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【学校紹介】薔薇のように美しくあれ

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【学校紹介】薔薇のように美しくあれ

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新入生を案内せよ
 
 フェンリル・ランドールは、パートナーのウェルチと共に薔薇の学舎を散策していた。
 見るものすべてが珍しく、そして絢爛豪華だった。
「このような学校に通うような先輩方とはどんな方々でしょうね?」
「そうだな」
「おや、私たち以外にも結構新入生がいるようですね。色々教室がありますが、先輩方が案内して下さるんですかね?」
「そうじゃないか?」
「じゃあ、ここから行きますか」
 教室を入った先は数々のエンジェル像が飾られている美術室。
 そこでは、黒紙のやや低い青年清泉 北都(いずみ・ほくと)とパートナーで蒼い髪のクナイ・アヤシ(くない・あやし)の二人が美について語っていた。
 二人の脳裏には出会ってもう一年が経つのかという感慨もあったが、今は新しい学舎の生徒を学舎に慣らさせるのが先だと、熱心に説明していた。
 だが、北都にはもう一つ心配事があった。
 あの人は、おとなしくしているだろうか?
 あの、赤いマントを羽織った、最近じゃ薔薇学の名物とも汚点とも言われるあの人。
 北都は知らなかった、『あの人』の心配をしているのが自分だけではないことを。
 複数の学生が心配していることを。
 
「拝啓……百合園でも学校紹介を行っていると聞いています…………」
 扉の音に気付いて素早くレターセットをしまう。
 ここ、音楽室の案内はクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)とパートナーのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)である。北都に案内されてきた生徒達は、彼らに音楽室の説明を受けることになっている。
「なんですか、ここは?」
 フェンリルが思わず声を上げる。
 フェンリルが声を上げるのも無理はない。
 楽器や音響設備は立派なのだが内装が奇抜すぎるのだ。
 クリスティーはその場を収めるように精一杯の声で。
「皆さん、静粛に! この音楽室には、校長ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)様のパートナーであられるラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)がそろえられた、数々の名品があります。見かけだけに翻弄されないで、内面で人や物をはかる力を身につけましょう」
 とっさの思い付きだったが、新入生の中にはうんうんとうなずいている者もいる。
 その時、クリスティーは、パートナーのクリストファーがいないことに気付いた。
 嫌な予感がする。
 クリスティーは思った。
 そしてその予感は的中することになる。
 クリストファーは彼の美しさに惹かれた新入生を口説いていたのだ。
 廊下の片隅で。
 誰にも見えないであろう場所で甘い言葉を囁いていた。
「そうそう第2音楽室というのがあってね、そこではベットの上でいい声で鳴くんだよ」
 新入生は声を押し殺していた。
 クリストファーにとって甘い時間だった……そして、その少年にとっても。
 
 フェンリルとウェルチは外に出て、少し話している間に案内をしてくださっている先輩達からはぐれてしまっていた。
「どうしましょうか? ウェルチ?」
「どうしようもなにも、ガイドに従うか、先輩達を見つけることだ」
 その時ひとひらの薔薇の花が、そして風が吹くと行く平物薔薇の花弁が飛んできた。
 薔薇の嵐が吹いてきた所は、どうやら薔薇園になっているようでそこから飛んできたようだ。
 その薔薇園の方から気だるそうな声が聞こえてくる。
「おや……銀の髪の……迷子かい?」
「ここは何です?」
 フェンリルが尋ねる。
「ここは、僕の薔薇園だよ。イエニチェリになると学舎から薔薇園を持つことを許される。もちろん任意だけどね」
「イエニチェリ! と言うことはあなたがイエニチェリなんですか?」
 フェンリルが驚きの声を上げる。
「そうだよ、自己紹介が遅れたね僕は黒崎 天音(くろさき・あまね)、イエニチェリの一人だよ」
「僕もイエニチェリに是非なりたいんです! なり方を教えてください!」
「イエニチェリのなり方なんて人それぞれだよ。中には、校長の友人もいる。でも、大半は校長に任務で認められた者かな」
 天音は気だるそうに言う。
「ほらもう、お迎えが来たようだ。送っておやり」
 そう言って、薔薇の手入れをしていたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に声をかける。
「誘いもせずにここまで来るとは薔薇のいたずらかな……それとも何かの兆しかな」
 その黒いドラゴニュートは少し微笑んだように見えた。
 
 案内された所に数人の新入生と外の案内らしき先輩の姿が見えた。
「はぐれちゃダメだろ。まだ、学舎に慣れてないんだから。何かあってからじゃ遅いんだ」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がクールにしかし優しげな声でフェンリル達を叱る。
「この辺りは憩いの場だな。研鑽に打ち込んで根を詰め過ぎると、却って行き詰ったり体調を崩す事もある」
 そして池から立派な錦鯉が跳ねあがる。
「ここで飼われている錦鯉はジェイダス校長の母方にあたる方が養殖なさっている錦鯉なんだ」
 そこには色も通夜も超一品の錦鯉達が泳いでいた。
「君達もたまにはこういったところでゆっくり過ごして気分転換するのも良いかも知れないかな。学舎は平和だけが住んでる所じゃないからね」
 呼雪は、寂しげに笑った。
「おうおう、聞きた事があれば何でも俺様に聞けばいいじゃん!」
 そう言うの先日パラ実から転校してきた南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)である。
 パラ実であれば何か気に食わないところを見つけて新入生をしめるのもならわしってものだが、ここは薔薇学である、そう言う訳にもいかない。
 優しい先輩を演じなければ。
 だが色々聞かれるのも正直ストレスたまる。
 俺様もこの学校に来て日が浅いんだよ!
 とは心の声。
 パートナーのオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は、呼雪の声にちょっと頬を赤らめたりもしていたが、錦鯉のエリアに来てからは錦鯉に夢中である。
 光り輝く錦鯉は新入生よりも輝いて見えた。
 その時時そヒ素声が聞こえた。
『あの後ろの人、鯉の獣人かな?』
 そう言われても仕方ないかもしれないけれど、オットーの逆鱗に触れたのだ。
「それがしドラゴニュートである。鯉ではござらぬ!」
 今にも新入生に襲い掛かりそうになったオットーを止めたのは、トラブルが起きていないか各部署を回っていた藍澤 黎(あいざわ・れい)だった。
「やめないか! 新入生に乱暴など。先輩らしく振舞わないか」
 あくまで美しく咲き誇る薔薇のような凛としたたたずまい『忘れじの薔薇』がそこに咲いていた。