる様子から、サンタについて何かを知っているのではないかと推測したようだ。
「オレの感覚によれば、郊外の住宅街をゆっくりと移動しているようです。そこを中心にいくつかに分散しているので、サンタの手伝いを申し出た人もいるみたいですね」
 その言葉にグレン達は安堵したようだ。リュースはそれを見て不思議に思った。プレゼントが目的ではないのだろうか、と。
「そうか。ならばこの方向で合っている、ってことか」
 こちらの一行もまた、サンタクロースまであと一歩というところまで近づいていた。