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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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【2章】

「皆、足元は私が照らすから、油断しないように気を付けてくれよ」
 永倉 八重(ながくら・やえ)は大太刀の紅嵐を赤く燃え上がらせたように光らせ、洞窟の中を照らし皆に注意を促す。
まるで大きな蝋燭の火でも掲げているようだ。

 八塚 くらら(やつか・くらら)は恐る恐る、岩場を飛び越えながら行こうとすると、途中でバランスを崩してこけてしまう。
「あわわっ……っ! ま、まともな道は無いんですの?」
パートナーの緋田 琥太郎(あけだ・こたろう)はくららの手を引き助け起こすと、心配そうに怪我はないか確認する。
「大丈夫か? くらら」
「ええ、大丈夫ですわ。八重の明かりがあるだけ助かりますわ」
「びっくりしたー。でも無事ならいいや。ホント足場悪いからなぁ、くらら、琥太郎にしっかりつかまっていれば大丈夫だよ」
 そう言われずとも、くららはぎゅうっと琥太郎の服の裾をつかんでいる。
「もう少し明かりの範囲を広げられるか?」
 琥太郎は八重に頼む。「承知!」とすぐに紅嵐で更に広範囲を照らした。
「これで大丈夫かなー」
「……でもなさそうだ」
 琥太郎が指さした先、石ころが転がるような音がしたと思ったら、小さいモンスターが数匹にやりと笑みを浮かべているのが見える。明かりに気づいてやってきたようだ。
「くらら! 下がって……」
 琥太郎が言う前に、くららは「こっち来ないで下さいましーっ!!」と必死にアルティマ・トゥーレと轟雷閃を発射させる。ほぼ闇雲に発射しているため、八重と琥太郎の方が危ない気もする。
「待って待って! 雑魚だから大丈夫!」
「俺たちにも当たっちまうだろっ」
 八重は紅嵐で軽く雑魚モンスターを殴った。琥太郎も思いっきり大きめの石を蹴っ飛ばして当てる。それだけで気絶してしまったようだ。
「だって明かりを向けたとたん暗がりからこっち来て怖かったんですもの」
「俺がいるんだから、雑魚ぐらい俺に任せとけって」
 寄ってきたモンスターを排除すると、よしよし、と琥太郎はくららを撫でて落ち着かせる。
 ここはいつ崩れるかわからない洞窟だ。むやみに技を発射して崩れやすいところに当たるかもしれない。
 モンスターか人攫いなら攻撃して当たれば良いが、もし救出すべき子供や味方に当たってしまったら本末転倒だ。
 可愛らしいくららが子供と一緒に狙われそう、と思った八重と琥太郎だったが、その点は心配ないだろう。
「あー……、仲良しさんで羨ましいわ。それじゃ進むよ!」
 注意すべきことを3人で確認すると、更に洞窟の奥へと進んで行った。



「おい! 待てガキども!」
「大人しく捕まりやがれぇっ」
 人身売買を目論む人攫いたちは、下品な笑いを浮かべながら逃げ惑う子供たちを追う。
「はやく、はやく走れっ」
「でも……っもう足ダメだよぉ」
 今にも追いつかれそうな子供たちは、半べそをかいて走っていた。

「みと! もしかしてあれでは?」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は青音のする方へ耳を傾け、明かりをそちらの方に向けた。パートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)が振り返ると、手をつないで走る子供二人を発見した。男の子と女の子だ。
「洋さま、あの子たちを保護しますわ!」
 追ってくる人攫いは二人。2対2で追いかけ回しているようだ。だが、洋とみとがそうはさせない。

「貴様らはそこまでだ。この子たちは渡さない」
 洋が人攫いたちに銃口を向けると、足を止めた子供たちは怯えて身震いした。
 大丈夫よ、とみとが子供たちの前に立つ。

「子供の誘拐行為は地球でも問題でな。臓器移植に性的欲求のはけ口、さらには内戦で激戦区では少年兵として使う例もある。さらに言えばこっちは魔術という概念がある。こう言ってはイルミンスールには悪いがキメラの材料に使う危険性もある。犯罪者は撃破すべきだ」
 洋の怖いご説明に子供たちはちびりそうだ。よくわかっていないようだが、物凄く恐ろしいことだというのは子供ながら察している。
「おう、兄ちゃんわかってんじゃねーか」
「優秀な軍人さんはお勉強がよく足りてんだな!」

「洋さま、あまり子供たちを怖がらせないで。怯えてますわ」
「……! そうか。気付かなかった」
「洞窟の誘導をお願いしますね」
 みとはトナカイを召喚し、子供を抱き上げて乗せててやる。ちゃんとトナカイに捕まっていることを確認するとすぐに走り出した。
 洋と自分用にもトナカイを召喚し、子供を乗せたトナカイを洋が誘導して走る。
 トナカイごと奪おうとして人攫いたちは鋭利な刃を向けて襲ってきた。
 洋は足元を銃で狙うが、意外にすばしこくよけてくる。
「チッ 何故当たらないっ」
 バンッバンッと銃弾の音が洞窟内に響く。子供の方は怯えきっていて、トナカイに捕まっているのがやっとの状態だ。
「こうなったら……っえいっ!」
 みとは人攫いに向かって雷術をぶっぱなした。……が、明後日の方向でバチバチと音が鳴っただけだ。
「どこに外してるんだ!」
「洋さまも同じですわっ」
 お互い他人の事を言えない。トナカイで移動しながら攻撃するのも至難の技だ。
「一先ず逃げ切る事を優先だ、私に続け!」
 雑魚級だと侮っていた人攫いたちはなかなかしぶとい。
 追いつかれるよりも早く子供を安全なところへ脱出させてあげることにした。



「助けてええっ」
「静かにしろ! 見つかるだろう!」
 人攫いは泣きわめく子供を捕獲すると、刃物を向けて強引に泣きやませようとする。
 ひっくひっくと子供の嗚咽が止まらず、洞窟内に響いた。

「もう泣かないで! このもう大丈夫よ、この美少女ビキニ戦士セレンが来たからにはっ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は子供の泣き声を頼りに、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と共にやってきた。
「こっちはあたしのパートナーの……」
「台詞を言う暇があるなら手動かす!」
 セレアナは台詞を遮ってセレンフィリティより先に前に乗り出す。

「自分で言うねぇちゃんもなんだが、ビキニも結構可愛いじゃねーか。一緒に来てもらおうか?」
 人攫いのにやにや顔が気持ち悪い。
「そう言われると照れる〜っ!」
 可愛いと言われてセレンフィリティはまんざらでも無いらしい。
「おっさんと話してる場合じゃないでしょ。誘惑目的でそんな格好してるわけ?」
「なによ! そっちはハイレグレオタード戦士じゃない!」
 世の中にはお色気で気を散らせて犯罪を目論む者もいるぐらいだ。お色気で敵を負かそうとする正義の見方がいてもおかしくはない。
 キモイおっさんに言われても嬉しくないわよーっ等と言い合いをしているうちに、人攫いはこの隙にと子供を抱えたまま走り出した。

「はっ! 待て! くだらない言い合いで逃がすなんて……!!」
「嘘、逃げられたぁ?」
 我に返った二人は、見失わないように人攫いを追って行く。子供を救出しなければ。
 足の長いのが得したのか、人攫いに近づくと小石が飛んで来る。人攫いは服の懐に小石を忍ばせていたらしい。
 セレアナはもうちょっとマシな対抗の仕方はないのかと呆れつつ、ランスバレストで人攫いを攻撃する。
「まどろっこしい……、閑念しなさい!」
「ぐはぁっっ!」
 見事命中し、抱えていた子供が手離される。
 真下には岩がありこのままではぶつかってしまう――。
 その寸前、セレンフィリティは岩に向かって銃を打ち、高さを低くして落ちる子供をみごとキャッチ。
 人攫いは無様に倒れ込んだ。
「ヒヤヒヤしたわ。子供に当たってたら……」
 ため息を付いて咎めるセレアナに、セレンフィリティはブイサインを指で作って向ける。
「大丈夫大丈夫。そうなら撃ってないわ」
「……そうね。壊し屋セレンもよくやるわ」
「美少女戦士セレンって呼んでよねー」
 無事子供を救出。人攫いを倒して二人はハイタッチをした。

「もう大丈夫よ。こいつはもうしばらく動けないでしょう」
 セレアナは気絶した人攫いを縛り上げると、そのへんに転がした。
 子供は安心したように、セレンフィリティの胸元で泣きじゃくる。
「泣かない泣かない。男の子でしょ。おうちへ帰るまでが脱出なんだからね!」
「えっ……、この子男の子だったの……」
 可愛い容姿の子だったのでセレアナは男女見分けがつかなかった。
 セレンフィリティの胸元に顔をうずめるその子はまんざらでもないらしい。



リネン・エルフト(りねん・えるふと)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は怪しげな集団を見つけて尾行していた。子供たちを攫うなどの会話が聞こえてきて、噂の人攫いだと確信する。
 岩陰に隠れてじっと観察する。まだ子供を捕らえた様子は無いから、まだ犯行前のようだ。
「やっぱり……! フェイミィ、ここで捕まえて被害を止めるわよ」
「がってん承知! オレたちの番だぜ!」

「誰だ!」
「礼のガキかぁ? それにしても成長しすぎだな」
 フェイミィの張り切った声に、人攫いたちに気付かれてしまった。うかつだ。
「やっべー、見つかっちまった」
「やべー、じゃないわよっ」
「ふふっ見つかってしまったからには仕方ない……! 『シャーウッドの森』空賊団、参上!」
 本当は格好よく決め台詞を言いたかったフェイミィだが、少しタイミングがズレた。
 リネンは指さして人攫いたちに忠告してやる。
「今なら未遂で許してあげる。さっさとこの洞窟から出て言ってよね!」

「羽の生えたお嬢さんってのも良いじゃないか。こっち来て触らせてくれよ」
 リネンの言うことは聞いていないのか、人攫いたちは翼に触れようとしてくる。なんか手つきがいやらしい。
「おっさんわかってるなぁ、オレたちの言うこと聞いたらリネンの触りほうだい……っ」
「冗談言わない! エロ鴉はこりないんだから」
 当然、空賊団の誇りとして手安く触らせなんかしない。



 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)は最近洞窟内で悪事を働いている連中がいると聞きつけ、内部までやってきた。
「なによー……、いないじゃない」
 その標的はしばらく歩いてもみつからず、イリスは肩を落とす。
「大丈夫だって! そのうちひょっこり現れるかも!」
 諦めない、諦めない、とクラウンは陽気に返す。
「それに、他の皆がもう倒した後だったら僕はそれでいいと思うけどー?」
「ダメよ! それじゃ私の腹の虫がおさまらないわ」
 イリスは拳をぎゅっと握る。人攫いなどしている奴らの気が知れない! と許せないでいるのだ。
 それも自分の手で叩き潰さないと気が済まない。
「……! イリス、ちょっとこっち」
 クラウンは小声で手招きしてイリスを岩陰に呼ぶ。「あっち見て」と指さした先には若い青年が一人きょろきょろと見回すように歩いていた。
「……ああ、私たちみたいに人攫い捜索かしら」
「ううん、そうじゃないっぽいかなぁ」
 自分たちと同じように、若者が人攫いを捕まえにきたりしているのは知っている。彼もその一人なのだろうとイリスは思った。
「よーく見てよ、雰囲気も知っている学校のみんなとは違う。あいつの目ちょっとジャンキーっぽい。人攫いだね、僕にはわかるよ〜」
「と言われましても……、暗がりでよく見えないわ」
 一見、自分たちと同じような若者。他校生徒など知らない人はたくさんいる。
 道化師の言う事は不思議だ。観客の心を読むようにつかむことに慣れているのか、人間観察はお手の物のようだ。
「じゃああいつはやっつけていいのね?」
 イリスは目を輝かせてクラウンに問う。身に付けている黒き月のアミュレットもなんだか光っているように見えた。
「そういうこと!」



「あっちの方から人の気配が……!」
人攫い退治のために来たコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は洞窟を探索中、何かが破壊される音や「待て!」「閑念しろ」などの声をかすかに聞き取って、そちらのほうに振り向いた。
 同じように救出や退治目的で来ている者はいるだろうが、何かが破壊される音が気がかりで胸騒ぎがする。
「あっちは凄いことになってそうね」
パートナーの ラブ・リトル(らぶ・りとる)も耳を済ました。