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伝説のリンゴを召し上がれ

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伝説のリンゴを召し上がれ

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「ここの動物さん達が大事にしてるのをおすそ分けしてもらうんだから、とりすぎちゃダメだよ。取りすぎる人がいたら、僕とティンで、怒るからね」
 と、ティエンに注意されながら、コンダクターたちが、リンゴを収穫する。
 近衛 栞(このえ・しおり)は、サイコネシスで、手の届かない枝に実る輝くように赤い実を選び、白雪椿は、
「ごめんなさい狼さん。リンゴ……ちょっとだけ頂きます……」
 と言いながら、低い枝から、甘酸っぱい香りを漂わせている実を摘み取った。
「私の分は、パートナー達にもアップルパイを作ってあげたいので、1個だけ貰えれば……」
「私は、自分が食べたいだけなので……」
 そんな話をしていた白雪椿と栞だったが、マグナが落としたものと、収穫したものを集めると、皆が欲しいだけ取っても、まだ余るほどの小さな山ができた。
「そろそろ、僕の出番だね」
 黒羽が、残ったリンゴの芯を刳り貫いて、シナモンと砂糖とバターを入れ、アルミホイルで覆う。火術を使って焼いたら、たちまち、おいしそうな焼きリンゴの出来上がり。
「あ、狼さん達、猫舌だよね。狼さん達用のは、貴仁に、氷術で冷やして貰うよ」
 沙夢の獣医の心得で、傷や痺れを癒やされた大型のパラミタオオカミたちが、起き上がり、うれしそうに、冷めた焼きリンゴを食べ始めた。
 少し離れた草の上では、美瑠の護衛についていた鉄心が、彼女から事情を聞いている。
「偶然が重なってますね……」
 ひとつひとつはあり得る話ではあるけれど、コーデリアに不運が重なってる印象で、少し引っかかっる。
「コーデリアさんのご両親が、事故とご病気で相次いで亡くなったのは、本当に偶然のようで……あんなに小さいのに、突然、重い責任を負うことになって、寂しいのも我慢しなきゃいけなくて……つい、ワガママを言ってしまいたくなる気持ちもわかるんです……先生は、そのせいで、すごく悩んでいますけど……」
「では、調べる必要があるのは、リンゴの災難の方ですね」
 と、考え込む鉄心だが、今は、リンゴの収穫を、無事に終わらせるのが先だ。
「ま、何か気づいた点などあったら、またお知らせ下さい」
 ホテルに残ったコンダクターたちが、何か情報を掴んでいるかもしれない。帰ったら、彼らにも話を聞いてみよう、と鉄心は思った。


「食べさせてくれた人を好きになるというほど、おいしいリンゴ……これを食べさせれば、ウェルさんも……」
「椿は、どうしてそんなに、このリンゴが欲しかったんだ?」
 嬉しそうにリンゴを剥き、食べやすい大きさにカットしている椿に、彼女の目的を知らないマクスウェルが尋ねる。
「……べ、別に惚れ薬としての効果は期待してませんよ? あ、あくまでこれはウェルさんの偏食を直すためですから!……ほんとですよ?
「惚れ薬? 何のことだ?」
「し、知らなかったなら、別にいいんです! さあ、食べてください!」
 照れ隠しに少し怒った口調で言いながら、ピクニック用のフォークに刺したリンゴをマクスウェルの口に運んで、食べさせる。
「偏食、治りましたか?」
「……わからない」
 マクスウェルは首を振ったが、椿を見つめるまなざしは、以前よりも、さらに優しくなっていた。
 その様子を微笑ましく眺めながら、栞は、美瑠の籠にリンゴを詰めている。
「これと……ううん、これより、あっちの方が……」
 栞が美瑠のために選び抜いたリンゴは、どれも傷ひとつなく、見ているだけでも気分が爽やかに晴れていくような、見事な色合いのものばかりだった。
「もらったリンゴは丸かじ……いや、半分はティエンにやるか。騎狼やピヨにもやるんだろ? 仲良く食えよ」
 陣が、ティエンの頭を撫でるが、ティエンは、首を振った。
「僕は、お兄ちゃんに一切れもらえたら、それで十分。だってみんなでお出かけできただけで、嬉しいもん。今度はリンゴのお花が咲いた時、また来たいね」
「では、その分、褒美に、リンゴでうさぎやペンギンを作ってやろう」
 義仲が、器用に可愛らしい形に剥いたリンゴを、皿に並べる。
「美瑠殿もいかがかな? 真に美味いものは相手を思う気持ちがこもるもの。たとえ切っただけのリンゴでもじゃぞ」
 にっこりと笑いかける義仲につられて、美瑠も、うさぎの形のリンゴを食べてみた。
「おいしいです……」
 自然な甘さが、緊張と疲れを癒やしてくれる。パラミタオオカミたちに襲われたときはどうしようかと思ったけれど、コンダクターたちのおかげで、なんとか籠をいっぱいにすることができた。おいしいリンゴで元気を取り戻したし、デザートパーティの用意も、なんとかがんばれそうだ。
「そうそう、採れたてのリンゴを食べる瞬間が一番の楽しみですね」
 と言いつつ、ザカコも、収穫したリンゴを切り分ける。
「これは……蜜の様な甘さに酸味が絶妙のバランスで……笑いがこぼれてしまう程美味しいですね」
「そうね、このリンゴならデザートも楽しみだけど、ここが更地になると、このリンゴも食べれなくなってしまうのだわ」
 ザカコに答えたルカルカの言葉に、一瞬、皆が、リンゴを食べる手を止めた。
「私、コーデリアさんに、笑顔になってほしいな……林さんや森さんの気持ち、ちゃんと伝わって欲しいです……そして、コーデリアさんから、開発を見直すように、会社の人たちに、言ってもらいたい……」
 と、白雪椿。
「そのためには、まず、コーデリアさんに、パラミタのことを好きになってもらわないと……だよね。僕たちは、そのために、このリンゴを集めたわけだけど、何か他にできること、ないかなあ」
 紅鵡も考え込む。
「そうだ! コーデリアがOKしてくれたら、このリンゴに『コーデリア』って名前つけるの、どう?」
 丘のあちこちから、賛成の声が一斉に上がった。