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【アラン漫遊記】はじめての冒険

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第3幕 山の主と金銀財宝


 一方こちらは山頂に到着したアランたちとは違う目的で行動している人たちだ。
 山の中にいるという宝を守っていると言われている巨大モンスターを探している最中。
 秋月 茜(あきづき・あかね)はこちらには気づいていない普通の植物モンスターを発見すると嬉しそうに声を上げた。
「モンスター発見ね! さっそく――」
「ダメだよ。この先何が起こるかわからないんだし、無駄な戦闘はさけて進まないと」
 すぐに攻撃しようとする茜をエーベルハルト・ノイマン(えーべるはると・のいまん)が制する。
「何よ〜。ちょっとくらい良いじゃない。減るもんじゃないんだし」
「減るよ」
「ぶぅ〜」
 茜は頬を膨らませる。
 そんなやりとりをかわしながら、山の中腹辺りまできた一行。
「そろそろ出てくるよね。じゃあ、みんなに……」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は『イナンナの加護』をここにいる全員にかけておく。
 イナ・インバース(いな・いんばーす)は頭をぺこりと下げた。
「ありがとうございます。あ、ちなみに私は負傷者の手当てがメインですので、後ろに下がらせていただきますね」
(それだけじゃないですけど……そこまで言う必要はないですしね〜♪ 実験が私を待っている〜)
 とりあえず、楽しそうだ。
「それにしてもどこにいるんだろう? ふっつうに雑魚ばっかりしかいないよね」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)はつまらなさそうに欠伸をした。
「そうですね……。宝の近くを守っているとのことでしたが、宝の場所も知りませんし……。だからといって手当たり次第ですと、時間がかかりすぎますね」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は顎に手をやり、首を傾げた。
「僕にちょっと考えがあるんだけど……やってみても良い? ボスを誘いこんでみたらどうかなって思うんだ。で、宝の場所はボスがやってきた方角とか時間からだいたい絞り込めるかなって」
「良さそうだね」
 エーベルハルトが頷くとみんなも頷いた。
 さっそく、リアトリスは植物のボスが好みそうだということで、『氷術』と『パイロキネシス』を利用して、湿気が多くなるようにしていく。
「蒸し暑い〜……」
 茜は胸元の服をぱたぱたさせ、少しでも涼しくしようとするが、効果があるかはわからない。
「みっともないよ」
「良いじゃない……これぐらい」
 エーベルハルトが茜をたしなめようとしたその時――
「げーぎゃっぎゃっぎゃっ!!」
 鳥たちが騒ぎだし、飛び立った。
「くるっ!」
 一番最初に戦闘態勢に入ったのは透乃だ。
 それに続いて、みんなも一層警戒を強める。
 リアトリスとイナはみんなの後ろへと下がった。
 緊張が高まる中、草や枝を鳴らす音が近づいてくる。
 木々の間から現れたのは……3m近くありそうな大きなウツボカズラ型のモンスターだ。
 出てくると同時に数本のツタでみんなを狙ってくる。
 警戒していたおかげか、みんな後方へ飛んだりしてその攻撃を避けられた、と思ったのだが1人だけ避けられなかったようだ。
「ちょっとー! 下ろしてーー!」
 すぐに切りかかろうとしていた茜だ。
 切ることに集中しすぎて、ツタを避けるところまでいかなかったらしい。
 足を持ち上げられ、スカートがめくれてしまっている。
「いーーやーーー! あの中にだけは入りたくないーー! お気に入りの洋服なのよ、コレーー!」
 モンスターはお構いなしに本体であるウツボカズラの袋の中へと運ぶ。
 涙目になりながら、めくれたスカートを左手でなんとかしようとしている。
 すぐにリアトリスが『氷術』でウツボカズラの足元と周りを凍らせる。
 さすがに植物、冷気には弱いのは動きが少し鈍くなった。
 そこへすかさずエーベルハルトがモンスターに近づき、氷を踏み台にしてジャンプする。
 茜の近くまで行くと、ブロードソードでツタを切り付けた。
「きゃー! 落ちるー!!」
 落ちてきた茜を受け止めたのは旦那のエーベルハルトではなく、どこから出てきたのか裕輝だった。
「ええもん見せてもらったお礼や〜」
 お姫様抱っこして、リアトリスたちのもとへ連れて行くと、そのままどこかへ走り去ってしまった。
「ありがとうー! って、ちょっと待ってー! 『ええもん』ってどういうことよーーー! 勝手に見るなーー!」
 茜はスカートを押えながら叫んだ。
「茜、大丈夫?」
「遅いー! あそこまでやったんだからちゃんとお姫様抱っこまでしてよね……バカ……」
「ごめん」
 らぶらぶ空気が漂う2人はケガもなさそうなので、放っておいて、茜が助け出されたことによって、透乃は遠慮なく拳をぶち込もうとしている。
「殺しに行くからそっちも殺す気でかかってきてよ!」
 透乃は『煉身の声気』を発動させ、常に声を出しながら、拳を繰り出していく。
「わくわくしてきた〜! くっさいけど!!」
 透乃はちょっと鼻をつまむ仕草をする。
(袋には攻撃できないわよね強度がどれくらいかわからないから、いきなり袋が破れて粘液が出てきても困るし)
 さらに透乃は攻撃を加えていくが、それはすべて袋ではなく、根っこの近くだったり、袋のふたみたいな部分だったりしている。
 それを援護するように少し離れた位置から陽子が『凶刃の鎖【訃韻】』で攻撃をしている。
(毒はやはり効かないのでしょうか? まったく攻撃がゆるみませんね)
「リアトリスさん、『氷術』お願いします!」
「うん!」
 陽子の声に合わせて、リアトリスはさらにモンスターを凍らせていく。
 氷によって鈍くなってきた動きを見て、陽子の目がキラリと光る。
(今なら……!)
 ウツボカズラが繰り出してきたツタが陽子を狙う。
 避けようとして後方へ飛んだが、後ろにあった小さな石につまずき、体勢を崩してしまう。
 そこをツタに捕まれて、陽子の体をツタが締め付ける。
 徐々に袋の口へと近づく陽子。
「透乃ちゃん……!」
 その声に反応して陽子を見る。
 しかし、透乃はちょっとだけ舌なめずりをするだけで、助けようとはしない。
(ああ……やっぱりわかられているのですね)
 それが余計に陽子の感情を昂らせたようで、頬を赤く染めて、瞳が少しだけ潤んだ。
(満足しましたし、さすがに袋の中に入れられてしまうのは勘弁願います)
 陽子は捕まるときに少し余裕を持たせていたため、ちょっと体をずらすだけでツタから抜け出した。
「まだまだ行くよー!」
 抜け出したのを確認すると、透乃はまた猛攻撃を続けた。
(そろそろ倒されちゃいますよね……ここは後ろからこっそり近づいて、例の粘液を……うふふ)
 イナはそろりそろりとウツボカズラの背後に回ると、試験管を用意して、粘液が少しでも垂れるのを期待して待っている。
 が、ウツボカズラには後ろも前も関係なかったらしい。
 すぐにツタを伸ばされ、掴まってしまった。
 しかも、粘液採取のために近くにいたので、袋はすぐそこ。
「確かに粘液は欲しいですけど、まみれるのは嫌ですー! まみれたのを見るのは歓迎ですが――きゃーーー!」
 誰かが助ける間もなく、イナは袋の中へと落とされてしまった。
 すると、完全にウツボカズラの攻撃がとまる。
 どうやら、誰かが袋の中に入ると、そっちに意識を集中させてしまうらしい。
「全部氷漬けにしちゃって! なんとかするから!」
 透乃の言葉に頷くとリアトリスは袋の部分からなにからなにまで凍らせてしまった。
「いっくよーー!」
 透乃が渾身の一撃を袋の中央に打ち込む。
 袋が縦に裂ける。
 すると、袋の中の粘液はしゃりしゃりとシャーベット状に凍っており、かぶってもすぐに振り払うことが出来た。
 ただ、中の方はまだ凍っていなかったらしく、液のままだった。
 その粘液から粘液まみれになってしまったイナが出てくる。
「ごほっ……げほっ……ありがと……ござ……います……」
 イナは粘液によって毒と石化にかかっていたが、『イナンナの加護』のおかげで軽い。
「大丈夫? すぐに治療したいけど……そうだ、頂上に向かった人たちの中には治療できる人がいたはずだから、そっちに連れて行くからね!」
 リアトリスがイナのことを抱き上げると、リアトリスにもイナの粘液がついてしまった。
「すみません……臭いもきついのに……」
「これくらいどうってことないよ……って、きゃーーー!」
 粘液がついた服が融け始め、リアトリスは上半身が露わになってしまった。
 どうやら、リアトリスへの効果は服を融かすことだったらしい。
「これを」
 それを見たエーベルハルトが自分の上着を脱いですぐにかけてやる。
「ありがとう」
 お礼を言うと、リアトリスは他のメンバーのところへイナを連れて行ったのだった。
 他の人たちはボスが来た方角から無事に怪しい洞窟を発見し、金銀財宝を手に入れることができた。
 あとで、山分けしたときにリアトリスは換金して孤児院に寄付したようだ。