天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【新入生歓迎】新入生歓迎騎馬戦!

リアクション公開中!

【新入生歓迎】新入生歓迎騎馬戦!

リアクション

 「さてと、どうしましょうか?」
 ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)達は蒼空とインスミールが入り乱れた戦いを遠巻きに見ていた。
 「良いか? 後輩共の活躍がメインだからな。お前達はある程度裏方に徹しろ」
 主の橘 恭司(たちばな・きょうじ)の方針は活躍は新入生に譲ってやるというモノだった。彼の方針にミハエル達は従い後衛という立場に立っている。
「戦況もどちらにもトントンといった感じですね。此方が動くにはまだ早いですね」
 此処から見る限りでは、鉢巻の数はほぼ同数と言って良い。
「そうですね。まだ戦況は動きそうにないですね」
「高みの見物もたまには良かろう」
趙雲 子竜(ちょううん・しりゅう)八神 六鬼(やがみ・むつき)も同意見の様だ。
 「よう、良く来たな!騎馬戦はやった事あるよな?」
  御神楽ツァンダ競技場で橘の軽快な挨拶が彼らを迎えた。
「主に頼まれて来てみましたが……騎馬戦ですか」
 競技場に大きく張り出された新入生歓迎騎馬戦の文字が目に入る。
「久しぶりに呼び出されたんですが……こういう事ですか」
「恭司殿の母校で出し物をやっていると言われ来てみれば……参加するのか……まぁよい」
 三者三様の事を口にするが、知った事ではない。
「上の幟に書いてある通りだ。頼んだぜ」
 屈託なく橘は笑う。
「分かりました。上に乗るのは女性に任せましょう。あまり無茶はなさいませんように」
「ああ、六鬼は騎手をやってくれ」
「我は上に乗ればよいのか……暫し失礼するぞ」
「作戦はどうするのですか?」
「後ろに控えて蒼空が負けない様にフォローでもしてやれ。新入生が何しろ主役だ」
「主……また無茶な事を」
「後輩に目立つポジションを譲るというのは相変わらずですね」
「恭司殿の注文は余り目立たぬようにしつつ観戦すると」
 子竜がそっと手を挙げた。
「しかし彼らもぼさっとしている私たちを見逃してくれそうに無いですが?」
「向ってくる相手チームの騎馬は蹴り飛ばせ!」
 堂々と橘は3人に言い放つ。
「向ってくる相手チームの騎馬を蹴り飛ばせ……?男子校出身らしい荒っぽい方法ですね。男子諸君ならば構いませんが…女性は流石にしませんよ?」
「当たり前だ。女子は……そうだな足払いでいいんじゃないか?」
「まぁこれも競g……競技ですよねこれ?なら違法ではないのですか?」
 ミハエルが反則ではないかと心配する。
「学校によってルールが違うんだよ。今回は蹴りはアリだ!」
 面倒臭そうに橘がルールを説明する。
「あ、学校によって違う……そうですか。では遠慮無く全力でやらせて頂きましょう」

 「やってくれたわね、山葉涼司」
 蒼空学園側から先制攻撃を受け、悔しそうな顔を藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は滲ませる。エリスの視線の先には足並みを乱され浮き足立つイルンスミール側の騎馬があった。
「ここで巻き返して見せるわ、山葉涼司」
「流石にやられっ放しでは、面白くありませんから。こちらも討って出ましょう」
 背後のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がエリスに同意する。ここで断る理由など何もない。一気に形勢を逆転したい所だ。
「当然よ!良いわね、アスカ!」
「了解だよ♪」
 近くの蒼空学園側の騎馬を睨みつける。
「あいつから、行くわよ」
 目標に向けて真っ直ぐに走り出す。前方のの騎馬はかなり体格が良い。
「ふん、身体が幾らでかくてもあたしには無意味よ」
 スッと口を開くと『子守歌』を歌う。エリスから発せられる優しいメロディーが目前の巨漢を騎手ごと地に沈める。
「グーメル!やっちゃいなさい」
「お任せを」
 眠り耽る騎手からグーメルが、楽々鉢巻を奪い取る。反撃を感じる事無く、伸ばした手が鉢巻を掬っていた。
「おっとここで意外なチームが出てきたぞ。イルンスミールの藤林 エリスチームだ。蒼空学園の巨漢を一瞬で沈めたぞ!ここからイルンスミールの反撃が始まるのか?」
「当たり前よ。誰のチームだと思っているの。遠慮なく鉢巻は頂きますわ」
「何事も為せば成るものです」
 「次は私の番だよね」
 エリス達の周囲に集まろうとした2組の騎馬をアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)の『アシッドミスト』が飲み込む。
「何?急に見えなく――」
「っ、何のスキルだ?」
 『アシッドミスト』の濃霧が騎馬の目を容赦なく奪う。
「今だよ、グーメルちゃん」
「エリスさん。御願いします」
 グーメルの指示でエリスは左右に動きながら、2組の騎馬から鉢巻を奪うために動く。
「一気に真っ直ぐ抜けて下さい」
 瞬間に出来た2組の騎馬の隙間を抜けて、両手で2つの鉢巻を抜き取る。
「良い動きです。エリスさん」
 「もう、御神楽ツァンダ競技場だなんて悪趣味な名前ね!聞いただけでも吐き気がするわ!文字通り金の亡者となった御神楽環菜の遺志を受け継ぐ蒼空学園の山葉涼司は悪しき資本主義に学生達を洗脳せんとする民衆の敵よ!別にメガネのキモイ女装なんか見たくも無いけど、この機に奴を断固叩き潰して辱めを与えてやるわ!」
「エリスちゃん、そんな事言ってたら誰も組んでくれないよ?」
 来て早々不満を爆発させるエリスをアスカが宥めていた。
「あれ、あそこまだ騎馬チームが出来てないみたいですね」
 観客のつもりで来ていたグーメルだったが、エリスの様子を見て声を掛けてきた。
「え、良いの?」
 可憐そうな顔でグーメルの手を取るが、内心のエリスはガッツポーズをしていた。
「まあ、本当は直接参加するつもりでは無かったのですが、イルミンの生徒が明らかに少ないですからね……」
「じゃ、早速組み方を決めましょう」
「ええ、お手柔らかに」
 エリスのコロコロ変わる表情に苦笑しながら、グーメルはエリス達と相談を始めた。
 「イルンスミールにも猛者が居たようだ!果たしてどちらに勝敗が傾くのか、分からないぞ」

 「もっとゆっくりと攻めませんか?」
 マルティノッジ・フィリア(まるてぃのっじ・ふぃりあ)がのんびりとした口調でミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)に懇願する。どうやら久しぶりの運動で疲れている様だった。肩で少し息をしているのが、ミーナにも分かった。
「そうだね、少し休むんだよ」
 この騎馬は少し離れた位置から全体の様子を窺っていた。先程、ミーナ達の可愛らしい外見に油断した蒼空学園の騎馬から鉢巻を一つ手に入れたばかりだ。幸いな事に回りに蒼空学園の騎馬は居なかった。

 橘の背中に身を預けているのは杜守 三月(ともり・みつき)だ。激しく動く騎馬の挙動に振り落とされない様に機敏にバランスを取り直す。
「行けるな、三月。さっきの奴らの敵討ちだ」
「ハイ!」
 三月の元気な返事を聞くと、氷室 カイ(ひむろ・かい)が『奈落の鉄鎖』を解き放つ。
「絡み取れ!」
 鎖の様に絡みつく重力がミーナ達の足元の動きを遅くさせる。足場の悪い場所を歩くような足の重み、ミーナの移動を遮っていた。
「何、動きが……重いんだよ!」
「ど、どうしたんです?」
 騎手には感じない攻撃にフィリアが慌てる。
「鉢巻頂きです」
 三月が利き手を伸ばし、フィリアに接近する。
「っ、氷術!」
 機転を利かせ、イナ・インバース(いな・いんばーす)が『氷術』で迫る騎馬を狙う。
「あ?」
 放たれた、イナが距離を取る為に放った氷術が惹かれる様に雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に引き寄せられる。
「っ、キャ」
 突然の攻撃に雅羅は目を瞑る。
「え、何で?」
 放ったイナすら、驚いた表情をしていた。
「ちっ、行くぞ。手伝え」
「うわっ」
「おい!」
 橘が騎馬ごと引張り、雅羅の前へと飛び出て行く。
「ハッ!」
 気合一閃、回し蹴りを放つ。内から外へと美しい弧を描いて、氷を打ち砕いた。
「……大丈夫か?」
「ありがとうございます」
 隣に庇う様に立った橘に雅羅は礼を言った。
「気にするな。それよりどうなってる?」
「いや、俺にも分からない。それと今のは助かった。ありがとな」
 「桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が盾になった橘に頭を下げる。
「な、何じゃッたんじゃ?」
 来る筈のない攻撃に織田 信長(おだ・のぶなが)も内心冷やりとしたようだ。
「さっきまでは何も無かったのにな」
「わたしの疫病神(カラミティ)の影響だと思います……」
 雅羅は唐突に言った。
 「なぜ、誰も私の馬にならないのじゃー!」
 蒼空学園側の会場に信長の声が遠くまで響く。
「そりゃ、信長は恐ろしいと史実にもあるから新入生は怖がって誰も騎馬になりたくないんじゃないかな?」
 肩を竦めて忍は笑う。
「忍よ、私のどこが怖ろしいというのだ?」
 ギラリと目を光らせ、忍を睨む。
(そこがね……)
「俺達は先輩だから新入生のサポートをするのが目的だから、余り張り切りすぎないようにな」
 キョロキョロと辺りを見回して、信長は手の空いていそうな新入生を引っ掴むと強制的に連れてきた。
「私の名は織田 信長じゃ。騎馬を頼んだぞ」
「信長の騎馬は大変だと思うけどよろしく、俺の名前は桜葉 忍。君の名前は?」
「雅羅・サンダース三世です」
 「何じゃそれは?」
「私は災難を引き寄せる体質なのです。タイミングは分かりません、突然それは発現します。だから、あの様な……」
 忍達の視線から反らす様に足元に雅羅は目を落とす。
「何じゃ、そんな事か」
「戦場で流れ弾なんて、どこでもあるからな」
「うむ」
「え?」
 信長達の言葉に雅羅は驚いた顔を見せる。忍達はあれ程度は気にもしていない様だった。
「そんな事でくよくよするでない。あの程度、我らには全く関係の無い事じゃ」
「そういう事だな。だからもっと楽しんだら良いさ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、信長はちょっとビビッてたよな」
「う、うるさいぞ。忍」
 クスリと3人で笑った。

 「みんな、チーム・シンデレラに注目だ。新入生だけのチームだが、中々の活躍をみせているぞ」
「火術、火術、火術」
 アッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)の放つファイアーボールが相対する蒼空学園の騎馬に乱れ飛ぶ。
「くっそ、バカスカ撃ちやがって」
 苦々しく吐き捨てるが、それしか出来ない。対処出来ない量のファイアーボールで徐々に身動きが取れなくなっていく。
「ヤエ、あいつも奪い取るぜ」
 グロッグは火術を撃ち続けながら、騎馬へと真っ直ぐ突っ込んで行く。
「これも頑張る!」
 勢い良く走るグロッグにしがみ付く七瀬 八重子(ななせ・やえこ)は騎手だけを見ていた。
「アッシュさん、フォローを御願いします」
 後ろを担当するアッシュ・トゥー・アッシュ(あっしゅ・とぅーあっしゅ)は力強く宣言する。
「今回も不沈艦の如く耐え凌いでみせましょう!」
「くそっ」
 騎馬の苦し紛れの蹴り、『歴戦の防御術』を用いてアッシュは耐える。
「鉢巻貰っちゃいます」
 騎馬の身動きが完全に取れなくなった所で、騎手から鉢巻を取り上げる。
「おっし、次の相手を探そうぜ」
「おー」
 グロッグのガンガン行こうぜの作戦に八重子は勢い良く手を挙げた。
「お任せします」
 アッシュはあくまで落ち着いて、グロッグと八重子を見守る。
「あいつらと勝負しようぜ」
 グロッグの目は、蒼空学園の三月、カイ、橘達の騎馬に注がれていた。
「いくぜ!火術、火術」
 火球の弾幕を張り、三月達にグロッグは放つ。
「く、何処に行くんだ?」
「おい、来たぞ。忍」
「流石に来るのが分かれば、問題ない」
 雅羅に惹かれて飛来した火球の弾幕に『歴戦の武術』を纏い、蹴りを放ち続ける。速射砲の様相を見せる忍の蹴りは、ファイアーボールを確実に撃ち落す。
「残念だったね。グロッグ君」
 グロッグ達の前には三月達の騎馬が悠然と立っていた。
「悪いが、火術は役に立たないぜ」
「くっ」
 グロッグは舌打ちした。得意の火術は同じ新入生の雅羅に吸い寄せられてしまう。
「別の戦い方を見せてやる。絡み取れ」
 カイの『奈落の鉄鎖』がグロッグとアッシュの足に、八重子の腕に重量を与える。
「動き辛え」
「むぅ」
 騎馬の素早く動く足が遅くなる。なりより、騎手の手の反応が遅くなる。
「腕が重いよぅ」
「また、戦いましょう」
 三月の手が八重子の鉢巻を掴み、するりと取り上げた。