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死したる龍との遭遇

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死したる龍との遭遇

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第7章 決着

「みんな、戻れ!」
 攻撃を開始した死龍に対し、アイアン・ナイフィード(あいあん・ないふぃーど)が火炎による力押しで時間稼ぎに出た。
 死龍は「やられたらやり返す」という反射的な攻撃しかしないはずだったのだが、玲奈による内部での攻撃で、それは変化したらしい。その時視界に入った者全て――つまりこの場にいる全員――を完全に敵とみなしたようで、氷弾で無差別に爆撃し始めたのだ。
 森の中では動きづらいし葉陰のせいで氷弾が見づらいこともあって、彼らは追われるように再び洞窟前の開けた場所に戻ってきた。
 氷弾に対抗できるのは火術だが、それを使えるのはデーゲンハルト、アイアン、鼎、マリア、ノイン、煙の6名のみだ。それぞれに禁じられた言葉、ヒロイックアサルトを用いて魔力を底上げし、放った火術もまた、死龍自身を襲うには鉄壁の水壁に阻まれ、決定打にはなり得なかった。
 火術は確かに氷弾を溶かし、水壁を散らせる。しかしいくら蒸発させても死龍は瞬時に大気から水を作り出して身に纏ってしまうからだ。
「いつまでもこうしているわけにはまいりませんわ」
 魏 恵琳(うぇい・へりむ)が撃ちつくしたハンドガンを投げ捨て、グレートソードに持ち替える。
「そろそろ洞窟の皆さんも戻られておかしくない頃です。決着をつけなくてはなりません」
 一番有力な火術とて、そう何発も撃てるわけではない。SPが尽きれば終わりだ。
 恵琳が刃に手を滑らせると、追うように火炎が吹き上がった。爆炎波を纏った大剣で氷弾と水壁を突破する。攻守を兼ねた技だ。
「よし。やってやるぜ、俺ぁよ」
「言うまでもない!」
 白津、エヴァルトがそれぞれ武器に爆炎波をかける。
 狙う場所はただ1つ。龍珠を握った右の鉤爪!
「行っくぞぉおおおおーっ!」
 3人は別々の方角から、一斉に死龍に向かって走り込んで行く。
「皆さん、目に集中してください」
 マリアの言葉で、火術が死龍の左目に集中した。6つの火炎は混じり合い、1つの巨大な炎となって死龍へと襲いかかる。今までのように死龍の作り出した水壁が炎のほとんどを散らし、威力をそぎ落とした。そして身をそらして残りの炎を避けようとした死龍だったが、その時、左手の鉤爪に、やはり爆炎波を纏った鎖十字が絡みついた。
「逃がしません!」
 ぐい、とリュースと赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が引っ張る。火炎は死龍の左の顔面にヒットした。
「やった!」
 同時に、3人の剣が死龍の右鉤爪を狙って三方向から振り下ろされる。しかし死龍は鎖十字を難なく引きちぎり、体勢を整えるや3人の前に新しい水壁を作り上げた。
「効くかよ、こんなもの!」
 急ごしらえの水壁は層が薄く、3人の勢いを阻むだけの厚さが不足した。
 水の防御を突き破った3人が、目標を捉えたと思った瞬間。ごうと渦巻く水流が死龍の口腔内からほとばしった。
「なにィ?」
「きゃっ…!」
 滝となって雪崩落ちた水が、瞬く間に3人を地表へ叩き落す。
 その水は水壁と合流して死龍の周囲を滞留し、まるで死龍の嘲笑のようなさざなみの音すら響かせた。
 死龍はどこまでも強く、人にははかり知れない圧倒的な魔力の持ち主なのだ。
「ああ、そんな…」
 燦然と立つ死龍の姿に、絶望の呟きがクコの口からこぼれる。
「駄目だ! 諦めるな! あいつは絶対に倒せる!」
 叫んだのは、霜月だった。
「あの顔を見ろ! 火炎は命中している。攻撃は効いているんだ! それに、あの龍珠だって、輝きが褪せてきてるじゃないか! やつの力だって無尽蔵にあるわけじゃない! やつは決して倒せない相手じゃない!」
『いいこと言うぜ、霜月』
 ユリウスの銃型HCから一輝の声が聞こえてきた。
『ほんと、霜月くん。あとでキスしてさしあげますね。あ、もちろんほっぺにですよ、クコさん』
 エンジン音をバックに咲夜 由宇(さくや・ゆう)の声も聞こえてくる。
「一輝? どこにいるんです?」
 問うユリウスの上に、小型飛空艇の影が落ちる。
「行くぞ、落ちるなよ!」
 死龍からの氷弾を避けながら、小型飛空艇はたくみに死龍の真上に接近した。
「アイアン! 火炎で水壁を薄くするんだ!」
 一輝たちが何をしようとしているか悟った霜月の号令で、再び6人の火術が死龍へと向かう。
 6方向からの火術に対して水壁が立ち上がった時、小型飛空艇で一輝のすぐ後ろに立ち乗りしていた由宇が、一輝の肩を踏み台に死龍に向かって跳躍した。
 幸せの歌を口ずさみ、落下しながら爆炎波を纏ったレプリカ・ビックディッパーに全体重を乗せていく。
 刃は由宇の狙い通り、剛太郎と健太郎が削って小破壊したうなじの骨に食い込み、これを砕いた。
 ぐらりと揺れて、死龍の首が落ちる。
「今だ!」
 霜月の合図でクコ、ルイ、ウィングが右の鉤爪に向かって跳躍し、関節から爪ごと龍珠を切り離した。
「やったーっ! ルイーっ!」
 パチパチ、パチパチ。セラが快哉を叫ぶ。
 龍珠から切り離された死龍はその瞬間に完全に停止し、落下の衝撃でバラバラになった。そして龍珠は地面に落ちるとなぜか急速に縮んでいき、水晶玉程度の大きさになってしまう。おそらくは、内側に残った力に合わせて外側が縮んだのだろう。小さくなることで以前の輝きを取り戻した龍珠は、人間が扱うには絶好の大きさだった。
「これが龍珠なのだな」
 自分の足元へ転がってきた龍珠を、綾香は拾い上げようとしたのだが。龍珠のすぐ近くに、ビシッと銃弾が打ち込まれ、動きを止めた。
「おおっと、それに触らせませんよ。それは私の物です」
 硝煙の向こう側で鼎が不敵に笑う。
「――なんだと?」
 こやつ、やる気か?
「撃ってみるがいい。我が氷刃の威力、その身をもって知ることになるぞ」
 ヒュウ、と綾香の周囲で冷気が渦を巻いて流れる。
「ぁあ〜?」
 やんのか? コラ。チビ。
 まさに一触即発。しかしその時、間近でガツンと何か硬い物がぶつかる音がした。
 ルイの拳の下で龍珠にヒビが入り、一部が欠ける。そこから力が漏れてしまったように龍珠はみるみる輝きを失い、ただのガラス玉になってしまった。
「あーーっ! わっ私の龍珠がっ!」
「南無…」
「南無、じゃないしっ!」
「どうしてくれる! 貴重な宝がっ!」
 2人は声を揃えてルイに抗議をしたが、力が消失してしまった今ではもはやあとの祭りだった。