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リアクション
「――ケープビットよ、舞い踊れ!」
アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)の凛とした声が響き、グール達の足元を狙い撃つ。
足止めを食ったグール達を追ってきた面々は、それを機に一気に攻撃を仕掛けた。
夏樹 涼太(なつき・りょうた)が間合いを詰めて一閃すると、涼太に反撃しようとしたグールをネーヴェ・ガンバレル(ねーう゛ぇ・がんばれる)がサイコキネシスで持ち上げて叩きつける。
「涼太を傷付けるのは許しませんわ……」
「少しはセーブしろ、ネーヴェ」
「そんな必要ねぇぜ! 悪者だしな!」
涼太の言葉をアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が遮り、ブレードトンファーで薙ぎ払う。
「同感ね」
「市民に被害がいかない程度に、仕置きをしましょう」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)がアストライトに同意を返しながら、疾風突きを繰り出し、ファイアーストームを放つ。
「炎舞・鳳閃渦!」
「足元がお留守だぜッ」
「ネーヴェさん危ない!」
涼太が足元を切りつけ、ネーヴェがそのまま転倒させ、隙の空いたネーヴェの背に回ったグールをケープ型ビットが狙い撃つ。
「ふう……やはりティセラ様のように自在に、とはいかないわね」
「あ……大丈夫ですか」
各々が戦っている後ろで、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)が転んでしまった少女に声をかけた。
擦りむいている膝にヒールをかけながら、安全な場所まで誘導する。
「下がっていてくださいね、危ないので」
その途中にも怪我人を治癒し、戦いの場に一般人を入れないように批難させる。
「みなさん怪我はしていないでしょうか」
各々が闘っている様子はもはや市街地であることなど意中にないようだ。
入るに入れない様子をソルファインは諦観するしかなかった。
が、次の瞬間。
「うわッ!?」
ガンガンに攻撃を仕掛けていたアストライトの足が止まる。
グール達がいるはずもない方向から攻撃を受けたのだ。ケープ型ビットが暴発したのかと仰ぎ見てもそうではないらしい。
「危ないっ!!」
辺りを見回しているとソルファインの鋭い声。
見ると前方の建物が崩れるところだった。
「な……ッ」
「じっとしてるんじゃないわよ!」
リカインがアストライトを突き飛ばし、ラスターエクスードで瓦礫を受け止める。
「――今だ!!」
攻撃がやんだ瞬間を見計らって叫んだ声は辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)のものだ。
その声を合図にグール達が一斉にその場を逃げ出す。
舌打ちして追おうとしたアストライト達を追いこして、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が飛び出していく。
「僕とミスティさんたちで追いますので、皆さんは戦いに備えていてください!」
「逐一連絡しますぅ」
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が言葉を重ねる頭上から、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が指をさす。
「見失う前に追うわよ!」
「はいっ!」
それを見送った皆は辺りを見回して他にグールがいないか確認する。
落ち着いたのを見てリカインが携帯を手に取った。
すぐそばのエリアを担当していた榊 朝斗(さかき・あさと)に通話をつなぐ。
「お疲れ様、首尾はどうだい」
「それなりってところかしら。榊君の方はどう?」
「こちらも上々だ。発信器を仕掛けてやったしな」
「こっちもコハク君たちが追っている」
「よし。――さっき集まってくれと連絡があった。そっちもすぐにエメネアのところに来てほしい」
俺も向かっているから、と言って朝斗との通話が絶たれる。
もう一度怪我人やグールがいないかを確認し、涼太たちもエメネアの元に戻るのだった。
「取り逃がしてしまったけど、あれは絶対にゾンビ……グールってやつだって!」
興奮したクリア ボイス(くりあ・ぼいす)は、先ほどからずっとしゃべり続けている。
事を要約するとこうだ。
昨日の深夜、ボイスも例の盗賊団に会ったらしい。
幸い一体だったそうだが、真夜中に会いたい相手ではない。
けれど、相手が盗品らしきアクセサリーを持っていたこともあり、応戦しなければと思ったボイスはその場にあった消火器を手にとって振り回したという。
「消火器、ね……」
「咄嗟だったからね。でも、おかげで驚いて逃げてってくれたよ。これがそのアクセサリー」
そう言ってボイスはいくつかのアクセサリーを差し出した。
「やるじゃないか。これは元の持ち主に返そう」
「ああ、そうしてあげてくれよ」
「……しかし、夜とはいえ、学園の近くに出るのはいただけないな」
朝斗の言葉に、ダリルも頷く。
「だな、活動拠点はばらばらなようでいて広がってきているらしい」
「……昼だからって安心はできない」
「そうだよっ!」
気配もなく現れ、口を開いたのは美鷺 潮(みさぎ・うしお)と皇 鼎(すめらぎ・かなえ)だった。
「む、驚かせるでない!」
「昼だけど、出た……。学園の近くの裏路地……」
「こんなことになってるなら教えてくれたらよかったのに!」
「ってことは……二人も戦ったわけ?」
潮の言葉に沙幸が首を傾げると、二人は頷いて見せた。
「銃弾撃ちこんでやったよ!」
「適当に……追い返した」
「そ、そうなんだぁ……」
「今日はそれを言いに来ただけだから……」
「えっ?」
「帰ろう……鼎……」
「えっ、あっ、ちょっと待ってよ〜!」
潮は短く顛末を伝えると、そのまま踵を返して去って行ってしまった。
「まるで嵐のようじゃな……」
「ああ、でもこれで何となくわかったな」
「本当か!?」
フラメルが勢い込んで訪ねると同時に、ファクトリーのドアが勢い良く開いた。
「エメネア、聞きましたよ」
入ってきたのはセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)を連れた御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)だった。
「メールを見ましたよ、大変なことになっているみたいですねぇ」
「ち、千代さん!」
「でも、もうすべきことはわかっているんじゃないですか? みなさんがついているんですから、何も恐れることはありませんよ!」
「え、えっ」
「さぁ、自分の手で解決すべく、さっそく出かけましょう!」
「さすが千代! さっそく行こうエメネア!」
――スパァン!!
そう言ってエメネアを連れ出そうと手を取ったセシルの後頭部を、派手な音を立てて何かが襲った。
呻きながらセシルが振り返ると、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)がハリセンを構えて立っていた。
どうやらセシルを襲ったのは正悟のそのハリセンのようだ。
「落ち着いて、セシルさん。行くかどうかはエメネアが決めることだよ」
「そうだよ。マスター、落ちつきなよ」
どこからともなく割り込んできたのは水晶 六花(みあき・りっか)だった。
流れに呆気にとられて何も言えない面々を取り残して、六花はビシッと指をさす。
「マスター、速攻で犯人捕まえにいこうとか、千代さんの説得聞いて『自分で解決させようってのはもっともだ』とか考えてエメネアをなし崩しに連れ出そうとか馬鹿を考えたろ?」
「え、りく、どうして此処に?」
「それはともかく! それじゃだめだっていつも言ってるだろ?」
「え、え、あ」
「……落ち込んでる者の気持ちがわからない奴に、落ち込んでる子を思うまま連れ回すことは出来ないよ」
捲し立てていたかと思うと一転、落ち着いた声で六花は言う。
「りく君……」
「……そう、だよな……」
暫くの間をおいて、セシルがぽつりと呟く。
(俺は根本的に大事なことを見落としてた、のか……)
そしてきっと顔を上げると、千代を振り返る。
「千代、俺行ってくるよ」
「セシル君……」
「もちろんエメネアにも無理を言ってごめん」
「へ? あ、いえっ」
「騒がせてごめん、みんな。俺にも手伝いをさせてくれないか」
「何だかよくわからないけど、戦闘要員が出来るのはいいことだ」
ダリルが肩を竦めて、集まった面々に向き直る。
視線を受けてマクシベリスが頷き地図を広げた。
「状況をまとめよう。みんなの報告を聞いて大体の目星はつけた」
地図を指差しながら大体の場所と予測人数を伝える。
「郊外の廃墟、が奴らのアジトらしいな。おそらくグールの人数もそれなりだ」
「戦える連中はみんな行った方がいいな」
「既に何人かは向かっているはずだぜ、帰ってきてない連中がいるからな」
「うぬ、マベリー、我も……」
「ああ、フラン。待たせたな」
にっと口角を上げたマクシベリスに、フラメルも笑みで返す。
それを合図に各々が散っていく。飛空挺やバイクなど皆がアジトへ向かったのを見て、正悟はずっと黙っていたエメネアを振り返った。
「エメネアは、どうする?」
「私は……」
一度言葉を切ったエメネアはそっと顔を上げてゆっくりと口にした。
「ここで、みなさんを待っていたいです」
「うん」
「まだここにあるアクセサリーも、守ってあげたいですし……みなさんを信じていますから」
「なるほどね」
エメネアの言葉に頷いた正悟は微笑を浮かべる。
「それじゃあ俺もここに残ろうかな」
「えっ」
「エメネアを一人にしておけないしね。奴らが来たら大変だろ?」
「それなら自分に任せるであります!」
「ファクトリーを襲わせたりしませんわ」
正悟の言葉に大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)とソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)がいち早く反応した。
「しっかり警備させていただくであります!」
「任せて、エメネア。わたくしたちがここを守りますわ」
「はは、じゃあみんなで待ってようか」
ね、と正悟が首を傾げる。
エメネアは胸を張る剛太郎やソフィア、笑顔の正悟やいちるたちを見回して、こくん、と頷いた。
「はい……っ、みなさんが帰ってきたときに笑顔でお迎えできるように……待っているです……!」