天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

突撃! パラミタの晩ごはん

リアクション公開中!

突撃! パラミタの晩ごはん

リアクション



12:00pm 蒼空学園 学食厨房

「こちらでしたか、神崎様」
 声を掛けられ、巨大な冷蔵室の奥で棚を覗き込んでいた神崎 荒神(かんざき・こうじん)は振り返った。
「ああ、新聞部の執事さんか。悪い、探させちまったか?」
「役目ですから、お気になさらず」
「……食材のストックを確認してたんだ。何を作るにしろ、ドラゴンに食わすんなら並の量じゃ足りないからな」
 この学園では唯一掲示板の記事に乗って来た荒神は、料理の腕と知識を見込まれ、雅羅から手に入れたレシピの解読と、伝説のメニューの再現を依頼されている。
 ちょっとした好奇心で申し出たようだが、それがドラゴンを歓待する料理と知って、俄然やる気が湧いて来たらしい。
「推察いたしますに……」
 つぶやいて、エーリヒは壁一面に設えられた棚を見上げる。
「緊急用の備蓄も使用する、ということですか」
「そういうこと」
 学生、職員全ての胃袋を満たすために、学園には常時大量の食材のストックがある。
 一週間程度なら流通がストップしても対応できるだけの通常の食材と、非常時に備えた穀類や芋類等の長期保存のきく備蓄食材。
 それをすべて有効利用しようという考えらしい。
「今は間違いなく、緊急時だろ」
 荒神は軽く肩をすくめて笑う。
 それから、手にしていたメモに目をやって、ちょっと顔をしかめる。
「問題は生鮮品だよな。野菜、フルーツ、それに肉や魚の類いは……レシピが集まらねぇと調達にも出られねえ」
「……ああ、失礼。その件のご報告に上がったのでした」
 エーリヒの手から数枚のプリントアウトを手渡され、荒神は目を輝かせた。
「おっ、やっと来たか!」
「とりあえず現在報告を受けている分ですが、ご参考になりますかどうか」
「うーむ……」
 ぱらぱらと紙をめくって、低く呻く。
「……満漢全席って、オイ……マジかよ、どうやって融合させるんだ一体」
「融合?」
 荒神は難しい顔で考え込む。
「例の封印レシピによると、各校から集めた「秘伝」を融合させる事で、伝説のメニューが完成するらしい」
「……それは、また漠然としたお話ですね」
「まったくだよ」
 困りきったようにため息をついて、頭を掻く。
 エーリヒはちょっと首を傾げて荒神手の資料に目をやる。
「それに、満漢全席ともなりますと調理も数日がかりになるのでは……」
「んー……いや、それは」
 荒神は目を閉じ、何か記憶を辿るように眉間を指で押さえた。
「以前、ふらっと中国奥地の村に立ち寄った時に見た事がある。本来一週間かかる仏跳墻を、数時間で仕上げる『気』の極意を」
「……はあ」
「あれを魔法で応用すれば、調理時間の短縮は可能だ」
 難しい顔で一人うなずいて、続ける。
「しかし問題は設備だな。メインの調理の他に下ごしらえにもコンロがいる。学食の厨房と調理実習室をフル稼働してもまるで足りん」
「……いかほど必要ですか」
「そうだな、80……いや、余裕を見て100台」
「承知しました、手配いたしましょう。……ところで神崎様、先程から気になっていたのですが」
 エーリヒはさらっと安請け合いをして、不意に話題を変えた
「ん?」
「お寒くはございませんか」
「……ああ、奇遇だな」
 荒神は心持ち青ざめた唇の端を歪めて、笑った。
「実は俺も今、それを聞きたいと思ってたんだ」



12:15pm 蒼空学園 コントロールルーム

「このクソ忙しい時に、何を寝ぼけた事を言ってやがる!」
 いきなり部屋中に山葉涼司の怒号が響き渡り、雅羅は手にしたインカムを取り落としそうになった。
「……あ? 責任? ……ん、まあ、それは確かに言ったが……いや、しかし常識で考えろ、常識で」
 一番それから縁遠いと思われる人物が「常識」を連呼している。
 相手がどれだけ「非常識」なのか、雅羅は少しわくわくしながら涼司の通話が済むのを待った。
「……くそっ、後で覚えてろよ」
 苦々しげに吐き捨てて、携帯を懐に戻して雅羅を振り返る。
「至急調理用の高火力コンロを100台、手配してくれ」
「……はい?」
 一瞬意味が飲み込めず、雅羅はおうむ返しに口にする。
「こんろひゃくだい?」
「そうだ、コンロ100台だ。リース会社、イベント会社、融通の利きそうな外食チェーン、どこでもいい。何でもいいからかき集めろ」
「……マジですか」
 思わず聞き返したが、涼司にものすごい顔で睨みつけられて、答えを待たずにコンソールに向き直る。
 電話帳を検索して、関係ありそうな番号をリストアップさせる。
「それから調理用具も一式。あとはそれを設置できる特設の厨房か……仕方ない、それは俺が手配する」
 背後ではやや冷静に涼司が指示を飛ばしている。
 そして、僅かに間があって。
 やがて、地の底から響くような声がした。
「……この俺をアゴで使いやがるとは……後で覚えてろよ、新聞部……」