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【5】ハッピー・ティータイム


「一件落着したようね」
「でありますな。よっ、と……皆さん、もう大丈夫みたいですよ。族長さんも無事保護したとのことであります」
 吹雪は助手席から荷台の妖精たちに向かってそう言うと、ふうっと一つ長めの息を吐いた。
「一時は少しだけ、胆を冷やしたであります」
 運転席のコルセア・レキシントンは一旦サングラス型通信機の電源を落としてから、ゆっくりとトラックを発進させる。
 周囲の木々に車体を傷つけられないよう注意しながら、コルセアは集落の入口付近まで車を戻した。
「うん、大丈夫みたい」
 車を降りて前方を貴仁、左右をセレンと理沙が確認しながら進んだが、もう動物たちが襲いかかってくるような気配はなかった。
 集落の中には羽の傷ついた巨大鷲と四肢の麻痺した狼が数頭残されていたが、先刻までの凶悪さが嘘のように大人しくなっている。安全を確認したチェルシーとローズは、その負傷した動物たちの治療を開始した。始めはまだびくびくしていた妖精たちも、動物たちがいつもの様子に戻っていることを知ると、率先してそれを手伝い始めた。
「それにしてもひでぇなぁ」
 辺りに散乱した料理を見ながら、シン・クーリッジがシャツの袖を捲り上げた。
「でも、この実は傷んだ皮剥いちまえばまだイケるな。……ん? こっちはタルト、いやキッシュか。良い感じの焼き色で美味そうだ。妖精って普段こんなもん食ってるのか」
「随分と興味津々ね」
 まだ食べられそうなものはないか物色しているシンの背中に、コルセアが声をかける。
「荒らされたからっつって捨てるのは良くねえだろ。……別に妖精のつくったもんに興味あるわけじゃあないからな!」
「なるほど、興味あるのね」
「違うっつってんだろ! オレは早く食って飲みたいだけだ。そうなるとオレが加わった方が効率が良くなるし……って、笑うんじゃねぇ!」
 コルセアはシンの必死な様子に笑みを堪えつつ、抱えていた荷物を目で示しながら言った。
「まぁ、足りないものがあったら言って。今日はたまたま色んな積み荷があったのよ」
「へぇー……たまたまねぇ」
 含みを持たせる言い方をしながら、シンは「てめぇらも大概じゃねぇか」と思って少し可笑しくなった。


「えー、今日ここにお集まり頂いた方々には、本当に……」
「族長、手短にして下さい! 早くお茶にしましょうよー」
「そ、そうか……」
 中央の席で前口上を述べようと立ち上がったハーヴィは、若い妖精に諌められて少し肩を落としたが、気を取り直して口を開いた。
「では、今日のこの佳き日に、秋の実りに感謝して。お茶会スタートじゃ!」
 いただきまーす、という声が幾重にも重なって響く。
 ある者はゆっくりとお茶の香りを楽しみ、ある者は甘いお菓子を片っ端から頬張った。その脇ですっかり大人しくなった狼たちにもミルクが与えられ、まるで人によく慣れた犬のように夢中でそれを舐めている。
 そんな光景を眼下に見下ろしながら、巨大鷲は空高く舞い上がった。森が夕日に染まるまでにはまだほんの少しの猶予がある。
鷲は完治した両翼を伸び伸びと広げて、爽やかな秋の青空を堪能した。北の空に薄くたなびく雲を除いては、その蒼は遠く遠くどこまでも澄み渡っていたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

黒留 翔

▼マスターコメント

お初にお目にかかります。黒留 翔です。
ゲームマスターとして初めて担当させて頂いた処女作『クレイジー・ティータイム』に参加して頂いた皆様、大変お疲れさまでした。
まだ拙い部分もあることは重々承知しておりますが、それでも楽しんで頂けたとしたら幸いの一言に尽きます。これからも精進していかねば……!
この話に登場した森の集落および封印された祠に関してですが、一応次回作の構想はあります。というわけで、いつになるかは解りませんが、宜しければ次もまたご参加くださいませ。今回は本当にありがとうございました。