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第6章 ルール確認――禁止事項、あるいは前哨戦

 試合前日。
 選手参加は締め切られ、メンバーは両チームに分けられた。
 その参加人員のほとんどは、自分がどのチームに入るかも一緒に記載していたので、選手のチーム分けはスムーズに進んだ
 が、名簿にズラリと並んだ名前に、影野陽太は少し不安になった。
(この人達、ルール分かってるのかなぁ)
 サッカーのルールは存外に色々と細かい所が面倒だったりする。
 正直自分もよく分かってはいないけど……こう、根本的な所で認識を誤ってる可能性がある。
 影野陽太は参加選手全員の連絡先にメールを送り、集合するよう告知した。
 ――そして、蒼空学園の一室。
「さて、みなさん」
 正面には影野陽太が立ち、集まった参加選手を見回している。
 改めて見てみると、どの顔も癖のありそうなメンツばかりだった。
(普通に終わるわけないよなぁ、こんな人達の試合なんて)
「お忙しい所集まっていただき、ありがとうございます。本日は……」
「能書きはいりません。さっさと話を済ませてください」
 そう言ってきたのは樹月 刀真(きづき・とうま)だ。隣に座った漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がその口の利き方をたしなめる。
「刀真、言葉が過ぎるよ」
「時間が惜しい。練習をしないといけないだろう?」
「その必要はないぜ」
 葛野翔が言った。
「今日はもう前日だ。明日に備えてゆっくり休んで欲しい」
「ほぅ、白チームは余裕だな?」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)が口を挟んだ。
「俺達紅チームとの戦いを前にして、『ゆっくり休め』とはな?」
「あんたたちこそ、サッカー部の集まってるチームにサッカーで勝負するなんて、いい度胸してるわね?」
 そう返すのはレロシャンだ。顔には不敵な笑みがある。
「ただのサッカーなら、確かに俺達に勝ち目はないね。でも、これはスキルありの蒼空杯サッカー大会、言わば『蒼空サッカー』だ」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)もニヤリと笑う。
「スキルもあり、っていうのなら、逆にこっちが有利かも、だよ?」
「……えー、まずはそのスキルについてですが」
 影野陽太は話を自分のペースに戻そうとした。
「くれぐれも注意しておきたいのは、ダメージが発生するスキルの使用についてです。
 既にシュートなどでダメージ系スキルの使用を考えてる方もいると思いますが……」
 すると、あちこちで血相を変える者が続出した。
「! ちょっと待て、まさか、俺の1200パワーシュートが撃てないだと!?」
 愕然とした表情をするのは高村 朗(たかむら・あきら)だ。
「俺のグラビティブリザードが使えないのか!?」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)の台詞に、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がショックを受けた。
「グラビティ……貴様、俺と同じ事を考えてるな!?」
「……なるほど、誰でも考える事は同じというわけか」
「なんて事だ……まさか試合前に必殺技封印のイベントがあるなんて、くそっ!」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が口惜しそうに机を殴りつけた。
「……えーと、そのスキルですが、ボールにスキルを施すのは構いません。そのスキルをかけられたボールに、敵味方を問わず別なプレイヤーが触れてダメージを負っても、反則は取らない事とします」
 影野陽太の台詞に、各種の必殺シュートを持っている者達は安堵した。
「ただし、その際に使うスキルの選択は、慎重に行って下さい。全体攻撃系スキルの使用は、周囲の選手にダメージを与える恐れがあります。スキル発動による相手選手のダメージが確認された場合は、故意かそうでないか関係なく、即退場ですのでご注意を」
 その台詞に、樹月刀真は愕然としていた。
(くそっ……俺の必殺技に乱撃ソニックブレードを組み合わせる事はできないのか)
「また、シュート以外にも様々な形でスキルの使用を考えてる方もいるかと思いますが、その時もダメージ系スキルの使用には気をつけて下さい。例えば『その身を蝕む妄執』は、これは幻覚を見せるスキルであると同時に、ダメージを与えるスキルです」
「……あれ、そうでしたっけ?」
 そう思わず口にするのはミューレリアだった。
「そうです。ですから、使用を確認したら即退場です」
「あぁ、はい。分かりました……」
(うぅ……私の必殺ゴーストタックルが……)
 ミューレリアは顔を伏せて深く深く落胆した。
「他にも、サッカーと言えば手を使わなければいい、という認識が有りますが、こちらにも注意して下さい。例えば、手を使ってないとは言え、ボールを足で挟んで、ピョンピョンと跳ねながら移動するのは反則です。同様に、スキル『超感覚』等で尻尾を生やして、それでボールを持って移動、というのも反則とします」
「えぇー! 手使ってないからいいじゃないのー!?」
 そう反論するのはイングリットだ。どうやらそういうプレーをやりたかったらしい。
「サッカーではボールは持つものではありませんから。どうしてもやりたければ、尻尾ラグビーという新しい競技を作り出すくらいの事が必要でしょう」
「えぇー。いい考えだと思ったのにー」
 ぶぅ、とイングリットは頬を膨らませた。
「また、今回はボールをふたつ使うという変則的なルールです。得点後のキックオフについては、全てのプレイヤーが自分の陣地にいなければならない、というルールは無しとします。ひとつのボールがゴールを割っても、もうひとつは両チームのプレイヤーがプレー中という事も十分考えられますから」
「得点されても、相手が態勢整える前にキックオフして、一気にカウンターかける、ってのもアリなわけだな?」
 弐識 太郎(にしき・たろう)の質問に、影野陽太は頷いた。
「その他、反則についてはキッキングやストライキングなどありますが、この辺りについてはハンドリング同様に皆さんも分かっていると思います。ファウルの類は『戦闘』の攻撃そのものですしね。オフサイドがないのは、告知にも書いてありますから大丈夫ですね?」
「質問。ひとつ訊いていいか?」
 手を挙げたのは虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)だった。
「コートの広さをキロメートル単位にしたのは誰なんだ?」
「さぁ、僕には分かりかねます」
「俺は途中まで、実行委員の手伝いをしていたんだがな……告知直前までは、コートの広さは普通通りだったんだ。それが、直前になって2キロ×3キロなんてイカれたサイズに設定されて、現場も会場設営も大パニックだった」
「まぁ、先生方で組織された実行委員幹部会で決まった話でしょうけど……それが、何か問題でも?」
「別に……ただ、そんな形にしたヤツの顔を一度見ておきたくてな。それだけだ」
 虎鶫涼は話を終わらせた。
「私からも、質問いいですか?」
 ミルディアが挙手した。
「この試合って、空京オリンピックの選手選考を兼ねているとかいう話があるんですけど、どこまで本当なんですか?」
「ガセネタです」
 影野陽太は切り捨てた。
「本大会は、あくまで生徒達が鍛えた力を振るう、それだけの場です」
「ふぅん。やっぱりアレはデタラメだったんだ?」
「? アレ、と言うのは?」
「百合園の校門前に、選手受付窓口があるんですけど、そこに……」
「分かりました。後で詳細を確認しましょう。他に質問は?」
 ない。咳払いをひとつ。
「最後に、一番大事なルールについて確認します」
 影野陽太は声に少し力を込めた。
「試合中は色々あると思います。極力安全なプレーを心がけて欲しいとは思いますが、ある程度のケガや負傷もあるでしょう。相手チームに対して、色々と感じる所も出て来て当然です。
 しかし、試合後はそれらのモヤモヤは全て水に流して下さい。
 蒼空杯サッカー大会は戦闘ではありません。スポーツです。皆さんは、スポーツマンシップに則ってプレーして下さい」
 言葉が全員に行き届いたのを確認して、影野陽太は頭を下げた。
「以上です。本日はお忙しい中、お集まりいただいてありがとうございました。
 選手各位の健闘を祈ります」


 第一回蒼空杯サッカー大会 登録選手及びポジションは以下の通り。


紅チーム
背番号 ポジション 名前
20 FW マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)
19 FW 遠野 歌菜(とおの・かな)
18 FW 高村 朗(たかむら・あきら)
17 FW/GK 風森 巽(かぜもり・たつみ)
16 MF 鬼院 尋人(きいん・ひろと)
15 MF 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)
14 MF クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)
13 MF ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)
12 MF 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)
11 MF 鬼崎 朔(きざき・さく)
9 MF スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)
8 FB カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
7 FB ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
6 FB 原田 左之助(はらだ・さのすけ)
5 FB 弐識 太郎(にしき・たろう)
10 FB 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)
4 FB 四条 輪廻(しじょう・りんね)
3 FB マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)
2 スイーパー ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)
1 GK 椎名 真(しいな・まこと)

白チーム
背番号 ポジション 名前
20 FW 秋月 葵(あきづき・あおい)
19 FW イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)
18 FW 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)
17 FW 芦原 郁乃(あはら・いくの)
16 FW ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)
15 MF 葛葉 翔(くずのは・しょう)
14 MF 水無月 良華(みなづき・りょうか)
13 MF/GK レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)
12 MF 藤 凛シエルボ(ふじ・りんしえるぼ)
11 MF 樹月 刀真(きづき・とうま)
10 MF 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
9 MF 秋月 桃花(あきづき・とうか)
8 FB アシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)
7 FB ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)
6 FB ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)
5 FB 虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)
4 FB タニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)
3 ストッパー 安芸宮 稔(あきみや・みのる)
2 リベロ 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)
1 GK 赤羽 美央(あかばね・みお)
21 ベンチマネージャ クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)



 ミルディア・ディスティンの話した事について、少し捕捉をしておかなければなるまい。
 件の参加選手・実行委員受付窓口は確かに百合園女学園校門前に存在しており、そこにはゆる族のキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が座っていた。
 立て札には「空京オリンピック正式種目 選手選考会」という記載があり、物好きな百合園女学生が話をしてみた所、「ミーは選手選考会の代表ネ。今のウチにミーと仲良くしておくと、後々イイ事あるノネ」と語っていたという。
 が、大会開催告知後、数日後にはその窓口は消えていた。
 複数の目撃証言によると、パートナーの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)が窓口にいきなり乱入、キャンディス・ブルーバーグを張り飛ばした後、窓口の天幕や長机などの備品をさっさと片付けてしまったらしい。