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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

リアクション

   1

 2月3日 17:00

 予報では夜半から雪がちらつくということもあって既に空はどんよりとし、肌に刺すような風が時折吹いている。
 そんな中、シャンバラ教導団の校庭に集まった生徒たちは、見事に真っ二つに別れて固まっていた。別におしくらまんじゅうをするわけではない。一触即発というところか、互いに互いを睨み合っている。
「おーおー、面白れぇことになってんじゃん!」
 血濡れの サイ(ちぬれの・さい)がポケットに両手を突っ込んだまま、ヒュウッと口笛を吹いた。
 キィィン、という不快な音がスピーカーから出て、生徒たちは耳を塞いだ。サイも顔をしかめ、
「ハウリングが起きてんぞ!」
と隣に怒鳴る。
「あー、すみませーん」
 てへっ、と笑い、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)はマイクに手をかけた。
「あーあー、本日ハ晴天ナリ本日ハ晴天ナリ。ただ今マイクのテスト中。……OK?」
「ああ」
「では」
 こほん、と一つ咳払い。
「長らくお待たせしました! これより、『今年のバレンタインをかけた青春のサバゲー大会』の開会式を行います。まずは総責任者よりのご挨拶です」
 黒髪の精悍な顔つきの女性が朝礼台に上がる。
「カシラー、中!」
 沙 鈴(しゃ・りん)が返礼し、口を開いた。彼女は第四師団の教官であることから、今回のゲームでも進んでその役割を担っていた。
「今回のゲームの総責任者となった沙 鈴ですわ。初めにルールの説明を行います」
 参加者の人数は、廃止賛成組=豆撒き組が十八名、廃止反対組=鬼組が二十二名。
 ゲームは「シャンバラ教導団に敵が潜入した」という仮定で行う、と説明したところで、どよめきが起こった。
「静かに!」
 ピシリ、とした鈴の一言で生徒たちは黙る。
「皆さんの心配は分かります。校舎を破壊しても良いのか、ということでしょう。……それは我々も困ります。なので、ゲームは校舎を模した建物を使います」
 市街戦用のフィールド内に、校舎によく似た建物があることは、生徒たちも知っていた。
 鈴は続けた。
 豆撒き組は防衛、鬼組は攻撃とした殲滅戦であること。二時間のタイムリミットで勝負が決しなかった場合は、生き残りの多い方を勝利とすること。なお、豆撒き組は緑、鬼組は赤の腕章をつけて一目でそれと分かるようにする。
 また、ペイント弾ではないため自己申告制だが、念のために審判がつくという。
「で、何で主審がうちの学生じゃねぇの?」
 サイが睨んだ先には、蒼空学園の閃崎 静麻(せんざき・しずま)がいた。
「全員、時間を合わせてくれ。ただ今の時刻は、と、一七一〇(ひとななひとまる)まで五秒、四秒、三、二……」
 参加者と審判がいっせいに腕時計を合わせる。中には年代物の懐中時計を持っている者もいた。
「公平に裁定が出来るようにという配慮からだ」
 サイの疑問に答えたのは、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)だ。静麻と共に弾薬の買い付けに来ていたマクスウェルは、美しい風貌とは裏腹に戦場育ちという経歴を買われて、審判を打診された。マクスウェルは躊躇ったが、自衛官の息子である静麻が何事も経験だと主審を引き受けてくれたので、副審ならばと承知した。
「うほぅ、こりゃ美人のねーちゃん! よぉよぉ、こんなんフケて、俺とどっか行かねーか?」
 マクスウェルはちらりとサイを横目で睨んだ。彼は男だ。
「教導団の生徒では、どちらかに味方する者があるかもしれないからな。一部、部外者を入れたというわけだ」
「そうかねぇ。少なくとも、俺の相棒はそんな気、さらさらねぇぜぇ?」
 鈴の命令で、残りの副審が武器のチェックを行っていた。サイのパートナー、アキラ 二号(あきら・にごう)が、審判用の白い腕章の位置を何度も確認している。大人びた雰囲気の少年だが、確かに――熱意が感じられない。
「なっ?」
「というかあれは、そもそもやる気がないんじゃ」
 プリモがぼそりと言った。
「ち、ちょっと、あんた」
 同じく副審の小鳥遊 帝(たかなし・てい)が声を上げた。気が強そうだが、声は震えている。それもそのはず、帝の前にいるのは身長一九〇センチを超える巨漢、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)だった。
「何だ!? 何か文句があるか!?」
「あ、ある!」
 帝は言い切ったが、次の言葉が出てこない。どうしたんです、と近づいてきたのは、やはり副審のリーヴァ・ハンニバル(りーう゛ぁ・はんにばる)だ。イルミンスール魔法学校から「男らしさを学ぼう!」と見学にやってきたリーヴァは、静麻たちと同じ理由から審判を引き受けていた。
「――これは」
 リーヴァは眉間に皺を寄せた。
「改造してますね?」
 明らかに普通のエアガンより重いそれを手に取り、リーヴァは尋ねた。
「おおっ! これであいつらを殴るためよ!」
 ケーニッヒは悪びれもせず、くくくっと笑うと、鬼組に目をやった。
「ルールには、豆鉄砲で人を殴っちゃいかん、なんてねぇだろ?」
 どうだったかな、と考え込んだリーヴァの代わりに、もちろんだと大岡 永谷(おおおか・とと)が答えた。
「そもそも豆を撃つという時点で市販のエアガンを改造してある」
「だろ?」
「それに弾がなくなれば、銃で敵を殴るというのも、当然だ」
「だろ?」
「だがケーニッヒさん、あなたの銃はちょっと重いようだ」
「そうかあ?」
 ケーニッヒは顔をしかめた。
「これでは他の参加者と差が出来てしまう。――どうしようか」
「予備のハンドガンがあるじゃろ。誰か、サイドアームを貸してくれ」
 欠伸を噛み殺しながらアキラが言った。じゃあ、と豆撒き組からデザートイーグルが提供された。世界最強とも言われるハンドガンにケーニッヒはご満悦だ。もっとも、エアガンなのだが。
 ケーニッヒ以外はこれといって問題なく、チェックはすんだ。
 その時が近づくにつれ、緊張が高まる。
「さあっ、今年のバレンタインを賭けた運命のサバイバルゲーム、いよいよ一八〇〇(ひとはちまるまる)に開始です!」
 マイクを握り、プリモが声を張り上げた。隣のサイが、ふぁーあと大きな欠伸を一つする。
「ちょっとサイちゃんっ、もうちょっと真面目にやってよね!」
「へーへー」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)が鈴を射るような目で睨んでいることに、誰も気づかなかった。