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花とニャンコと巨大化パニック

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第三章 それいけ! 救助隊
「どのみちレバーを戻すのに植物達を切らなきゃ…ごめんよ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の沈痛な表情にエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)はもまた胸を痛めた。
 植物を傷つけたくない、エースの胸中を推し量って。
「止められないんだ、よな」
 【人の心、草の心】で語ったエースは、暴走している植物たちが混乱しているのを察した。
 更に、自分たちではどうにも出来ないと嘆いているのも。
「ただ此処にいた……此処で幸せに暮らしてたのに、な」
 ここの花や木はよく手入れされ幸せだったらしい。
 そんな彼らの望みに、エースは軽く唇を噛みしめ。
「……分かった、それを君たちが望むならば。剪定するよ?……切って、皆を助けてあげるから」
 緑に、そっとハサミを入れた。
「エース……」
「うん、この辺はともかく奥……中心地は植物たちも混乱してると思う、だけど」
「分かってます。可能な限り優しく素早く、猫さんや皆や……植物たちを助けましょう」
 同じようにとりあえず剪定を開始するエオリアに頷き。
「直ぐに助けてやるから……そう、動かないで」
 手近にいた女生徒に優しく告げた。
「巻き込まれた人や捕まった人を助けることが第一だ。光条兵器の使いどころだろう」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はそんなエース達をチラと見やってから、【光条兵器】を振るった。
 助けを求めている者がいる以上、迅速に行動せねばならないと思うから。
 【光条兵器】で斬る対象を植物・虫に設定するば、要救助者を万が一にも傷つける事はない。
「当機ブリジットの自爆を承認しますか?」
「しない。何でわざわざ光条兵器使ってると思ってるんだ」
 故に、いつものように承認を求めてきたブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は、当然却下だ。
 うっかり承認した日には、植物だけでなく要救助者やそれどころがこの辺一帯も吹き飛んでしまう事、間違いなしだ。
「人命優先! ついでに、植物のサンプルも取ろう。でかい作物が取れるなら食い物に困らないかもしれないしな」
「……了解です」
 返事はやや不満げだったけれど、ブリジットは甚五郎の指示を受け入れたらしい。
「食用のものはないようですね」
「すみません」
 暫くして、調査結果を口にしたブリジットに申し訳なさそうに頭を下げたのは、雛子だった。
「つい花を植えてしまって……そうですね、お野菜を植えるという手もありましたね」
「そうして下さい」
「その方がイザという時、助かると思うぞ」
「あぁでも、確かに植物を大きく出来るなら、食料問題がなくなるかもですね」
 甚五郎の意見に顔を輝かせたのは、クロード先生で。
「なぁ先生、だけど一方的な人間の都合で植物を、ってのはやっぱ何か違う気がするんだが」
 そこに口を挟んだエースの声は、常に無く固かった。
「俺はな、今回の事は事故というか、人間の側に原因があると思うし。植物育成だって地道に温度湿度管理しつつ、植物達の力を借りて土壌改良とかしたほうが良いと思うしね」
 此処の植物は人が好きで、傷つける前に切って欲しいと望む彼らを手に掛けるのは、胸が痛んで。
「そういう、人間の都合だけじゃなく色々な視点から考えてくれても、良いんじゃないかな」
「……そうだねぇ」
 女の子に絡まっていた枝を丁寧に取り除きつつ告げるエースにクロード先生は考え込み。
「難しいな、色々と」
 エースが意図的に無視したらしい(「男は自力で頑張れ!」)男子生徒を引っ張り出しながら、甚五郎は苦笑を浮かべていた。

「木の根やら蔦やらいろいろ巨大化してんなあオイ。あのデカブツを切り倒して装置ってのを取り出せばいいんだろ?」
 一方、雛子に確認した瀬島 壮太(せじま・そうた)志位 大地(しい・だいち)と共に、救助活動に来ていた。
「それにしても、数多すぎんだろこれ」
 植物の根元部分に円裂刀を投げつけた壮太は、思わず溜め息をついた。
 何か、さっきから一人で頑張っている気がするし。
 と後ろを振り返ると、大地がフッと刀を振るい植物を斬り落としている所だった。
「……気のせいか、そうだよな」
 数が多すぎるそして大きすぎるのが悪いんだよ、と毒づく壮太は知らない。
「壮太さんがなんだかすごくやる気を出しているので、とりあえず彼にお任せしてみましょう」
 何て、実のところ大地が気を抜いている、なんて事。
 けれどそう、一瞬のそれが油断になったのだろう。
「なっ!?」
 その隙を突いた蔓に足を取られた壮太は、アッと言う間に捕まってしまった。
 両手両足を拘束された様は、磔のようである。
「あらあら、まあまあ、いけませんわ壮太くんそんな縛られ方…! いけません…いけませんわ〜!」
 とはしゃいだ声を上げたのは、大地のパートナーである筈のシーラ・カンス(しーら・かんす)だった。
 声と同時にパシャッパシャッと欲望に忠実に切られるのは、カメラのシャッターだ。
「いっそ芸術的ですらあるんじゃないですか、あの縛られ方」
 大地もまた、パートナーを咎める事無く、感心したように壮太を眺めた。
 そんな二人とは対照的だったのは、勿論犠牲者っていうか壮太だった。
「マジかよおい、動けねえぞ」
 抵抗しても、蔓がギリっと手首足首に食い込むだけで、更にそれは痛いとても痛かった。
「痛ぇ痛ぇ痛ぇって! 志位!、笑ってねえで助けろよ!」
「確かに、芸術的とか言ってる場合じゃないですね、けっこうヤバそうですし」
 本気で痛そうな様子に、さすがに大地も笑いを収めた。
「そうですね、アクセルギアと【真空波】を使いましょう。この組み合わせなら安全に壮太さんを助けられるはずです」
「はっ…私ったらついつい、いけませんわ。お助けいたしますわね」
 と、大地と同様にシーラが我に返ったのも束の間。
「まあ…! まあまあまあまあ!! そんな、それは、そんな、いけませんわ!」
 目の前のパラダイスな光景に、カメラを構える手に力がこもった。
 ファインダー越しに見えるのは、壮太を無事救出し……その身体をお姫様抱っこした大地の姿だったから。
「お姫様抱っこだなんて、このあとどうなさるおつもりですの…! きっとこのまま…いけません、いけませんわ〜〜〜〜〜!!!」
 悶えつつ、シャッター音はそのまま結構な時間、響き続けたのだった。
「なんだ随分、しおらしくて可愛いんですね」
 腕の中、ぐったりした壮太に揶揄してみれば、「……バカ言え」と疲れた声が返ってきた。
「やっと助けてもらって一息ついたけど、お姫様だっことかやめろよ気持ち悪いな」
 朱に染まった頬で微かに頬を膨らませつつ、ろくな抵抗が出来ないのは、気力も体力も尽きたからだろう。
「ああ疲れた……」
 腕の中、ぐったりとした壮太に苦笑し、大地はそのまま脱出するのだった。
 勿論、お姫様抱っこのままで。
「壮太さん、大丈夫ですか?!」
 救助された人達を見ていた雛子を始めとする者達にお姫様抱っこが目撃されるまで、あとちょっと。


「にゃんネルぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
「ニャー」「ニャッニャ〜」
 にゃんこヒーロー黒乃 音子(くろの・ねこ)に、従者のにゃんネル達はそれぞれ大丈夫だと告げるように声を上げた。
 その円らな瞳が、音子に冷静さを取り戻させてくれた。
「そうだ、ボクはにゃんこヒーロー……困っている人を助けなくちゃ」
 チラと向けた視線、エースのような器用なコトは出来ないけれど。
「ボクはにゃんこの幸せだけを糧にしているからね! 悪さをする子はボクがお仕置きするよ!! 覚悟しなさいっ!!!」
 音子は言って大きくジャンプすると、夜涼 響(やりょう・ひびき)に振り下ろされようとした緑の腕を、にゃんこ・クロウでもって振り払った。
「響!?」
「ありがとう、助かった」
 皇 桔梗(すめらぎ・ききょう)を助け出そうとしていた響は、背後からの攻撃に反応が遅れた。
 一撃でやられるとは思わないが、ケガをしたかもしれない……故に、音子に対する感謝は深いものになった。
 ケガをしたらきっと、優しい桔梗は自分を責め悲しむだろうから。
「感謝は無用だよ、ボクはにゃんこヒーローだからね!」
「それでも、ありがとう」
「わたくしも感謝致しますわ」
 響と桔梗の礼に、ちょっとだけはにかんだ笑みを浮かべてから、音子は再び跳躍した。
 無論、次の要救助者の元に。
「大丈夫ですか、桔梗」
「はい。少しビックリしましたけれど……もう大丈夫ですわ」
 その間に響は桔梗に巻きついていた蔓を器用に切り、助け出していた。
 ザッと見、ケガがない事に安堵する。
「他の皆さんを助けるのでしょう? わたくしも手伝いますわ」
「だけど……ううん、じゃあ一緒に助けましょう」
 気丈に告げる桔梗に、響は微笑した。
「この植物たち……わたくしを苦しめようとしたのではなく、助けを求めてきた……そんな気がします」
「うん。早く止めて上げよう」
 確かそんな事を言っていたエースの顔を思い出し。
 響は表情を引き締めると、桔梗を庇いつつ剣をしっかりと握り直した。
「きゃあっ!?」
「……とはいえ、一筋縄ではいかないようですね」
「弱肉強食が常の昆虫相手に真っ向からやっても、勝てるわけないで?」
 巨大蜂から、助けを求める女生徒を庇う響に、のんびりした声が掛かった。