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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 
 誰が海に行こうと言い出したのか。
「夏といえば! そりゃあ海だろ! 夏に海に来なくてどうする! てなわけで海だ! 泳ぐぜ! 遊ぶぜぇぇぇ!」
 明るい緑色の迷彩柄サーフパンツをはいた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、海に来た途端にテンション高く元気良く叫んだ。
 まあ康之がノリノリだったということもあるが、やはりやたら自信のある宣伝文句に惹かれたしみんなで出かけて楽しもう、と匿名 某(とくな・なにがし)は海にやってきた。今日は青の、普通の水着である。『どこで買ったの?』と聞かれたら『どこででも売ってる』と答えて差し支えないくらいふっつーな水着である。
「……どんな立場だろうと、名前からして無個性な俺よりはいいだろ」
 2軍経営の海の家を振り返ってそんなことを呟くがそれはさておき。
「せっかく海に来たんだからあれをやらなきゃな」
「あれ?」
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が首を傾げる。何とも思わせぶりな台詞である。彼女は、ピンクのチェック柄のビキニ水着を着ていた。
「あれって何だ? 無個性野郎」
(無個性野郎……)
 先程自分でも似たようなことを言ったわけだが、某は何だかがっくりときた。バックに少々縦線を背負いながら、綾耶と黒ビキニのフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が見る中で、比較的波打ち際に近い場所に敷物を敷いて荷物を置く。パラソルをセットする頃には、綾耶はフェイと一緒に海を眺め、浜の雰囲気を楽しんでいた。
「夏の海は、やっぱり普段感じてる日差しや風も、どこか気持ちのいいものを感じますねぇ〜」
 夏独特の風に潮の匂いが混じり、それをめいっぱい吸い込んで、吐いて。
「よ〜し、それじゃあ、せっかくの海開きをいっぱい楽しみましょう!」
 くるりと某の方を向いて言う。花開くような笑顔だったが、パラソルを設置し終えた某がその下に座ってしまうのを見てびっくりした。
「海の定番完成だ」
『あれ』とはこの『海の定番』を作ることだったらしい。
「じゃあ、俺はここで荷物番してるから、みんな楽しんでくるといい」
「! ! !」
 びっくりの次に、ぷくっ、と小さな頬をふくらませる。
「某さんはなんでさっそく日陰に入っちゃうんですかぁ! せっかく海に来たんですから遊びましょうよ〜」
 こちらに来てシートに両手をついて言う綾耶。……あまりの可愛さに、某はたじろいだ。
「……冗談だ。だからそんな上目遣いで見上げないでくれ綾耶」
 そうして、座ったまま彼女達に言う。
「ともあれみんなで思いつく限りの遊びをやって、ひと夏の思い出を楽しいものにできるようにしよう」
「遊ぶ気になってくれたんですね! よかったです」
「……あっ、日焼け止め塗りとかなんてやらねえよ?」
「日焼け止めですか? 大丈夫です、私、自分で塗りますから!」
 綾耶は普通に応対した。その言葉の意味や、少々慌て気味な理由にも気付いていないらしい。実に健全である。
(海、か……)
 フェイは、嬉しそうな綾耶の顔と、どこまでも広がってそうに見える海を見比べた。何故、こんな塩水のたまり場みたいなのが人気なのかさっぱり分からない。けど、綾耶が喜んでいるならすごくいいところなんだろうとも思う。
「しかし、どう遊べというのか……前テレビで見た『漂着ごっこ』をやればいいのか?」
「よぉし、じゃあ某! 早速向こう岸まで競争しようぜ!」
「……カナンまで行く気か?」
 やる気を漲らせて言う康之に、某はやる気ゼロ%でツッコミを入れる。だが、康之にそのツッコミは通じなかった。
「えっ? どうせだったらエリュシオンを目指そうぜ!」
「…………」
 最早言葉も無い。
「ってのはちょっと冗談だけどよ」
 ちょっとなのか。ちょっと以外は本気なのか。
「せっかくの海なんだから涼むだけじゃもったいねえだろ? まあこれがだめでもまだまだやれることはあるからな! じっくり探して遊べばいいか!」
「そうですよ。例えば、定番のスイカ割とかいいですよね」
「スイカ割は外せねぇな! よし! ちょっくら全力でスイカ買ってくるぜ!」
 綾耶の提案に、康之は2軍海の家に走っていった。スイカを買う工程のどこに全力を出すつもりかは知らないが、とりあえず足は速かった。

 そして、冷え冷えのまるごとスイカが準備された。
「棒代わりにトライアンフ使おうぜ! まず誰がやる?」
「あ、えー、えっと……」
 大剣を軽々と持って言う康之に綾耶が困った顔になった。某がその思いを代弁する。
「お前以外の誰が持てるんだよその剣は。却下だ却下!」
「お? ……確かに!」
「……おかしな事をほざくなこの能天気野郎」
 物騒な音と共にフェイが曙光銃エルドリッジを二丁構え、制裁しとこうと康之を狙う。
「おっとでかっ子! そんな物騒なのこっちに向けるなよ! 危ないから! ……うぉ!!」
 無視された。光の弾が一気に迫り、康之は間一髪で避ける。海に来てほぼ初めてまともな事言ったのに。
「……スイカ割り……綾耶、これは棒でスイカを割ればいいのか?」
 曙光銃エルドリッジを仕舞ったフェイが、何事も無かったように綾耶に言う。彼女に海の遊び方を教えてもらおう、と考えたのだ。綾耶と自然と一緒にいられて楽しい思いが出来る。まさに一石二鳥というものだ。
 どうせなら綾耶と2人で遊びたいが、綾耶は満足しないだろうから我慢である。曙光銃での制裁も失敗したし。綾耶にひっつく無個性野郎にはクロスファイアでちょっとした死を……迎えさせたかったが綾耶が怒るからやめた。代わりに海にさらわれてろ。
「うん、そうだよ。普通の木の棒で、えーいって」
「……どこが楽しいんだ?」
 普通に食せばいいと思うのだが。
「あ、ただ叩くんじゃなくてね、棒を持つ人は目隠しするんだよ。見えないからふらふらしちゃうし、それで、周りの人が左ー、とか右ー、とか言って位置を教えるんだよ」
 綾耶に指示されながら叩くならアリかもしれない。……いや、それでは髪が見えない。やっぱり、自分は指示する側だ。
「海の楽しみ方っていろいろあるんだよ。……えっと、だから漂着ごっこなんてしちゃだめだよ?」
 海の楽しみをよくわかっていないフェイに色々と教えてあげよう、と綾耶は言った。海に来たのに楽しみがわからないっていうのも寂しいし。
 そうして、教わる側と教える側、思いの一致した彼女達を中心に、4人はスイカ割りに興じ始めた。
 だが、それから間もなく。
 ざっぱー……ん……! と、一際大きな波がやってきて――
「某さんーーーー!?」
 某は華麗に海に流されていった。邪魔者が1人減ってフェイとしては好都合である。

「ん? 誰か溺れておるな……まぁ助けられん事もないが……」
 シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)は、のんびりと魚を食い漁っていたところで流され真っ最中の某を見つけた。触龍の姿で近付いていく。
 救助方法がトラウマしか生みそうにないので、あまり気は進まないのだが。
「……怨むでないぞ?」
 手記は触龍でがばあっと某を丸呑みした。そのまま陸地に行く。
「スイカを棒で割って食べる……形は歪だが、こういうのもいいものだな」
「だろ!? 今度はビーチバレーでもやるか!?」
「…………」
「……某さん、大丈夫でしょうか……きゃっ!?」
 ざばあ……
 フェイが康之を華麗に無視し、綾耶がおろおろとしている所に触龍が上陸してくる。触龍は、丸呑みした某をぺっ、と、吐き出した。
「「「「…………」」」」
 吐き出された本人を含む4人は言葉を失い――
「溺れていたから届けに来たぞ。ここで良いのじゃろう?」
 と、手記は言った。