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パニック! 雪人形祭り

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パニック! 雪人形祭り

リアクション

「また動き出したな」
 サミュエル・ウィザーズ(さみゅえる・うぃざーず)は軽く舌打ちをして、アーミーショットガンを構え直して雪像を睨む。発射される弾は、冷たい空気を裂いて唸りを上げ、雪像の足下で着弾の響音を上げる。
「速度はさほど変わらんようだな」
 パートナーのディーン・ロングストリート(でぃーん・ろんぐすとりーと)は、サミュエルのすぐ傍に立ち、自らも術で攻撃する傍ら、雪像の動きを観察していた。
 二人は祭りの警備要員としてこの街に来たのだが、特に問題は起こらず、平和で何よりとは思うがいささか勤務の緊張感に欠けてきた中、最終日に至ってこの予想の斜め上をいく事態である。
 市街に向かってくる雪像が近づくのを止めるため、二人は、ガンショットと雷術で雪像の脚部に集中攻撃を加えていた。雪像は一部を破損しても、周囲の雪を吸収して自己再生するため、ただしばらくの間そこに足止めできるという効果しかない。
「……お話、よろしいかしら……?」
 突然、サミュエルの目の前にふらりと少女が現れ出た。レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)であった。
「な、なんだ?」
「……あの雪像を壊すのは、やめていただきたいのです……」
「何!?」
 横でディーンも眉をひそめて、突飛なことを言い出すレイナを怪訝そうな目で見る。
「もちろん、野放しにしろと申し上げているわけではありません……私たちには、破壊よりももっと有益な手段の用意があります……」
「手段? ……というか、”私たち”とは?」
 レイナの傍らではパートナーのウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が、ディーンがぎろりとレイナを見たのが気に入らないのか、キツい目で彼を見返す。だがレイナが指したのは、ずっと後ろの方にいる何人かの人影だった。
「……私たち【雪だるま王国】民は、あれを巨大雪だるまに作り変えることで、このたびの危機を退けられると考えております……」
 レイナは無表情に淡々と、しかしはっきりした口調で語った。
「……破壊するのではなく、むしろ過剰な雪を付着させることで動くことを困難にさせ、自ずから歩みを止めさせるのです。だるまになれば足もなくなり、街への進入も阻止できましょう……」
 予想したこともなかった作戦に、サミュエルとディーンはしばし、ぽかんとなった。
「……、そんなこと、上手くいくのか? 積雪を己の力に変えて動いてる野郎だぞ!?」
 ディーンの懐疑的な言葉に、ウルフィオナはキツい目の光をさらに鋭くして彼に一歩迫った。
「レイナの案が受け入れられない、と……?」
「あぁ、待て待て、待ってくれ」
 不穏な空気を察知したサミュエルが、手を挙げて制した。
「雪だるま化ってのはよく分からんが……我々も、雪像を全面破壊したい訳じゃない。動きを止めるという点では、むしろそちらと狙いは同じ。我々は脚部を重点的に攻撃し、損傷させて動きを不能にする。その上から……その、雪を大量にくっつけて? だるま状態にすればいいんじゃないか?」
 その言葉に、ディーンとウルフィオナは目をぱちくりさせ、それからほぼ同時にレイナを見た。レイナはサミュエルの提案に、眉根を寄せてしばらく考え込んでいたが、
「……そうですね。どのみち雪だるま化するにあたって、厳つい脚部の形状は不要です……ということは、あなた方の思惑と我々の目的は、衝突する必要はない、ということでよろしいですね……?」
「まぁ、恐らくは……。一つだけ確認したいんだが、貴女方のやり方で、一般市民に危険が及ぶということはないんでしょうな?」
「……それはもちろん。危ない事態は全力で阻止ししますわ。では、これにて失礼いたします。くれぐれも、無用の破壊行為には及びませんよう……」
 そうしてレイナは、まだ警戒心を解いていない様子のウルフィオナを連れて、後方にいる人々の方へと歩き去っていった。
「……。本当に、あれでいいのか?」
 呆気にとられた顔で、ディーンが尋ねると、若干腑に落ちない表情で首を傾げながらも、
「まぁ……今のところはいいだろう。雪像を前に、人同士が無駄に諍いあっても仕方ない」
 サミュエルはそう言って、視線を再び雪像に向けた。


 一方、独自に考えを巡らせていたのは、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とパートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)だった。二人は街の入り口のすぐ近くから、雪像の動向を観察してた。
「周りにあるのが雪だから、雪像のエネルギー源になっちゃうのよね。だから、水に戻してしまえばいいんじゃないかな。そうすれば、雪像も自己修復できなくなるし……」
 エレノアにそう説明しながら、佳奈子はちらりと街の入り口の方を見た。
「雪人形も悪戯もできなくなるしね。考えはあるの。街の人に頼んで食塩やにがりをありったけ集めて、それを凍結防止剤にして周りに撒くのよ。もちろん全部ってのは無理だけど、ある程度雪の量が減れば、雪像や雪人形の不利になる。名付けて『凝固点降下作戦』。その後、雪人形を街中からこっちへ誘導して、その冷気で融かした水をもう一度凍らせてしまうの。そうすれば、雪像も雪人形も動きにくくなるでしょ」
 それを聞いてエレノアは、その案を吟味するようにしばらく考えた後、口を開いた。
「やってみる価値はあると思うわ。でも、食塩の混ざった大量の水を再凍結できるかどうかは、正直確実ではないとも思う。他の人にも相談してみた方がいいかもしれないわね。凍ることで違う危険が生じて迷惑をかけてはいけないし」
「なるほど、そうよね」
 誰かに意見を聞いてみよう、と、佳奈子は辺りを見回した。