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魔法薬からの挑戦状

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魔法薬からの挑戦状

リアクション

「い、いかん、少しばかり厳しくしすぎたやもしれぬ、戻ってこーい! おぬし、見た目はおなごなのじゃから全裸はまずかろーー!」
 二階の校舎の廊下を、佐倉 薫(さくら・かおる)猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が追いかけっこをしている。
 剛利の体に宿されたのは、爆発の薬の力。
 本人を中心に爆発を起こす力を手に入れるという、最も攻撃的な効果を持った薬である。
 十分だけという制限こそあれど、誰でも爆発という魔法的な力を手に入れる事の出来る、傑作中の傑作になる可能性をも秘めた薬。
 だが、薫が言っているように、この魔法薬には極めて危険な副作用があった。

 すなわち、使えば全裸確定

 リスクとしては、大きすぎるリスク。
 だが、それでも剛利は使わなければならなかった。
 剛利には、薫を振り切ってでも使わなければならない理由があった。

「例え全裸になろうとも、人は一度は爆発しなきゃいけないんです。そう、今がやるべき時なんです」
「待て待て、そんな時があるか! 分かった、話し合おうではないか!」

 薫の必死の叫びも空しく、剛利は叫ぶ。

「いざ……バーニング!」
 
 剛利は、力を解放する言葉を叫ぶ。
 剛利の中に湧き上がる衝動。
 それは爆発の薬によって与えられた、体内での擬似的な自動魔法詠唱。
 衝動は力を形にし、しかし剛利を決して傷つけることは無い。
 爆風と、衝撃。
 剛利を中心に放たれた力は、中規模の爆発を起こす。

「うおっ……!?」

 満足気に全裸な剛利をどうにかしようと近づく薫の肩に、誰かがそっと触れる。

「なんじゃ、今は忙し……まったー!」

 そこにいたのは、爆発の薬の魔法薬ゴーレム。
 つまり、薫にも今から十分間。爆発の薬の力が与えられたのだ。

「まてまてまてわしの服があれとか倫理的に問題があるじゃろーーーー!」

 だが、と薫は思う。
 言わなければいいのだ。
 例のキーワードを、言わなければいい。

「そうじゃ、バーニングとさえ言わなけれ……ば……あーーーーー!」

 そして薫を中心に練り上げられていく力。

「ダメじゃダメじゃ、くるな、くるなー!」
 
 体内から沸き上がってくる、暴力的に狂おしい衝動。
 抗いがたく熱を持った衝動に逆らおうとしても、無駄な事。
 薫を中心に起こる爆発は、薫の装備を爆発四散させていくのであった。

「何か今、悲鳴が聞こえたような……」

 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の言葉に、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は興味がなさそうに鼻を鳴らす。
 そんなものに、ハデスは興味はないのだ。
 ハデスが興味があるのは、ただ一つ。

「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」

 何処かの誰かへの目線で、ハデスは大仰なポーズをとって大仰な自己紹介を始める。
 その脇を固めるのは、アルテミスと高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)の二人。

「なに!? イルミンスールで、魔法薬の戦略兵器が開発されただと!? ククク、その開発成果の魔法薬ゴーレムとやらの情報、我らオリュンポスが世界征服のためにいただくとしよう!」

 以上、ここまでのあらすじのようである。
 ともかくハデスは、アーシア先生が暴走させた魔法薬ゴーレムを世界征服の為に利用するつもりのようだ。
 しかし、悲しいことに。
 古今東西、そういう事を言う人が楽しい結末以外を迎えた所を、アーシア先生は見たことが無いのだ。
 そう、ハデスの高笑いにひかれたのか、三体の魔法薬ゴーレム達が、ハデス達をじっと見つめている。

「えっ、な、何ですかあのゴーレムは……」
「ククク、さあ行け、我が部下、改造人間サクヤ、暗黒騎士アルテミスよ! イルミンスールの兵器の情報を収集しつつ、開発済みのゴーレムを破壊するのだっ!」
「って、兄さん、何をっ……!? きゃ、きゃあっ!」

 ハデスに押された咲耶は、一体のゴーレムをズボッと通り抜ける。
 少し濃度の薄くなったゴーレムは、次の犠牲者を求めて何処かへと消えていくものの……咲耶の中には、とある衝動が産まれていた。

「オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」

 一方のアルテミスは、もう一体のゴーレムへと向かっていく。

「その程度の攻撃、この鎧の前には効果ありません!」
 
 大剣で斬りつけるアルテミス。しかし、その攻撃はゴーレムをすり抜けて。
 ゴーレムは、そのままアルテミスをすりぬけたかと思うと、何処かへと消えていく。

「今のは……」
「アルテミスよ、バーニングと叫ぶのだ!」
「え、なんですか、ハデス様? バーニングと叫べ……?」

 その瞬間、アルテミスの全ての装備が爆発四散する。
 その音と衝撃に、近くの生徒達が何事かと近寄ってくる。
 しかし、そこにいるのはハデスと咲耶……そして、全裸のアルテミスだけだ。

「え……!? きゃ、きゃあああっ!」

 本人が無傷であるが故に、こんなに恥ずかしいことはない。
 思わず座り込むアルテミスの背後で、ハデスがギャリギャリと謎の音を立てながら沈んでいく。

「ちょ、お姉さん……大丈夫ですか?」

 爆発の影響を受けた咲耶を助けようとして寄ってきた男子生徒。
 その手を取り、咲耶は顔を赤らめる。
 後ろから聞こえてくるギャリギャリギャリという音が一体何なのかは不明だが、今の咲耶には全く気にならない。
 目の前の名前も知らない男子生徒に、咲耶は言わなければならないことがあった。

「あ、あの……?」

 ぼうっとした目で男子生徒を見つめていた咲耶は、ハッとして顔をそむける。

「も、もうっ、勘違いしないでくださいよねっ! 別にあなたのことなんて何とも思ってません! 私が好きなのは、兄さんだけなんですからねっ!」
「は、はぁ」
「あなたなんか、兄さんと比べたら全然なんですからねっ。あなたなんて、兄さんみたいに地面に股裂きされて悶絶なんて……兄さぁーん!?」

 ツンデレのような、そうでないような。
 魔法薬の効果で不思議な状態に陥っていた咲耶は気づくよしもなかった。
 今のツンデレの間に、両足がドリルになったハデスに起こった悲劇を。
 全力で地下へと潜るハデスの両足のドリル。
 しかし、ハデスの股間は残念ながらドリルではない。
 全力で地下を目指す両足と、全力で地上に残ろうとする股間。
 その二律違反の引き起こした、ハデスの悲劇。
 たった三秒間で起こった、悲しい結末。
 だが、誰がハデスの股間を責められようか。
 今回の悲劇の原因は、ただ一つ。
 股間がドリルではなかった。
 ただ、それだけの事なのだから。
 むしろ世界を相手に踏ん張ったハデスの股間には、賞賛が贈られてしかるべきかもしれない。
 流石は、世界征服を目指すハデスの股間。
 世界を、母なる大地を相手によく頑張った……と。