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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

リアクション

 雅羅が落ち着いたのちに、皆はその場で状況を確認した。雅羅は落ち着いたかと思うと、過去の自分の行動を理解したのか、顔を赤らめて廊下の隅でうずくまっている。心なしかそこだけ空気が重たく感じられた。
 佑也と由乃羽、そして後から合流した杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)清泉 北都(いずみ・ほくと)、そしてリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)たちは床に散らばっている壺の破片にどう反応していいのか困りながら、次の行動を考えていた。
「えっと……まず私たちがやらなければいけないのは封印のための器を用意するということでよろしいですか?」
 柚の提案に首を横に振る人は居ない。しかし問題はここからである。柚もそれを重々理解しているようで、腕を組むと深い息とともに唸った。
「問題はどうやってそれを用意するかということですね」
「あら?それなら簡単だわ」
 由乃羽は自らの腰につけてあった賽銭箱を鼻歌交じりに外すとみんなの前に差し出した。
「はい。これで用意できたわ」
「これって……」
 期待はずれな佑也の目を無視して由乃羽は続ける。
「この賽銭箱を使えばいいじゃない?あたしの物ではあるけれど、スペアもあるから快く譲ってあげる」
「でもその容器密閉されてないよ。そんなので大丈夫なの?」
 柚の隣に立っていた三月が素朴な疑問を漏らした。
 皆の視線が雅羅に集中すると、彼女は小さく悲鳴を漏らして、賽銭箱をおずおずと眺める。由乃羽が軽くそれを揺らしてアピールして、隣に立つのにも関わらず何も聞こえないことに気づいた佑也は中に何も入っていないことを感づいた。
 空っぽだからやすやすをそれを差し出したのか。佑也は誰にも気づかれないように納得する。
「やっぱ駄目かしら?」
「穴が開いているのは……あまり適さないと思う。運んでいるときに幽霊が漏れたりするなんて考えると……」
「そう?じゃあやめておきましょう」
 由乃羽は元の位置に賽銭箱をぶら下げるとお手上げといった様子で笑った。また振出しに戻ったわけだが、その中で北都は散らばった壺の破片を手に取る。
「ねぇ。これ直さない?」
 器が見つからないのなら、元の器を利用すればいい。破片を見せる北都の提案は発想の転換のようなものだった。
「破片ならこのあたりに全部残っているわけだし、時間はかかるけれど直せると思うんだ。大丈夫。こういうの楽しそうだし」
「けどな……その時間がかかるというのがちょっと難点かもしれないな」
 佑也がそれを指摘すると北都もその問題点を分かっていたようだ。器ができるまでは封印が進まないことになる。つまり幽霊を好き勝手させる時間が多くなることを意味し、その分被害も広がってしまうかもしれない。
 壺の修復は確実だが、長い時間を必要とするのがネックなのだろう。器の捜索と、壺の修復。どちらの手段を選んでも一長一短である。どちらを選ぶべきか決断に窮し、気まずい沈黙が流れるだけだった。
「やはりここは人数が多いようだし、作業を分担して考えてみますか?」
 最初に沈黙を破ったのは柚だった。静かな柚の言い回しは妙な説得力があり、この場にいた皆は異を唱えることはしなかった。それに柚の提案が一番建設的であることはその場の皆が一致したことだった。
「なら俺と由乃羽は容器を探す手伝いをするよ。由乃羽?何やっているんだ?」
「魔除け代わりになるものをあげているの。見返りはご奉納で大丈夫よ」
 気づけば由乃羽は雅羅の額に浄化の札を張り付けていた。雅羅の真っ青な顔を合わせて、その札が額に張り付けられると、なんとなく中国の妖怪を連想させてしまう。由乃羽は満足気味に頷くと、佑也にも同じ反応を求めた。
「満足したか?」
「えぇ」
 そして由乃羽と佑也は一旦この場を後にした。その間北都とリオンはあたりに散らばる壺の破片を集めていた。大小の破片合わせてかなりの数が並べられたが、北都は臆面を微塵にも感じさせず、それらを前にして座る。
「それじゃあ僕は破片をつなぎ合わせてみるね。リオンも手伝ってくれない?」
「勿論です」
 リオンは北都の隣に座ると、早速一つ一つの破片を調べ始めた。先ほどは破片の数のために、修復に時間がかかると感じさせたが、この二人の前ではそのような作業も不思議と安心感が感じられた。
「では私と三月ちゃんは代わりの容器となるものを探しに行きます。三月ちゃん。ついてきてください」
「分かったよ」
 柚と三月は雅羅に優しく声をかけると破片を両手に持つ北都の後姿を見て言った。
「それじゃあよろしく頼むね」
「こちらのほうは任せてください」
 北都とリオンの言葉に押され、柚と三月は走り出す。肌に触れるぞわりとした感覚に眉をしかめながら、向かう場所にあれこれを思案を巡らせる。自然的な冷気とは違う、少し質の違うそれに柚はすぅっと目を細めていた。
「風邪引きそうです…」
「寒いっ」
 二人の足音が廊下で幾重にも反芻し続けていた。





 パズルのようなものではあるが、このような立体パズルは平面と比べて難易度が累乗的にあがるものだった。客観的に見ても、これは難易度の高い作業になる。
 北都はそう感じていたが、リオンが的確に破片を調べ、彼をサポートしてくれているせいで、予想以上に作業がはかどっていた。
「北都。多分この破片をこの破片がくっつきそうですね。試してみますか?」
「うん。えっと……本当だ。よかったね。ありがとう」
 作業が一歩進んだことに安心し、柔和な笑みをこぼす北都につられ、リオンも同じように笑う。二人の醸し出す雰囲気が、周囲を柔らかいものにさせていた。
「それじゃあ次はここの部分にはまりそうな破片を探してくれない?」
「分かりました」
 北都の頼みをリオンは快諾し、そして破片の中を探す。リオンの双眸が破片を映し続けているうちに、北都は彼にある変化があるのに気づいた。ほんのわずかだが、彼の視線が堅いものへと変化しているのである。
「どうしたの?」
「変ですね?そこの部分にある破片がここにはないようです」
 リオンの疑問に、北都は瞬時にいろいろと可能性を模索した。リオンも自分に間違いがないことに気づくと、彼にならう。そして二人とも同じ可能性へと到達する。
「やっぱり破片が足りないのかな?」
「そうかもしれませんが……」
 リオンは左右を見回して、北都の推察が正しいことを確かめようとしたが、声をすぼませてしまった。廊下は見晴らしがよく、死角などもほとんど存在しない。近くに見つけていない破片があるとは考えにくい。
 壺がばらばらになったのはこの場所であるから、遠い場所へ破片が落ちているという可能性もないだろう。しかし現に足りない破片があるかもしれないのだ。
 北都は逡巡を繰り返していた。修復作業にばかり気を取られて、破片が足りない場合を一片も考慮に入れていなかったこと。彼は気まずくリオンを見つめるしかなかったのだろう。
 彼らの間に存在した朗らかな空気は遠くへと霧散してしまい、どこかから漂ってきた冷気のようなものが、徐々に浸食を進めていた。
「北都。待ってください。あれをご覧になってください」
 そのとき、リオンは廊下のはるか向こうに一つの気配を感じていた。北都も同じ存在を感じて、そしてその次に自分の目を疑った。
 廊下の先で、何かが浮いていたからだ。それは他に何もないが、何もないがゆえに不思議な光景だった。二人の視線を集めるには十分すぎるものだったのである。
 遠くて細かく確認はできないが、あれが探している壺の破片であることはなんとなく察しがついた。そしてなぜ浮いているのかとか、なぜあんな遠くにあるのかということも、だんだんと想像ができるようになっていた。
「ちょっとここで待っててくれない。僕が行ってくる」
「私もついていきましょうか?」
 リオンの伸ばした手に、北都は首を横に振って応じた。
「壺を壊されると大変だから見ててくれない?」
「分かりました。油断しないでください」
 リオンがそういったのは、浮いている破片がその位置から動こうとしないからだろう。それはある意味北都たちに主張するようであるからだ。北都はそんなリオンの心配を受けとると、何も言わずに頷いてその破片へと走っていく。
 近づけば近づくほどにあの破片の異質さが際立ってくる。浮いているだけではなく、上下に微動しているからだ。まるで破片自体が生きているみたいだった。
 そしてその破片の周囲も目に見えて違いがある。
 北都は最初にそれが煙のようなものだと思った。しかし目の前に対峙して煙よりも動きが重たく、そして白いというのに気づく。最後に囁くような笑い声がその破片から聞こえてきた。北都がその声を耳にした瞬間に、辺りに立ち込めていた煙のようなものは、破片を中心として子供のような体格へと形とられていった。
 ところかしこから感じていたその雰囲気だったが、こうして目の前に現れるのは初めてだった。北都は破片を指差して、幽霊に話しかける。
「ごめん。それ返してくれないかな?大切なものなんだ」
嫌だよ。こレは僕の物だ
「でもそれがないと僕が困るんだ」
僕は困らなイよ
 予想していたことだが幽霊はこちらの要望を聞いてはくれなかった。北都はだからといってどうすればいいのか想像できなかった。実力行使で奪い上げるのは簡単だが、目の前の幽霊は無邪気なだけで悪霊の類ではないだろう。
 それを一方的に攻撃するのは抵抗があった。しかし幽霊を説得できることも自信がなかった。幽霊が人間に則した分別を持っているとは思えないからだ。北都が逡巡している間、幽霊は口元を歪ませて勝ち誇った笑みを浮かべている。
「ねぇ。その破片気に入っているの?」
 北都の疑問に幽霊はケラケラと笑う。
ウん
「そうなんだ」
 仕方がない。胸の中でつぶやくと北都は最後の手段に出ることにした。
「僕が代わりの物を見つけてくれたらそれと交換してくれる?それなんかよりもっといいものがあるんだ」
いイよ
 意外にも即答したことに北都は逆に怖くなったが、これがもともとの幽霊の狙いだったのかもしれないと考えると、すんなりと今の流れを受け止めてしまった。
「本当?約束だよ」
約束ダね
 ひとまずは安心であることを確かめ、北都は壺のところへ戻ることにした。幽霊がだんだんと顔を出し始めているという事実に、一抹の不安を抱きながら。