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スライムとわたし。

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スライムとわたし。

リアクション

「スライムなんて、この愛刀でばったばったとなぎ払っちゃうんだからっ」
 よぉーし! がんばるぞー!
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)は意気込んで妖刀白檀をぶんぶん振りながら、一番近くにいたスライムへと近づく。
 見た目にはかわいい、ぷよんぷよんと体をふるわせている小型のスライムだ。
「えーいっ」
 抜刀一閃。しかし妖刀白檀の刀身は思ったようにスライムを上下真っ二つに切り裂いてはくれず、スライムを吹っ飛ばしただけで終わった。
「え?」
 ぽてんぽてん、ころころころ。
 落ちた先で転がるスライムに目を瞠る。
 全然切れてない。
「ど、どういうこと?」
 驚きつつも、跳ねながら戻ってきたスライムに、今度こそと唐竹割りを出したが、刀の切っ先はスライムのなかに沈んだあと、ぽよよーんとスライムに跳ね返されてしまった。
「え? え? え?」
 思わず刀を見る。ちゃんとこれは自分の愛刀だ。手入れも十分されている。
 なのに切れないってどうゆうこと?
 しかし驚いている間も待ってはくれず、どんどんスライムが沙幸の元へ集まってきた。
「こ、来ないでぇーっ」
 ぶんぶん刀を振り回すが、スライムにひるむ様子はなく、間合いが詰まったスライムが次から次へと飛びついてくる。
 そこに、藍玉 美海(あいだま・みうみ)がしゃなりしゃなりと歩いてきた。

「おばかさんねえ。このスライムには、剣は効かないんですのよ」

 スライムにどんどんくっつかれてあせっている沙幸と対照的に、こちらは余裕綽々といっただ。
「えー?」
 怪訝そうに見る沙幸の表情が、その声が消えるのも待たず驚きに変わる。
 しゅわしゅわと白い湯気が自分とスライムの接着面から出てきて……服を溶かされている!?
「きゃあっ!?」
 大急ぎ胸元のスライムを払うと、スライムの形で一緒に服がポロッと剥げ落ちてしまった。
「いやーーーん! ねーさま、助けてー」
 胸元を隠してあわててしゃがみ込む沙幸に、ふーっとため息をつく。
「ほんと、困った沙幸さん。
 しかたないので助けてさしあげ……」
 そこで美海の言葉はぴたりと止まった。
 体に張りついたスライムが転げ落ちるたび、ボロボロになっていく格好と沙幸の泣きべそ顔を見て、マゾヒスティックな気持ちになったらしい。
 瞳が輝き、面にイキイキとした表情が広がっていく。
(ああ、この恥らいつつも肌を晒すことをとめられない沙幸さんの姿、たまりませんわ……。
 これはもう、写真に収めないわけにはいきませんわね)
 そして空調の効いた自室で大画面に映して、何度でもおかずに……。
「ふふっ、うふふふふふっ」
 ――スチャッ。
 デジタルビデオカメラを取り出して、さまざまな角度から沙幸を撮り始める。

「……んんっ……ゃっ……ぁっ。
 ぁあんっ、そん、なとこまで……そこ、触っちゃ……だめぇ〜――っていうか、写真はダメだってばー!!」

 肌を真っ赤に染めて、千切れる息をこぼしながらスライムでおおわれて見えない部分をもじもじ揺らしていた沙幸は、突然始まったカメラのシャッター音にそれと気づくが、やめさせようにももう服の大部分が溶かされてしまっているため、立ち上がることもできなかった。
「ふふっ、為す術なくただスライムに凌辱され続けるしかない少女……ああ、いいわ。今のあなた、とってもすてきよ、沙幸さん。
 きれいに、そして色っぽく撮ってさしあげますわよ」
 撮影した分を再生しながらつぶやく美海。
 その出来栄えに満足そうにうっとりとほほ笑んで、美海はますますカメラのレンズをスライムに貼りつかれた沙幸へと向けるのだった。

「ダメったらダメーーーーっ! っていうか、凌辱なんかされてませーーーんっ! ……いやーーーんっ」




 この地へ到着して、わずか数分。
 コアの奇行やセレンフィリティ、さゆみたちの様子に絶句する者もいれば、俄然やる気を燃やす……というか、ハリキっちゃう者もいるわけで。
 そのうちの1人が、何を隠そう、白い雲を浮かべた真っ青な空を背景に、宙に浮かぶモザイクのかかった何か――言わずと知れた、空飛ぶ石本禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)である。

「フーーーーッハッハッハ!! 見よリカイン!!」

「……見てるわよ」
 あまり見たい光景じゃないけど。
「これこそが人として当然あるべき姿! 原始にして最も基本的なものだと思わないかっ!?」
「いーえ、ぜんっぜん」
 これっぽっちも、とリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は鼻を鳴らす。
 河馬吸虎に聞く耳がないのは分かっていた。
「ククク……まさに俺様の完全復活にふさわしい舞台ではないか!! いーぞいーぞ、もっとやれい!」
 ひゃっひゃっひゃ、と笑う河馬吸虎。
 そしてわりと近場にもう1人、河馬吸虎と同じ反応を示す者がいた。

「うーひょっひょっひょっひょっ!!」

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)である。
「見ろよ、あれ! すごいぞーーーっ!」
 むはーーーーーっ!
「いやあ、まさかお天道さまの下で、こぉーんな景色が堂々拝める日が来るなんてなぁ」
 あー、ありがたやありがたや。
 ナムナムと本当に両手をすり合わせて拝んでいるアキラの姿に、ぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)は笑顔でうんうんうなずく。アキラの反応を年相応の若者らしい、健全な反応だと見ているようだ。
 リカインと対照的だが、これはやはり性別の差、あるいは年齢の差というものだろう。決してアキラのパートナーだから、というのが理由ではない。なぜならもう1人のパートナーアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は、全く正反対の目で見ていたからだ。
 見た目は幼女でも中身は年増――げふんごふん
 妙齢の女性であるアリスが向ける目はリカインと同じくシビアである。
 その手にデジタルビデオカメラが握られているのは、この光景をしっかり録画しておいてくれとアキラに頼まれたからだった。
(こんなコト頼むナンテ、アキラはワタシをナンダト思ってるのカシラ?)
 ――まったくの余談ですが、アリスはアキラの首をシメていいと思います。ええ、ほんとに。

 しかしそんな視線まったく感じないとばかりに、服は着ててもすでに心は真裸なアキラは河馬吸虎と「おまえもか!」というふうに顔を合わせると、ひゃっほーーーい、と飛び出して行ってしまった。
 その後ろを
「ぬ〜〜り〜〜か〜〜べ〜〜」
 と、アリスを乗せたお父さんが遅れてどすんどすんとついて行く。
 その光景に、リカインは深々とため息をついた。
「……やっと子守りから解放されたとはいえ、こっちはこっちで問題アリよね」
 何にでもびくつくチキン娘だったころが早くも懐かしい気分だった。
 どっちもどっち、針は両極端に振り切れてて真ん中というのがないところがカバらしいといえばカバらしいが。
 でもまあ、すでに場がこうなってしまっている以上、河馬吸虎の出番はなさそうだ。せいぜいがああやって上を飛び回って「おおっ!」とか「うひひっ」とか言ってるくらいだろう。
「あれはひとまず放っておいて、こっちはこっちで動きましょうか」
 とはいえ、どう収拾つければいいものか……。
「ま、いいわ。とりあえずスライムといったら火でしょう」
 夢想の宴を発動させて、リカインは火炎放射器を背負ったヒャッハーさんたちを呼び出した。

「ひゃっはー! 汚物は消毒だぁーーーー!!」

 と思ったかどうかは知らないが、ヒャッハーさんたちはそういったノリでスライムに向かって盛大に火を放ち始める。
 スライムは真っ赤な火におびえて大急ぎ逃げ出そうとするも、火炎の速度にはかなわない。
「こっちはこれでよし、と」
 スライムが退治されていくのを確認して、あらためて河馬吸虎の方に目を向けたらば。

「おおーーーっとぉ!! スライムが来たぞーー!! あぶない! 逃げるんだーーー!!」

 アキラがワイヤークローで掴んだ小型スライムを思いっきり前方の女性に投げつけているところだった。
 もちろんねらいは怒った小型スライムが溶解液を女性向かって吐きかけることである。
「いいぞーいいぞーもっとやれーー」
 うひゃひゃひゃひゃ! とそれを河馬吸虎ははやし立てている。
 まるで小学生がイタズラでもするような悪意のなさで、いとも簡単に行われているえげつない光景に、リカインは頭がクラクラする。
 保護者がついていたはず、とお父さんの方を見れば、彼はその四角くて大きな壁のような体で文字どおりアキラの壁役になって、彼をスライムの攻撃から守っていた。
 それどころか、体当たりして飛びついてきた小型スライムを、アキラに手渡してやったりまでしている始末。
 アリスだけが
「ねえアキラ。みんなみたいにスライム退治したらどうカシラ? 面白いカモヨ?」
 と提案することで止めようとしていたが、アキラは何を言うんだ、という目でアリスを見返す。

「この状況で俺みたいにならない男は、そりゃホモか単なるやせがまんしてるだけだ。
 みんながそうするからって俺までそうする必要はない! 俺はいつも本能に忠実でありたいっ!!」

 その言葉に河馬吸虎は心底感動したようだった。
「まったくだ!」
「だろう!!」
「心の友よ!! こんなに話の通じる相手に会ったのは初めてかもしれん! 俺様が許す! もっとやれ!!」
「おう!」
 本気でアキラと心を通じ合わせちゃってるらしい河馬吸虎は「あー愉快愉快」とカラカラ笑う。そしてそこでふと何かに気づいたようだった。
「むむ。あれはいかん。この暑いなか、あのようなフードをかぶっていては、熱射病の元だ。
 よーし、今度は俺様の番だ。ひとつ俺様がアシッドミストで溶かしてしんぜ――」
 一番奥で大型スライムに乗ったなぞの占い師の少女に向かい、アシッドミストを放とうとする。
 しかし最後まで言い切る前に、ヒャッハーたちの火炎が河馬吸虎を丸焼きにした。
「な、なぜだリカイン……」
 ひゅるるるる〜〜と墜落した河馬吸虎は、最後の力を振り絞って上半身(あるのか?)を起こす。

「汚物は消毒だから」

 キッパリ言い切ったリカインの言葉を最後に、河馬吸虎はガクリと倒れたのだった。