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ちーとさぷり

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ちーとさぷり
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 店へ訪れたのは夜薙綾香(やなぎ・あやか)に頼まれ、薬を買いに来たエト・セトラ(えと・せとら)布都御魂(ふつの・みたま)だった。
 エトが棚に並んだ薬を見る。
「これ、全部そうなんだよね?」
「でしょうね」
 と、短く答える御魂。先客が会計をしているのを見て、何とも複雑な気分になる。
「うぅ……この種類が、人の欲望の種類に見えてきた……」
 そう呟きながら、いくつもの薬を手に取っていくエト。
 会計を済ませた佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、連れの賈思キョウ著『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)へ言った。
「これで解毒剤が作れたらいいんだけど」
「やはり、一度調べてみないと分かりませんものね」
 通りすがりに聞こえたその言葉に、御魂は声をかけた。
「あの……」
 振り返る弥十郎と斉民。御魂は店員の目を気にしながら言った。
「薬の研究をするおつもりですか?」
「ああ、最初は症状をまとめようとしたんだけど、何だかおかしかったから」
「それでは、インターネットに綾香さんの設置した掲示板があるので、ぜひご利用ください」
 弥十郎と斉民は頷くと店を出て行った。
 十本ほどの薬を抱え、エトが会計へと向かう。すぐに御魂もそちらへ駆け寄った。

『空京シティへ、バイクを走らせるように。荷物あり。ランデブーポイントとルート、時間、目的地をマップとして添付する。スクランブルレベルは1。他言無用』
 そんなメールを受け取ったのは真矢のパートナー、ミスターコールドハート(みすたー・こーるどはーと)
 何だかいつもと違うメールの中身に、コールドハートは心配になる。だが、真矢のことだ。きっと何か考えがあるのだろう。
 そう信じ、コールドハートは返信を打つ。
『了解』

 しかしやってきた真矢は、いつもと違った。
「あんたがミスターコールドハートね」
「……はぁ」
 どうやら、彼女はまたパーソナリティを破棄したらしい。そして再起動、と。
「んー、良い空気! さあ、案内しなさい」
 と、真矢はコールドハートを見た。
「あー、えっと」
 今の真矢がどこまで知っているかは疑問だったが、とりあえず説明を始める。自分の知っている真矢のこと、他の仲間たちとの関係など。
「なるほど」
 真矢の返答はそれしかなかった。本当に理解したのか信じがたい。
「それで、ヒラニプラにある黒羊郷ってところに行った時――」
「あら、そんな記録なかったけど?」
 コールドハートは固まった。まさか……。
「龍雷連隊っていうんですが……」
「ふぅん、なるほど」
「あ、でもオレ、参加してないから詳しくは知らないです」
「へぇ、そうなの?」
「はい」
 真矢はそれ以上聞くこともせず、コールドハートは寂しい気持ちになる。そうして記憶を失くし、関わった人たちとの思い出を消してまでして、真矢は一体何がしたいのだろう。

 ちーとさぷりの噂を聞いたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、夜の空京にいた。女の子一人で歩くのは危険な気もするが、アリアには剣がある。
 日中、校内で集めるだけの情報を収集してきたアリアだったが、店の場所までは分からなかった。すでに記憶を失くした者が記憶を取り戻す方法を求め、歩き続けるアリア。
 それらしい路地へ入ると、足元に何かが転がっていることに気がつく。
 しゃがみこんでそれを拾い上げると、薬らしき瓶だと分かる。
「まさか、これ……」
 闇の中なので形しか分からなかったが、アリアは直感する。ちーとさぷりだ――!
「よう、お譲ちゃん。こんな時間に出歩くなんて危険だぜ?」
 背後から男の声がして振り返る。
「あなたたち……っ」
 そこにいたのはチンピラたちだった。何度か遭遇したことのある顔触れだ。
 挨拶もそこそこに、男たちが攻撃を仕掛けてくる。アリアは後ろへ飛んで避けたものの、男たちの一人に先回りされて殴られてしまう。
「っ!」
 以前とは比べ物にならないほど強い。もしかして、これがちーとさぷりの効果……?
 反撃する間もなく、地面へ倒れ伏すアリア。
「もう終わりかぁ?」
 リーダー格の男がアリアの頬を撫でる。そしてにんまりといやらしい笑みを浮かべたかと思うと。
「きゃあああ! いやあ、あぁっん!」
 抵抗するアリアに構わず、男たちの夜は始まりを迎えた。

 空京大学の研究室を借り、研究を続ける綾香。
 インターネットに掲示板を設置してまだ二十四時間経っていないのに、掲示板には大量の書き込みがされていた。
「店の場所……空京でしか買えないの……店員の顔……くだらんな」
 しかし綾香の欲しい情報はなく、ちーとさぷりを求める者の書き込みがほとんどだ。
 試しに更新ボタンを押すと、新たな書き込みが反映される。
「解毒剤を作ろうと思っています……来た!」
 ぱっと顔を輝かせ、綾香は画面に見入った。