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【ぷりかる】夜消えた世界

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【ぷりかる】夜消えた世界

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「夜が無い生活ってどんな感じかな?」

 月見里 九十九(やまなし・つくも)の言葉に、村人の男は悩んだような顔をする。

「そりゃ……最初は混乱したけどさ。今はそうでもないよ」

 九十九は遊んでいた子供には、こんな質問を投げてみる。

「ずっと友達と遊べて嬉しい?」
「そうでもないよ。幾ら空が明るくたって、お日様もお月様も動いてるしね。お日様が居なくなる頃には帰れって、母ちゃんうるせえんだよ」

 別の女の子には、こんな質問を投げる。

「家の手伝いとかも増えてたいへん?」
「暗くなったからやめにしようか、っていうのが無くなったのは嫌かもしれないわ」

 それぞれの答え。
 それを反芻しながら、九十九はこんな質問を投げる。

「君はこれからも夜のない生活を望む?」

 その言葉に、大抵の村人はこう答える。
 分からないよ、と。
 夜があろうと無かろうと、夜があった時のように行動している。
 だから、分からないのだ。

 けれど、一人だけ違う答えを返した少女が居た。

「私が望んだ事なんだもん。幸せなはずよ。だから、これからもこうであってほしいって思うのが正しいんだと思うの」

 丁度柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)と話していた少女の名前は、リリア。
 そして恭也も九十九も、この瞬間に確信する。
 この少女こそが、夜の来ない世界を望んだ本人なのだと。
 そして、それに気付くと……分かる。
 少女の指にはまっている、一見玩具のようにも見える指輪。
 太陽をデザインしているように見える指輪から放たれる、強い魔力。
 こんな小さな村の子供が持っているようなもので無い事は間違いない。

「嬢ちゃんは、夜が怖いのかい?」
「怖いわ。夜は暗いもの。色んなものが黒くなるし、この世じゃ無くなっちゃったみたい」
「そうか」

 恭也と九十九は、その言葉の意味を反芻する。
 子供らしい理由ではある。
 だが、暗い夜が怖いというのは、子供に限った事ではない。
 だからこそ、暗闇を照らす手段があるのだから。

「でもなあ、こう考えてみろよ」

 恭也の言葉に、リリアは耳を傾ける。

「夜だからこそ月が輝き、星が瞬く。空には星の海が広がり、美しさが際立つ」
「そうね。お星様は綺麗だと思う」

「陽が沈み、夜の訪れが来るその瞬間にだけ見る事の出来る美しい光景がある。昼と夜があるからこそ、存在する物があるんだぜ?」
「……うん」

 リリアも、分かってはいるのだ。
 だからこそ恭也は、リリアにこう声をかける。

「明けない夜はなく、終わらない昼もないってな。何なら一緒に夜の散歩でもしてみるかい?」

 手を差し出す恭也。
 その様子を微笑ましく眺めていた九十九は、背後の気配に振り向く。

「成程、理屈……というよりは信条や生き方、といったところかな。確かにそれは時折、誰かの理想を超える」

 そこに居たのは、涼しげな印象を持つ男だった。

「オルヒトさん、私……」

 恭也の後ろに隠れるリリア。九十九は、目の前に立つ男を見据える。

「貴方がオルヒトさんですか」
「如何にも。私がオルヒトだ」

 相当な実力者である事が見て取れる。
 しかし、オルヒトと名乗った男は構える様子も、殺気一つすら無い。

「リリア、謝る事は何一つ無い。目指した理想が誤りであったのならば、違う理想を目指せばいい。それに気付く事が出来たというならば、私が君を責める理由など何もない」
「なら、あの塔を壊してくれるのかい?」
「それが君の理想ならば支援しよう。だが、違うだろう? 目的と理想とは異なるものだ」

 理想追求機関ネバーランド機関長、オルヒト・ノーマン。
 太陽の塔を作った張本人である男は、そう言って踵を返します。

「ここで私がするべき事は、何もない。あとは好きにしたまえ」

 その姿を、三人は見送る。
 今ここで追ったとしても、何も出来ない。
 それが分かっていたし、ここですべき事もそれではない。
 光輝く太陽の塔が、それを如実に語っていたからだ。